警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

人手不足 「働きやすさ」の追及を2016.12.21

今年も残すところあとわずかとなったが、皆さんにとってどんな一年だっただろう。警備業界で特によく聞かれた課題は「人手不足」だった。

昨年から続くこの問題は、今年に入ってさらに深刻だ。厚生労働省によると、10月の警備員の有効求人倍率は全国で6.86倍(全業種では1.40倍)で前年度比1.5ポイント増となった。

2号業務に限定すると、求人倍率はさらに高い値となる。福岡警協は10月31日、福岡市から会員企業への「交通誘導警備員の不足に関するアンケート」を依頼された。年度末に向けて公共工事が増加する中、警備員の確保が困難になっている危機感からの要請だという。アンケートの結果は11月14日に提出し、現在福岡市でとりまとめているところだ。

本紙では4月から「人材確保と定着、我が社の取り組み」と題した企画をスタート。これまで22人の経営者にインタビューし、各社で講じている取り組みを具体的に紹介してきた。その中にはウェブサイトで大規模なイベント警備のドキュメンタリー映像を紹介したり、「ポケモンGO」など人気ゲームのコミュニティでツイートする斬新な求人方法を採用する経営者もいた。

求職者のうち、1980年代から2000年代生まれの「ミレニアル世代」は、幼い頃からデジタル機器やインターネットに接し、SNSに積極的に参加している。特に中途採用ではスマートフォン検索で仕事を探す傾向があるため、ウェブ(ネット)応募を採用する企業が増えてきた。中には求人ページに「チャット窓口」を作り、求職者からの質問にリアルタイムに返信する企業もある。従来はハローワークや紙媒体を活用する求人方法が主だったが、時代と共に広がりを見せており、求人にも柔軟な発想力が求められている。

求人広告の反応が薄いことから、在籍する社員の定着に的を絞る経営者もいる。地方に拠点を置くある若手経営者は「古い慣習と思われがちですが、部下との“飲みニケーション”は必須です。また社員で一緒に登山したり、仕事以外の遊びの時間を共有することで人間関係を深めています」と語る。社員の定着がうまく実現している経営者からは、「直行直帰による孤独感や対人関係などによる心のケアに個別対応することが重要」という声が多い。

厚生労働省は「働きやすく生産性の高い企業・職場」の表彰を始めた。労働生産性向上と同時に魅力ある職場作り(雇用管理の改善)が実現している企業や事業所を、8月から10月にかけて広く募集した。選考結果は来年2月に公表予定だが、応募された事例の一部は既に専用ポータルサイト(http://www.koyoukanri.mhlw.go.jp)に紹介されている。今のところ警備業の事例はないが、他業種でも社員定着のためのヒントが見つけられるはずだ。

来年は東京五輪パラリンピックなど国際イベント開催に向け、競技場の建設や周辺環境の整備などによる“警備員特需”がさらに進む。質の高い警備と営業力で適正な警備料金を確保し、社員の処遇向上と、働きやすい職場環境の整備を図ることは当然だ。

それに加えて、柔軟な思考で効果的な求人方法を見つけ出し、社員を大切にする経営者の姿勢が鍵となり、人材確保に結びつく。

【瀬戸雅彦】

女性活躍 定着アップの環境づくり2016.12.11

若者が集まらず、女性が少ない――人手不足に悩む警備業界の人員構成の特徴だ。警察庁の「警備業の概況」(平成27年)を見ると、警備員53万8347人のうち女性は3万1013人で、わずか5.8パーセント。ところが“30歳未満”では、5万7947人のうち女性は8717人で15.0パーセントを占めている。若年層に限れば女性の割合は、およそ3倍にふくれ上がる。これは“警備は男性の仕事”という先入観などから就業を敬遠する女性が、若い世代では比較的少ないこともあるのではないか。

しかし“30~39歳”の女性警備員は、30歳未満の半数余りで4814人、7.1パーセント。結婚や出産、子育ての時期を迎えて、やむをえず離職する女性の多い年代だ。年齢が上がるにつれて男性が増えて、女性の割合は下がる。

女性警備員の在職年数を見ると、“1~3年未満”が8617人、“1年未満”が7396人で、合わせれば女性の半数となる。在職10年以上の警備員は、男性が11万3337人に対し女性が5202人だ。

東京五輪・パラリンピックに向けて、ボディチェックや更衣室・授乳室の巡回、ソフトな対応など女性警備員の活躍は今まで以上に広がる。一方、2号警備では着替え場所の問題など、女性にとって厳しい職場環境が横たわる。

少子高齢化が進み、労働力の奪い合いが起こる中、警備業で働くことを選んだ30歳未満の女性がより長く定着できるように、<働きやすい環境づくり>を急がねばならない。具体的には短時間勤務、育児・介護休暇制度などの導入が挙げられる。ワーク・ライフ・バランス<仕事と生活の調和>に経営側が意識を深め、子育てや介護をしながら働きたい人を応援することが大切になる。

発足2年目の東京警協女性経営者グループ「すみれ会」が11月17日に開いた研修会は「警備業界で働く女性を輝かせるメイクアップ法」をレクチャーした。

ファッションショーを手がけるメイクアップ・アーティストが、モデル役の女性の顔にナチュラルメイクをほどこす過程を、警備員や内勤者など55人の女性が熱心に見つめてメモをとったり質疑応答を行った。その真剣な雰囲気に、“崩れにくいメイク”や“日焼け対策”は、警備現場に身を置く女性にとって切実なものだとわかった。

参加者に感想を聞くと、20代の事務職の女性は、「役立つメイクのポイントを明日から社内に広めたい」と話して、こう付け加えた。「(警備業界で)こんな講座が開かれるとは思っていなかったです」。

すみれ会の五十嵐和代担当理事(五十嵐商会)は、女性の定着につながる施策の一つとして「シスター制度」を提唱している。これは新人に女性の先輩が一定期間、“お姉さん”のように付いて、指導を行ったり相談に乗る仕組みで、さまざまな業種で新人育成に導入されている。

「警備の職場では上司や同僚、関係者のほとんどが男性という場合がある。職場で女性が不安を持ったり、孤立することがないように組織で対応することが大切です」と五十嵐理事は指摘する。

働き方は男女とも多様化している。勤務体系を整備し、新たな制度を取り入れて女性活躍の取り組みを進めることは、若い男性の雇用拡大にも結びつくはずだ。

【都築孝史】

効率賃金 課題克服に期限はない2016.12.1

ほとんど忘れていた記憶の中から“欠片(かけら)”を思い出した。<効率賃金>という語句である。その昔、一般紙の経済記者で「春闘」を担当した折のこと。賃金にまつわる問答でベンチャー企業の経営者が口にした。

「効率賃金? はて?」こちら、その意を解しかねて首をかしげた。ここは<聞くは一時の恥、聞かぬは……>である。「何、それ」。彼はこう説明したのだった。

「(効率賃金とは)従業員の生産性を上げるために支払われる世間相場以上の賃金のことだよ。同業他社より高い賃金をセットすることで、労働者の努力と効率性が上昇し、企業経営の利潤が増加に繋がるという考え方なんだ。簡単なことではないし、理想に近い理論と言えなくもないがね」。

なぜ今、このことを思い出したのか。それは先月、金沢市であった中部地区連・会長会議での議論を取材したのがきっかけだった。そこでは、ダンピングを廃し、適正な警備料金の確保が話し合われた。

その一場面。<とくに小規模な1、2号会社は、発注者からのコストダウンの要求に対し、言いなりにならないための優れた営業マンを育成・教育する必要性>の発言があった。参会者の耳目を集め、多くの賛意が寄せられたのだ。

そのとき筆者は、効率賃金を思い起こし、適正賃金に重ね合わせてみた。営業マンが学習して、根拠のある警備料金をきちんと示し、納得する収入を確保すれば、現場の警備員だって張り切って質の高い仕事に励むだろう。営業マンの理論的能力の備えは、あまねく、会社全体の波及効果となるであろう。

もっと先を想像した。一つは、財務基盤が健全化したときの対処である。経営者は、効率賃金を賦与して、働く社員への報酬と待遇の改善を図る。社員は、やりがいを感じ、健康にも留意して、日々の仕事に創意をもって取り組むだろう。

二つ目は、新規採用に及ぼす効果だ。求人の募集に際し、初任給の中に効率賃金を加味するとどうなるか。人手不足に頭を抱え、員数合わせだけの採用にも四苦八苦する状況から抜け出られるのではないか。「人材の定着と確保」は、本紙が終面で長期連載しているタイトルでもある。

手元に参考になる報告文書がある。10月初め、東北地区連・会長会議で了承された「経営健全化推進の道筋形成」に盛り込んだ1項目だ。そこには、「実在の“A社”の求人チラシ」が添付されていた。これなどは、効率賃金に近い例ではないか。次のような内容だ。

<日給1万5000円~>・<月給(22日勤務)33万円以上可>・<入社時より雇用、健康、厚生年金保険加入>・<家族手当、妻(扶養者)月1万円、子供(1人に付き)月5000円>・<賞与、営業実績と勤務評価により支給>・<年次有給休暇、入社6か月より取得>・<退職金、入社3年後より支給>etc。

秋の各県会長が参集する地区連・会長会議は、先月末の四国地区で終わった。議題は総じて、社保未加入、適正料金、人手不足問題の3点に絞られた。それぞれ個別ではなく、三角形で結びつく“トライアングル課題”だ。各地区、取り組む熱意に温度差はあったが、総括すれば、<経営者の意識改革>という原点に立ち帰らざるをえなかったように思われる。

社保未加入問題は、その最たるもの。今年初め、安倍首相は国会で、厚生年金の加入を逃れようとする会社への指導強化を表明した。警備業界も重く受け止めはしたが、成果は未だしである。前進の歩みを止めないでもらいたい。

【六車 護】