警備保障タイムズ下層イメージ画像

トップインタビュー

「人材確保と定着」我が社の取り組み㉒2016.12.21

八木正志さん 優成サービス 代表取締役

得意なことを引き出す

――神奈川労働局が10月に開催した「高齢者雇用セミナー」で“生涯現役の職場づくり”をテーマに講演をされました。高齢者が警備業で活躍するためのポイントは。

事業主による健康管理と適切な配置の2点です。健康管理では、警備業務に理解が深い産業医を選任しています。労働安全衛生法で産業医の選任が義務付けられるのは労働者数が常時50人以上の事業場です。当社は30人ほどで義務はありませんが健康を重視し、警備員の仕事内容を知っている医師を付けて健康診断を行い、肥満や高血圧、既往症などについてアドバイスをもらっています。

次に、本人の適性を見ながら働きやすい配置とシフトを心がけます。交通規制の得意な人もいれば、歩行者のご案内に向いた人もいて、適材適所が大切です。

65歳だった定年を70歳にして、その後も希望者は嘱託社員として継続雇用します。嘱託になると賃金が下がる場合が多いようですが、当社は下げません。

定着は良く、20年以上の警備員が10人近くいます。最年長は74歳で、3日続けて出勤したら必ず1日休むなど、無理なく働けるように配慮します。

――熱中症対策として制服(夏服)を通気性のある脇ネット付きに変え、反射板を備えた特注品の安全靴を導入しました。

高齢者は俊敏さなどの身体機能が低下するので、労災事故を防ぐ装備と教育に力を入れています。より安全に働ける環境づくりは事業主の責任です。

――60代の警備業務検定を応援しています。

受講費用は会社が全額負担し、送り出しの教育も行って、65歳を過ぎた警備員も資格を取得しました。有資格者は若手も含めて、交通誘導警備業務1級が2人、2級が15人です。毎月の資格手当を付けているのでモチベーションも上がると思います。

警備員の個性を把握して得意なことを引き出し、業務に役立てることは、高齢者も若者も同じです。近年は顧客企業がクレームに敏感であり、警備先での丁寧な応対はクレーム予防になります。近所の方々と円満なコミュニケーションを図る高齢警備員は、年の功で活躍できます。若者と高齢者が一緒に働ける場を拡大することが大切になると思います。

――若者の定着も課題です。

20代の警備員は6人ですが、息子(八木優取締役)が中心になって若者だけで親睦会を開きます。話がはずみ本音も言えるようです。仕事上の悩みや希望、プラベートの相談なども聞いた上で、会社として応援する姿勢が定着のためには必要です。

募集はハローワークと新聞チラシで行います。長期間にわたる公共事業の警備を受注しているので、“長期”“安定”を打ち出しますが、なかなか集まらないのが現状です。人手不足であっても採用時の確認は慎重に行わねばなりません。

――適正料金の確保のために必要なことは。

当社は警備業に加えて建設業の許可を平成11年に取得しており、警備業以外にも移動式クレーン、玉掛け、高所作業車の資格を警備員が取得しています。専門知識があれば、現場の事故防止策などの面で、より質の高い警備が行えます。例えばクレーンの作業半径の通行禁止も、クレーンに関する知識を持っていることで、より確実かつ円滑に歩行者の安全を守れます。付加価値によってユーザーの信頼を得ることは適正料金に結びつくと思います。

――車いすに乗った人も利用できる「福祉バイオトイレカー」を開発して、東日本大震災や熊本地震の被災地支援など、ボランティア活動を行っています。

8年ほど前、交通誘導警備で使えないかと移動式トイレを設置した車両を考案したのが出発点です。その後、体の不自由な方との出会いがあり、福祉に活用してもらえないかと考えて改修を重ね、法令上の基準をクリアしました。

北海道苫小牧市は本年度、福祉活動の公用車として当社のトイレカーを導入します。日産自動車グループのオーテックジャパンがトイレカーを製造し、小さな警備会社でスタートした取り組みを行政に認めていただけたのは嬉しいです。少子高齢化が進む世の中で、警備業はこれから、福祉サービスとの関連が一段と重要になっていくと考えています。

「人材確保と定着」我が社の取り組み㉑2016.12.11

村井裕一さん 日相警 代表取締役

希望する業務を選べる

――創業して半年ということですが、会社案内には大規模なイベントや有名施設の警備実績が紹介されています。

私は警備業界で30年勤務してきましたが、多くの現場で警備隊長を経験するとともに、業務に広く携わってきました。プロとして質の高い警備を提供することは当然ですが、それを発注元にアピールしたり顧客開拓する営業もやりましたので、経験を活かしてよいお客さまに恵まれています。それがまた大きな信頼となり、次の新規開拓につながっています。

――長年、警備会社に勤務して、独立しようと思った理由は?

私の父は既に53歳で他界していますが、創業間もない大手警備会社に昭和41年に入社し、その後独立して千葉県柏市で警備会社を立ち上げました。私は18歳のときから父の会社で勤務しましたがその後ある警備会社に移り、20年間お世話になりました。円満退社したのですが、何人もの部下から連絡があって「また一緒に仕事がしたい」との言葉をもらい、自分が培ってきたものを試したい気持ちになったのです。

――会社の敷地面積は、コンパクトです。

私を含め警備員経験者8人、新たに入社した5人でスタートしましたが、見栄を張って大きな事務所を構えるより、まず社員の生活を考え利益をできる限り還元したいと思いました。最寄り駅に北千住を選んだ理由は、JR、東京メトロ、東武鉄道が交差する駅で、交通の便がよく人材を確保しやすいと考えたからです。

――募集状況はいかがでしょう。

ハローワーク、ウェブ、フリーペーパーを利用してきましたが、反応は少ないです。面接まで漕ぎ着けても当日キャンセルが入ることもあります。具体的には、求人情報誌と求人ウェブで募集をかけたところ、3週掲載して連絡があったのは10件、面接をしたのは3人、採用は1人という状況でした。

今後は学生向けの登録制ウェブも活用してみるつもりです。従業員から友人や知人を紹介してもらうこともあります。人物は確かだし、すぐに辞めてしまうことは少ないのです。

――従業員から紹介があるのは、本人が仕事に満足している証拠です。定着への取り組みは?

 入社後すぐにヒアリングして、本人が希望する業務を選択してもらいます。大型イベント施設における催事案件・コンサート・展示会などの雑踏警備、周辺道路の駐車車両の排除、シャッター開閉時の出入管理、百貨店・劇場の警戒監視業務等の警備を行っています。

退職を申し出る社員に対しては、違う業務を経験してみることを提案します。孤独に耐えられない、また仕事にやりがいや充実感を見出せないという退職理由が多いからです。

――適正料金は確保できますか。

発注元の理解を得て、適正額を確保しています。受注案件は多く人材が豊富ならもっと売り上げを伸ばせますが、現在、従業員が生活できる利益は確保できているので運営上の問題はありません。

――社会保険の加入については?

創業時から全員加入しています。1期継続中で決算書がないし、貸借対照表の内容もまだ十分ではので、コンプライアンスは厳守しないと信頼を得られません。賠償保険も十分な補償額のものに加入しています。

――これから会社をどの方向に舵取りしていきますか。

 今後のビジョンとしては、人材育成に力を入れて警備の質をさらに上げること、正社員に一戸建てを購入できる賃金を払えるぐらいに経営基盤を固めることの2点を目指します。

従業員の年齢層は20代前半の学生から70代まで幅広く、平均すると40代です。家庭を持っている社員もいて協会けんぽを通じて健康診断をしていますが、労働環境や待遇面をさらに改善していきたいです。

 当社ホームページにも明記していますが、基本姿勢として「ヒューマナイズド・セキュリティー」を打ち出しています。質の高い人的警備を提供すべく警備員教育には力を入れており、私自身も制服を着て現場に出ます。管理者が制服で現場につくことには賛否両論あると思いますが、ユーザーに対しては「会社一丸となり誠意を持って取り組んでいる」という姿勢をアピールできます。それが次の受注につながると思うし、適正な警備料金の確保にも結びつきます。

「人材確保と定着」我が社の取り組み⑳2016.12.1

横田章次さん 横田商事 代表取締役

多角経営で待遇改善めざす

――警備業に加えて、飲食業をスタートさせました。

フランチャイズの麺料理「ちゃんぽん亭総本家・高知店」を今年7月にオープンしました。「長崎ちゃんぽん」ではなく、滋賀県彦根市発祥の「近江ちゃんぽん」です。

――開業4か月。店は繁盛していますか?

おかげさまで上々です。近くにラーメン店が2軒ある激戦区ですが、特製自家製麺と旨味・風味にこだわったスープで、味には自信があります。飲食店を出すことは4年前から計画していて、東京ビッグサイトで毎年3月に開かれる「フランチャイズショー」にも足を運んで検討を重ねました。

経営の多角化に踏み切った理由は「人材確保と定着のため」です。実は半年前に当社の警備員が何人か、ほかの警備会社に移りました。その原因は待遇面でした。当社は全社員が社会保険に加入していますが、転勤先の警備会社は未加入で、その分手取りが多い。社保加入の意義を理解してもらえなかったことが残念です。

――警備員の待遇を上げるには、原資が必要です。

適正料金を確保しても十分な原資にできないことから、警備業を軸としながら他業種の事業にも乗り出すことにしました。収益性を高めて社員に還元し、求人効果と社員の定着率向上を目指すことにしたのです。

全国的に警備員の求人広告を出しても反応が少ない状況ですが、その理由として、業種のイメージが良くない、低賃金である、仕事に達成感が少ない、などが挙げられます。当社は警備員の処遇改善から課題克服につなげていきます。

これは私の持論ですが、仕事ができる人は、仕事が変わってもまたよい結果を残せます。つまり企業は良い労働環境や待遇を準備しなければ、有能な人は去っていく可能性が高い。

開業した店の店長と副店長は、当社の元警備員です。2人とも質の高い警備を行っていましたが、飲食業の仕事にも興味を持っていたので、新たなやりがいを見つけて張り切っています。

――警備業で今後、多角経営が増えていきそうな気がします。

私の実家は土佐市でスーパーマーケットをやっていて、大学卒業後は実家の仕事を手伝っていました。その後、建設業の会社勤務を経て独立し当社を創業しました。もともと商売が好きなこともあり、はじめは警備業の制服や備品の販売業でしたが、今は警備業が主業務です。常に柔軟な思考を心掛け広い視野で判断するようにしており、それが多角経営につながったと思います。

――横田さんが代表を務めている「高知家警備塾」も、発想の柔らかさから生まれた?

「高知家」とは県の振興キャンペーンの名称で「高知県はひとつの大家族」という意味です。「高知家警備塾」は、県内警備会社の若手経営者で構成する有志の集い。同世代で横のつながりを持ちながら法令遵守と警備のレベルアップを図り、県内の警備業の質を向上させることが目的です。

協会加盟・非加盟の会社を合わせて、9社が所属しています。毎月、第3月曜が定例会でテーマを決めて意見交換と情報交換、第3水曜に防犯活動を行っています。

社会貢献の一環として、子どもの見守りを主とした防犯パトロール、防犯の広報・啓発を目的としたチラシ配りのほか、AEDを使った救急処置の講習会、社会保険労務士などを講師に招いて研修会を開いています。

――経営者の世代交代が始まっています。警備業の可能性もさらに広がっていくのでは。

状況は少しずつ変化しています。例えば交通誘導警備員の積算基準が共通仮設費から直接工事費に変更されました。警備員がようやく資機材ではなく作業員として扱われるようになったのです。この1歩は業界にとって“大きな1歩”だと思います。警備員の慢性的な人手不足も後押ししたのではないでしょうか。

次に期待したいことは、交通誘導警備が建設業とは別の“独立発注”となることです。全工期の作業を直接請け負うことで収入が安定し、事業計画がたてやすくなります。少なくとも、社員を月給で雇用しやすくなると思います。