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トップインタビュー

「働き方改革」我が社の取り組み2017.10.21

工藤勲さん(エム・エス・ディ 代表取締役)

マイホーム取得を助成

――求人の状況はいかがでしょう。

主にネットの求人誌を活用しています。1号業務は安定した応募がありますが、2号業務に応募する求職者の多くは他業種にも同時に応募していて、賃金や待遇面で負けてしまうこともあります。採用できた人でも、夏の猛暑や屋外業務の大変さを理由に試用期間中に退職する人も多いです。しかし悲観せず、地道に他業種に負けない環境作りを行っています。

――どのような環境作りを?

福利厚生の充実に重点をおき、2号業務の警備員に対しては5年前から個人単位での中小企業退職金共済加入を推進しています。「頑張って勤務期間を増やすことで、何年後にはいくらになる」と面接の段階で丁寧に説明し、掛け金は事業所で負担しています。

――社員の定着につながります。

ほかに昨年から始めたのは、年齢制限はありますが3年以上勤務している社員に対する「マイホーム取得の助成」です。金融機関と職域サポート契約を行うことで金利等の優遇を受けられ、今年は2家族が家を建てました。

また定期健康診断の結果を機に、禁煙やジョギングなど継続的な運動をすることを宣誓してもらいます。それに対して「禁煙で2万円」などの手当を支給し、健康管理の促進を図っています。

――どれも画期的な取り組みです。

資質の向上については社員数が少ないことを活かし、2号業務は創業以来、全員参加型の警備員教育を行っています。統一した業務提供ができるように基本の徹底と継続維持を原則とし、基本の反復練習を徹底して行います。実務に即した教育を行うために、実際に車両を走行させられる広い駐車場がある施設を借りています。そこでグループに分かれて実技訓練を行い、それに対して危険予知など他のグループと様々な視点から意見交換を行います。

またクレームがあった契約先の責任者の方に参加していただき、再発防止に向けた講義をお願いしています。

――労災対策はどのように?

熱中症対策としてウォータージャグと粉末のスポーツドリンク、冷却タオルを支給し、現場への携行を社内規定で定めて使用を義務化しています。それに加え夏場の業務においては契約先に事情を説明し、休憩がちゃんと取れるよう、交代要員の増員をお願いするなど対策を講じています。

当社がある松本市では警備業協会の地区長が中心となり、2号を主業務とする会員の工事現場へ所轄警察署の担当官同行による安全パトロールを年4回、実施しています。1回に3社3現場ほど周り、次回に現場提供する3社の担当者など総勢約10人で行われます。会員他社の管理など非常に参考になり、刺激を受けています。

――自家警備問題については?

私は建設業界に警備員不足という警鐘を鳴らす意味では「プラス」と捉えています。それが安易に推奨されれば業界の衰退につながりかねず、我々警備会社の姿勢も問われますが、適正な警備料金を確保するための材料にもなります。交通量や時間帯、工事の進捗状況により誘導方法を変更するなど専門的な要素を多く含む“プロフェッショナルな業務”であることを、標準見積書を活用して契約先に理解してもらうチャンスです。

当社は小企業ですから、特定の契約先がほとんどです。契約先が公共事業を落札し施工計画を策定する段階から、当社の営業担当者と現場代理人など契約先担当者が工程のすり合せをします。そして着工時期や増員配備など先方の希望を考慮し、当社が受注調整を行った上で人員配備を行っています。そうすることで依頼を断ることなく、また価格競争にも巻き込まれず、警備料金改定などの理解を得ることもできます。

――休憩時間の扱いや時間外労働が、運送業や広告代理店同様に警備業でも問題となっています。

全国警備業協会の理事会で3年前に決定した「警備業経営者のための倫理要綱5項目」に基づく、経営者の意識改革が必要だと思います。生活安全産業である警備業として、この問題には即刻取り組まなければなりません。本来、企業の発展は、法令遵守の上に成り立っているはずです。企業が継続的に発展するために、確かな原資を確保し法令遵守や適正な労働環境の整備を行うことが必要不可欠だと経営者が気付くことで、状況は大きく変わるのではないでしょうか。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2017.10.11

須賀秀明さん 植野隆司さん 小川隆さん
(DNPファシリティサービス)

チームワークで救命活動

埼玉県久喜市にある大日本印刷(DNP)久喜工場で先頃、荷物搬入業者の運転手が倒れて心肺停止となり、DNPファシリティサービスの警備員が救命活動を行った。松下則政統括リーダー、須賀秀明グループ長、植野隆司班長、小川隆氏の4氏に久喜消防署長から感謝状が贈られた。

――当日の状況を聞かせて下さい。

須賀 「パネルトラックの荷台で人が倒れている」との知らせを受けて私が119番通報し、植野と小川はAEDを持って現場に急行しました。荷台は箱型で内部は暗いため松下リーダーがハンディタイプのサーチライト2基を用意した上で救急隊を正門から現場へ誘導しました。

通報時に、倒れた場所(箱型荷台の中)や意識がなく生命に危険があるなどのポイントを伝えたことで救急隊に加えて消防隊が連携出動し、現場に大型機器を持ち込んで救命措置を行いました。

――通報する時に大切なことは。

須賀 的確な通報は、日ごろの訓練の賜物と思います。久喜工場は24時間稼働で従業員は千人以上、警備員は12人の体制です。私たちは、火災発生や傷病者など“緊急時のシナリオ”を一人ひとりが作成した上で、適切な通報や館内放送を想定する「日々訓練」に励んでいます。また、心肺蘇生は1秒でも早く行う必要があり、指示を待っていては手遅れになる恐れがあります。植野と小川は私が通報中に警備室を飛び出しました。

――胸骨圧迫を行っている時はどのような思いでしたか?

植野 倒れた運転手の方と面識はなかったのですが、50歳くらいで自分と同世代です。“生きてほしい、絶対に生きてほしい”と願って胸骨圧迫を繰り返しました。

通報から救急隊が到着するまで7〜8分でしたが、その間にAEDのメッセージに従って電気ショックを2回実施し、胸骨圧迫を小川と交互に行いました。救急隊による病院搬送の後、すぐに脈拍が戻ったそうです。

小川 訓練で使うダミー人形は胸部がへこみますが、生身の胸骨は硬く、懸命に力を込めました。顔を見ながら行ったのですが、意識がない状態であっても人の表情は動くと知りました。

――小川さんは「上級救命講習」を修了したばかりでした。

小川 DNPの工場に設置されるAEDが増えており、救命措置のスキルアップに会社全体で取り組んでいます。応急手当に関する技能を更に高めたいと思い、消防署で8時間の講義を受けました。

しかし実際に現場に駆け付けて倒れている人を見た時は正直、非常に緊張しました。その時に植野班長から「絶対に助けるぞ」と力強く声を掛けられたことで、スッと平常心に戻って対応できました。運転手の方はその後、順調に回復されたと聞いて、本当に良かったです。

――通報、AED、照明、誘導、それぞれの役割分担による迅速な救命活動の好事例となりました。チームワークの秘訣は?

須賀 訓練の積み重ねとコミュニケーションに尽きます。チームワークの核になるのは互いの信頼関係です。コミュニケーションを重ねることで信頼感は深まります。交代時の申し送りを丁寧に行うなどして必要な情報を全員が共有していることは大切と考えます。

小川 いざという時も平常心を保って適切に対処できることが大事と実感しました。私は前職で職場の安全衛生に関する業務を担当していたので、KYT(危険予知トレーニング)など安全に役立つ知識を、警備の現場でさらに活用できればと考えています。

――警備業界の人材確保対策で職場環境の整備、職場の良好な人間関係が重要となっています。

植野 私は前職で洋菓子の営業をしていて百貨店に行く機会が多く、施設の警備員に親しみを感じたことから警備業を選びました。

現在の職場は規律正しいと同時に、何でも率直に話せる雰囲気があります。余談ですが、須賀グループ長の息子さんは売り出し中の漫才コンビ(Wアップ)で、私もライブを見に行ったりします。

須賀 私は入社22年目ですが、ベテランの役割は“警備業を選んで良かった”と皆が感じてモチベーションが上がる雰囲気づくりと、経験で得たノウハウを伝えることだと思います。単に仲良しのグループではなく、それぞれがスキルアップを図って高め合うチームづくりを心掛けて業務に取り組みます。