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視点

危険予知 訓練重ね、感度高める 2016.9.21

中央労働災害防止協会が呼び掛けるKYT(危険予知訓練)――これは建設業や製造業などで事故を防ぐ安全管理の方法として長年にわたり行われている。KYは危険・予知のローマ字の頭文字で、Tはトレーニング。建設現場や工場などの労働現場にひそんでいる“危険な要因”を作業するチーム全員で洗い出し、そこから予想される事故を防ぐ取り組みだ。

警備業界でKYTは、建設現場などの2号警備で行われたり、現任教育、労働災害防止をテーマとする研修会で取り上げられることはあるが、全体的には広がっていないようだ。

KYTは作業の現場写真やイラストをもとに、次の4段階で進める。(1)現状把握――どんな危険がひそんでいるか指摘し合う(2)本質追究――全員の指摘が出揃ったところで問題点を整理する(3)対策樹立――問題点の改善策を出し合う(4)目標設定――解決策を討議し、合意結果としてまとめる。この結果を作業員が共有し、始業前の指差し確認などを行って危険回避を図る。

身の安全に関わる共通の話題を真剣に話し合うことは、現場のチームワークを良くする効果もあるようだ。グループで行うほかにも、一人ひとりが自分の持ち場で危険を意識して、注意点と対策を自問自答する「一人KY」という手法もある。

このKYTを継続的に行っていると、<何か危険はひそんでいないか>と日頃から考える習慣が身につくという。

施設警備はテロ対策の強化要請を受けて、不審な行動をする人物や放置された不審物に対して迅速に気づくことが求められている。こうしたセキュリティー面と併せてサービス面では、具合の悪そうな人や、迷子かもしれない子供に気づいて積極的に声掛けをする姿勢も欠かせない。KYTを反復することによって不審や異変に対して一層敏感になり、いち早く対応できるのではないか。

交通誘導警備では、脇見や居眠り、飲酒運転などの車がいつ突っ込んでくるかわからない危険がある。誘導する際の立ち位置に注意し、とっさの避難場所を常に意識しておくことは不可欠だ。

この夏、爆発的にヒットしたスマホのゲームアプリ「ポケモンGO」は、懸念されたように交通事故も引き起こした。警察庁のまとめによると、車や自転車の運転中にポケモンGOで遊んでいて発生した事故は、配信が開始された7月22日から1か月で79件、交通違反の摘発は1140件に及んだ。

警備業とは一見、何も関係ないはずのスマホゲーム。それが結果として安全安心をおびやかす事態を招いたことになる。

インターネットなど情報通信の技術革新が進む中で、これまでになかったようなヒット商品や流行現象が生まれ、急速に広がるかもしれない。

それらによって人々がどのような行動をとり、安全安心を守る警備業務にどう影響してくるか。経営側や教育担当が最新の情報や流行のきざしなどに幅広く触れる中から、新たに起こりうる危険――事故や事案の可能性を読み取って予知し、現場の警備員に伝えて情報共有することが大切になるだろう。

多様な訓練を重ねることで危険に対する警備員の感度を高める。事故防止の取り組みは安全安心の源になる。

【都築孝史】

パラリンピック 「優しさ」を理念として2016.9.11

オリンピックからパラリンピックへ。リオの競技会場は、 <パラリンピアン>の活躍の舞台へと引き継がれた。オリンピックと同じように事件や事故がなく、最高のパフォーマンスを発揮して18日の最終日を迎えてほしいものである。

少し脇道へ。筆者は冬季競技・アルペンスキーの障害者選手を知っている。見聞した彼の「限界に挑む執念」で言えば、それは、ある意味で健常者選手を上回るかもしれない。パラリンピアンの“アスリート魂”には、凄まじいものがある、とかねてから敬服している。

歴史のページをめくれば、「パラリンピック」という名称は、1964年東京大会の際、日本で名付けられた愛称だったというではないか。先人の知恵に感謝である。以来、競技レベルの向上には目を見張るものがある。

一方で、各種大会への出場経費など選手個人の負担が重荷になっているという。企業協力のスポンサー契約は増加傾向にあるが、障害を理由に施設利用を断られたり、条件を付けられる。とりわけ、視覚、知的障害選手に対して、まだまだ理解度は低いのだ。

リオからパラリンピアンの活躍を伝える新聞、テレビのメディアには、「感動をありがとう」、「勇気をありがとう」の常套句は程々にして、選手の技術、補助器具の改良、練習環境などの側面もきちんと伝えてほしいものだ。

閑話休題。小池百合子都知事は、閉会式で再び大会旗を引き継ぐことになる。その時こそ、『東京の成功へ向けて』の号砲が鳴る。本格的準備のスタートである。関係の各機関は、心を新たに、緊密な連携を取りながら準備に取り掛ってもらいたい。

そして4年後。迎えた「東京五輪・パラリンピック」は、五輪の後のパラリンピックを注視したい。「パラリンピックは、選手だけでなく、観客も含め、みんなに優しく、素敵な大会だった」との声が聞かれてこそ、五輪とパックの「東京大会」は、成功だったと言えるのではないかと考える。

それは、日本が迎える超高齢化社会とパラリンピックが多くの部分で重なり合うからだ。パラリンピアンの環境を整えることは、身障者、お年寄りに向けるものと相通じる共通のテーマとなる。

会場移動の交通インフラひとつにも、目線の低さが求められる。選手だけではない。観客も含めて健常者と身障者、さらにお年寄りが共生するパラリンピックの成功がなければ、東京五輪の成功はない、と断言したい。

優しさで欠いてはならないのは、原発被災地「福島」への想いだ。2人の顔と言い放ったセリフが浮かんだ。総理と五輪担当相だ。総理は雨の五輪閉会式、赤い「TOKYO」帽をかぶって赤玉を抱え“アベ・マリオ”で登場した。得意満面。しかし、記憶に鮮明なのは、3年前のIOC総会・東京招致最終プレゼンテーションだ。

「(原発事故の)汚染水はアンダーコントロール(管理下)であり、完全にブロックされている」と大ミエを切った。数日後、東京電力は汚染水漏れを渋々認めたのだ。

丸川五輪相は今春、前任の環境相時に講演で原発事故に触れて「反放射能派が <わーわー、わーわー>騒いだ」などと語った。発言の撤回と陳謝はしたが悪乗り、極まれり、のお粗末さだった。

どうぞ、ご両人。福島への優しい配慮の指示をお忘れなく願いたい。もう一人、元総理の長老・組織委会長さんにも、同様の <優しさと思いやり>の「東京五輪・パラリンピック」の実現を切に望むものである。

【六車 護】

防災の日 災害は次々とやって来る2016.9.1

9月1日、「防災の日」。熊本の光景と東北の人たちのことが鮮明によみがえる。

今年4月末、熊本地震の取材で現地入りした。熊本県警備業協会入居のビル1階の太い柱が、内部の鉄筋が丸見えになるほど折れ曲がっている姿に、地震の揺れの大きさを改めて知った。

市内では、至る所でガスや水道の復旧工事が行われていた。雨の中、ガス工事現場の交通誘導警備に当たっていた若い警備員は、「工事会社の事務所に待機し、工事要請があるごとに工事会社の担当者と現場に出動している」と教えてくれた。水道工事での現場では、2〜3人の警備員が交通誘導警備を行っていたが、疲労の色が濃く表れていた。

特に被害の大きかった益城町では、倒壊家屋の移動などが行われていたが、重機の近くで合図や歩行者・車両の誘導を行っていたのは、建設会社の職員とおぼしき若い女性だった。恐らく警備員の手配ができなかったのだろう。

熊本地震発生の1か月ほど前、東日本大震災から5年目を迎えようとしていた福島、宮城、岩手の被災3県を訪ね、警備会社の経営者に震災当時とこれまでの苦難の道について話を聞いた。

交通誘導警備業務を主体とする2社の社長は、ともに「震災直後から建設会社から交通誘導警備の依頼があった」と語り、“いざという時”の警備業の必要性や大切さを改めて感じた。

両氏は原発事故と津波災害の中で、対応できる警備員をかき集めて対応したというが、警備員もほぼ全員が被災者だけに、その苦労は想像を絶する。

実効性のある対策を

先月、兵庫県警備業協会が県と画期的な協定を結んだ。災害発生時などに交通誘導警備員を現場に派遣するというものだが、その最初の窓口は、地域の状況をよく知る警協支部だ。一支部で対応できない場合には、県警協を介して他の支部と連携し、場合によっては全県から警備員を派遣する。

現在、大半の警協では警察や県など自治体と災害時の協定を結んでいる。いざという時に協定内容どおりの対応ができるのかの検証、“想定外”の事態に備えたシミュレーションも常に行っていく必要がある。

首都直下地震や南海トラフ地震のような大地震、近年頻発する豪雨災害など、災害の種類は多岐にわたる。また、ゲリラ豪雨のような局地的なものから大地震のように広範にわたるものまで様々だ。一警協では対応困難な場合には、隣接する近県警協との連携、状況次第ではブロック単位や全国レベルでの連携も必要となろう。それぞれの事態に応じた必要な、警備業としてできる対応を検討し、その実効性を高めていくことが求められる。被害規模に応じた柔軟な対応は、被災地の早期復旧・復興へとつながる。

かつて、物理学者で随筆家の寺田寅彦は、大正時代に発生した関東大震災の被害調査後に、「天災は忘れた頃にやって来る」という言葉で震災教訓の風化を警告したと言われる。わが国の近年の状況を見ると、阪神・淡路大震災、新潟中越地震、東日本大震災、熊本地震、広島豪雨災害、北関東や東北を襲った東日本豪雨災害など次々と思い出される。寺田寅彦だったら〈災害は次々とやって来る〉と警告し、速やかな災害への備えを求めるだろう。

【休徳克幸】