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視点

官民一体 テロ対策に“民間の目”を2016.5.21

伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)が、目前に迫った。

警備の陣頭指揮をとる三重県警・森元良幸本部長は「“官民一体の警戒”が欠かせない」と強調している。会場となる賢島(かしこじま)(志摩市)は観光地であり人々が生活していることから、“生活空間で開催されるサミット”となる。

警察と行政、民間企業、地域住民が連携する“官民一体”は、日本特有の警備手法だ。海外の多くの国では治安機関に強い権限があり、令状なくテロの容疑者を拘束したり大規模な監視カメラのネットワークを構築している。治安が悪いことから国民の理解も得やすい。しかし、それは日本の現代社会には馴染まないやり方だ。

会場周辺と同様、主要都市でも官民連携の警戒が必要だ。2005年スコットランドのサミット開催初日に、会場から600キロ離れたロンドンで、地下鉄3か所と2階建てバスが同時に爆破され、50人以上が犠牲になった。

人が多く集まり警備が脆弱な場所はテロの標的になりやすい。パリとブリュッセルで発生した同時多発テロで、その傾向は一段と強まった。警視庁は東京が“主戦場”になるとの見解から、4月下旬に都内の警備をシフトアップ。5月中旬から最高レベルに引き上げ、駅や大型施設、繁華街を中心に機動隊員・警察署員を増強した。

テロリストは海外のテロ組織だけではない。日本人によるテロは、社会への不満が動機となることが多いという。2007年、フリーター(37)がラッシュ時の都内満員電車を爆破しようとした計画を未然に防いだのは、薬局店員から警視庁への1本の電話通報だった。手製爆弾の原料となる薬品・肥料などの化学物質を扱う薬局・ホームセンターなど民間業者との連携も重要だ。

安心安全のプロフェッショナルである警備業への社会からの期待は大きい。2月の「東京マラソン2016」では、スタート・フィニッシュ地点で警備員と警察官が協力して手荷物検査を実施した。セコムは一部のランナーに顔認証による本人確認を行い、飛行船による空からの監視と、不審なドローン接近を感知した際に警察に連絡するドローン検知システムを設置。先端技術を活用した警備は2020年東京五輪に向けて官民合同で進められていく。

今月2日に開催された「第26回仙台国際ハーフマラソン大会」は、20・21日に仙台市内で開かれるG7財務省・中央銀行総裁会議を視野に、テロを警戒した特別警備体制がとられた。柱となったのは警備員の増強と防犯カメラの設置だ。警備を担当したトスネットは、例年280人の警備体制に40人を増員し、防犯カメラ10台を提供した。宮城県警は、情報収集用カメラを装備したヘルメットを着用し、厳戒体制をとった。

テロを計画する犯人は、現場を撮影したり、警備員や防犯カメラの設置状況をチェックする。警備員と目が合うと顔をそらし立ち去るなど、不審な行動をとる。安全な街とは、監視する目が多い街のことだ。落書きやゴミ捨てが多かったり、他人に無関心な大都市は、犯罪が起こりやすい。

これから国際的な大規模イベントが続く。不審者・不審物を発見し通報する“民間の目”が必要だ。警備業は官民一体テロ対策の“民”の中核として、日常業務の中での監視・警戒を、これまで以上に意識付けたい。

【瀬戸雅彦】

安全強化 異業種と結ぶ警備業2016.5.1

安全安心に対する社会のニーズが高まるとともに、警備業と異業種の連携は広がる。セコムはデイサービス最大手のツクイと昨年10月に業務提携した。ALSOKは今年2月に総合防災企業の日本ドライケミカルと資本業務提携した。また同社はセゾン自動車火災保険と連携して、4月から交通事故の現場に警備員が駆けつけるサービスを開始している。

今後も、テロ防止・安全強化に向けて観光・旅行業との緊密な連携など、社会情勢に応じて、さまざまな業種と警備業の結びつきは強まりそうだ。

例えばイベント会場の警備では近年、主催者側がより多くの警備員を配置するように求める傾向があるという。これは2年前に岩手県内で起きたタレント握手会での傷害事件や、昨年に台湾のテーマパークで負傷者500人以上を出した爆発火災事故など、イベントを襲った衝撃的な事件・惨事の影響を受けて“警備強化”の動きが続いているためと、ある警備会社の担当者が話していた。会場の至る所で警備員が警戒することは犯罪やトラブルの抑止と同時に、安全確保に万全を期す主催者側の意志をアピールすることになる。

また先日、日曜日の街角で見たのは“警備業と教育産業”が結ぶ場面だった。小学生向けの学習塾の玄関前で、年配の警備員が立哨していたが、あちこちで見かける警備の風景と少し違ったのは、その警備員が、塾の名前が入った三角の小旗を持っていたことだ。

ちょうど模擬テストが終わる時間で、警備員は子供を迎えにやって来る保護者たちに穏やかに声を掛けて、室内へ案内していた。この声掛けは不審者対策を兼ねているようだ。警備員は、子供が親近感を持ちやすい配慮か、ふりがな入りの大きな名札を付けており、帰っていく子供たちに柔和な笑顔で言葉を掛けていた。

子供の巻き込まれる犯罪が社会問題となっている。安全重視の塾の姿勢が、丁寧に声掛けを行う警備員から伝わってきた。教育産業と警備業が密接になることは多くの親御さんが望むだろう。

「接遇スキル」アップを

さまざまな業種とより深く結びついていくために、警備の質とともにサービスのスキルアップも欠かせない。大手旅行代理店勤務を経て警備会社を起業した柴田朋彦社長(アルファ警備、福岡県春日市)は「サービス業としての警備業を心得よう」と題するパワーポイントの資料を手作りして、自社の警備員の教材としている。

柴田社長は、警備先で寄せられたクレームを分類した結果、「丁寧な応対をすることで減らせるクレームは多い」と気づいた。ロールプレイング(疑似体験)形式を取り入れて接遇スキルを磨いたところ、着実にクレームを減らすことができたという。

サービス業に最も大切なものとして柴田社長は“ホスピタリティ”(思いやり、心からのもてなし)を挙げ、理由をこう話す。「心のこもった態度で相手に接すると、警備上のご案内に協力を得やすくなる。その結果として事故やトラブルのリスクが軽減される。ホスピタリティは、より安全な職場環境づくりにつながるのです」。

警備業が今まで以上に多くの業種と、現場での結びつきを深めるほど、安全安心が人々の暮らしに浸透し、警備業の社会的な存在感も高まるだろう。

【都築孝史】