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クローズUP

セコムと渋谷区 パートナー協定を締結2016.8.21

防災などで地域貢献

セコム(東京都渋谷区、中山泰男社長)と渋谷区(長谷部健区長)は8月9日、防災対策など地域の社会的課題を一体となって解決するための「シブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー協定」を締結した。同社が地方自治体とこのような協定を結ぶのは、初のこととなる。

渋谷区は、民間の優れたアイディアを導入して地域社会の問題解決を推進するため、公民連携による新しいマーケティングプログラム「シブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー制度」を推進中だ。協定先は渋谷区に本社がある上場企業に限定され、セコムは行政のIT化などを目的として8月3日に協定を結んだLINE(出澤剛社長)に続く2社目となった。

協定は“安全安心”をキーワードとした防災、超高齢社会、ファシリティマネジメント、多様性社会などに関する包括的な内容で、同社はグループの強みを活かして地域社会への貢献に取り組む。

協定締結による第一弾の取り組みとして、セコムは9月4日に代々木公園で開催される「SHIBUYABOSAIFES2016」にメインスポンサーとして協賛。同イベントはこれまでの「渋谷区総合防災訓練」をさらに充実、“防災の総合フェス”として開催するもの。同社はブース出展のほか、会場に「セコム飛行船」レプリカの展示を検討している。

同飛行船は“防犯”を目的に今年の東京マラソンなどで活用したが、“防災”にも力を発揮する。飛行船下部に搭載したサーチライトで夜間の避難をサポートし、遠赤外線カメラと指向性スピーカーで避難誘導する機能があり、同イベントで紹介される予定だ。

中山社長の話渋谷区は商業施設が多く昼間人口による日中活動の場・居住生活の場という両面を持つ。そこから生まれる様々な課題に対し、当社の知識と経験を生かし、解決策や新サービスを検討していく。渋谷区と良いモデルケースを構築できた場合、もしニーズがあれば他の自治体に広げていく可能性もある。

長谷部区長の話大規模災害発生に向けて民間の知見を官の計画に連動させ、防災に対する強固な備えを築いていく。国立競技場の一部などが区内にあり、ハンディキャップがある人へのもてなしなど、2020年東京パラリンピックに注目している。オフィシャルスポンサーのセコムと一緒に考えていきたい。

特集ワイド 国交省の社保加入対策 期限は残り半年余に迫る2016.8.21

料金確保、粘り強い交渉で

建設業に端を発した「社会保険未加入問題」。そのきっかけは人材確保と不公正な市場の是正だった。国土交通省が示した加入期限の平成29年3月末まで残り半年余。これまで同省は、どのような社保加入対策を行ってきたのか。来春以降、未加入企業に待っている“次の段階”を想像しつつ、警備業での社保問題を考える。

人材確保と市場健全化

建設業で社会保険未加入問題がクローズアップされるようになったのは、平成24年のこと。同年3月に国土交通省の中央建設業審議会が「建設産業における社会保険加入の徹底について」と題した提言を取りまとめたのがきっかけだ。

同提言は、社保未加入問題への対策を進めることで、(1)建設技能労働者の処遇の向上、建設産業の持続的な発展に必要な人材の確保(2)法定福利を適正に負担する企業による公平で健全な競争環境の構築――を実現する必要があるとした。

以前から建設業では社保問題は「労働3保問題」と言われ、特に建設技能者を多く抱える専門工事業者で、処遇改善や人材確保策の一つとして社保加入への必要性が指摘されていた。しかし、企業のコスト増となる社保は先送りされ続けてきた。

一方で、少子高齢化に伴う労働力人口の減少など、社保対策を早急に進めなければならないほどに、建設業では人材の確保・定着に支障が出てきた。また、「法を守らない企業が仕事を受注できる」という極めて不公正な市場が形づくられ、産業の健全な発展を阻害するものとなっていた。

提言を受けて同省は、対策実施後5年(平成29年度)をめどに、「企業単位では許可業者の加入率100%、労働者単位では製造業相当(90%)の加入状況を目指す」という目標を掲げ、社保問題に着手した。

まず行ったのが「社会保険未加入対策推進協議会」の設置(24年5月)だ。建設関係の総合工事業者(ゼネコン=元請企業)と専門工事業者(サブコン=下請企業)の84団体、学識経験者、行政(同省と厚生労働省)から構成される協議会で、課題認識や取り組みの方向性などについて共有化が行われた。

同協議会の初会合では、同省担当局長が「われわれは“パンドラの箱”を開けた。もう後戻りはできない」と述べ、同省の社保問題解決への強い決意を示した。

同省はその後、公共工事入札時の企業評価制度である「経営事項審査制度」での社保未加入企業の減点幅の拡大(24年7月)、建設業許可更新時での社保加入状況の確認・指導(24年11月)など、法令や制度改正を矢継ぎ早に打ち出した。

労務単価が大幅にアップ

これまで社保加入が進まなかったのは、その原資の手当てができなかったため。そこで国交省は、社保加入に必要な法定福利費相当額を反映して「公共工事設計労務単価」を平成25年度分から毎年大幅に引き上げた。

今年2月から適用された同単価は、「交通誘導警備員A・B」を含む全国全職種平均で1万7704円。これは27年2月比で4.9%増、24年度比では34.7%増となる。

今年5月、同省は第6回の「対策推進協議会」を開いた。席上、同省幹部は「29年度以降でもお目こぼしがあると思っている人もいるようだが、それはない。しっかりけじめをつけていく」と述べ、建設業界団体関係者に加入促進を再要請した。

また、今年度行う取り組みとして、(1)地方公共団体発注工事からの社保未加入企業の排除(入札契約適正化法に基づく自治体への要請)(2)立入検査による見積書の活用徹底(3)未加入の労働者の扱いについての明確化(4)全国社会保険労務士会連合会との連携強化による相談体制の強化――などを示した。

これら取り組みは順次実行に移され、今年7月に同省は「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」を改訂。また、同ガイドラインで示していた「29年度以降、社保未加入の作業員は、特段の理由がない限り現場入場を認めない」に関し、その“特段の理由”として「60歳以上で厚生年金未加入(雇用保険未加入は入場不可)」などを明示した。また、この場合であっても「あくまで特例的な対応であり、引き続き加入指導を行う」とした。

警備業、今後の取り組み

警備業では当初、国交省の社保対策に対して「建設業のこと」といった意見もあったが、公共工事に従事する交通誘導警備員の設計労務単価が引き上げられたことや、社保加入下請指導ガイドラインで、「建設業の許可の有無にかかわらず、下請企業に社保加入指導を元請企業が行うこと」とされていることなどから、「社保未加入は警備業であれ現場から排除」が一般的な見方となった。

全国警備業協会では、これらの動きを受けて全国各地で社保加入へ向けた研修会などを開催、加盟各社の取り組みを支援してきた。その結果、以前に比べて社保加入は進んできたものの、国交省の示した加入率には多くの企業がまだ到達していないのが実情だ。このため全警協は今年3月、社保加入率を踏まえた加盟員の入会基準の見直しや役員就任規定の見直しなどを内容とする通達を都道府県警備業協会に出し、加入促進への取り組みを求めた。

警備業で社保加入が進まない理由として挙げられるのが、「元請建設会社が法定福利相当額を含んだ警備料金を払ってくれない」だ。しかし、昨年秋から大手ゼネコンを中心に、下請企業から提示された法定福利費相当額の全額払いが進んでいる。また、国交省は建設工事で警備員の費用を、これまでの「間接工事費」から「直接工事費」に計上することとし、建設企業が適正な警備料金を支払える環境づくりを行った。言い換えれば、官は「やるべきことはやった」のだ。

今後は、民と民との問題。警備会社と建設会社の交渉だ。事実、社保加入を実現した警備会社の多くでは、建設会社との粘り強い交渉を続け、警備料金アップを勝ち取ってきた。それを拒む建設会社とは、取引中止という“苦渋の選択”を行った会社もある。

さらに、社保問題は建設業や警備業など一部の業界だけの問題ではなくなった。

今年1月には国会で、本来は厚生年金に加入する資格があるにもかかわらず、国民年金に加入している人が全国で約200万人程度、未加入事業所が約79万社程度あることが判明した。安倍晋三首相は国会答弁で塩崎恭久厚労相に早急な対応を指示、塩崎厚労相は未加入事業所の調査を言明した。

これを受けて日本年金機構は現在調査を進めており、2年間に遡る保険料の支払い要請などが全国的に相次いでいるようだ。

さらに、厚労省は「悪質な厚生年金逃れには刑事告発もあり得る」とし、健康保険と厚生年金保険の未加入への「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」、雇用保険では「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が現実味を帯びてきた。