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視点

地位向上 処遇改善し質の高い警備を2017.6.21

各地の警備業協会では定時総会の開催に先立って、警備員の表彰式が行われる。早めに取材に行くと表彰式のリハーサルを見ることができる。

表彰者と謝辞を読む代表は、協会の専務理事や事務局長から礼や動きのタイミングを教わり、緊張感が漂う。「日常に身近なわりに業務の内容をあまり知られていない」とも言われる警備業が、もっと広く知られ評価されてほしいと表彰を見ながら思った。

総会での会長挨拶や各種研修会における趣旨説明などで昨今、キーワードとなっているのが<警備業の地位(ステータス)向上>だ。慢性化する人手不足、社会保険問題、料金アップと処遇改善、さらに働き方改革や労災事故の防止など相互に関連しあう課題に取り巻かれる中で、これらを克服しながら業界全体が目指す道筋を示す言葉である。

東京五輪・パラリンピックなどの大規模警備を行うことは生活安全産業としての認知度を高め、今まで以上に人々から注目され、尊敬される職業となることが期待される。国際テロの脅威を背景に、ウェアラブルカメラなど最新機器を取り入れて“見せる警備”による犯罪抑止効果も求められる。

一般に地位向上がもたらす効果として「より重要な存在であると周囲から認められる」、「発言力が増す」ことが挙げられる。

発言力は、警備料金の適正化などの要望をユーザーに理解してもらう上で役立つ。逆の見方をするなら、発言力を増すための努力の継続も地位を上げることにつながるのではないか。

料金アップがなぜ必要か、資料等を揃えて粘り強く交渉を行うことは、自社の成長とともに警備業について先方の理解を深めることにも結びつくはず。一方、安全安心の重さにふさわしくない廉価での受注は、業界の地位を高めようとする現在の流れに逆行することになる。

適正料金に裏打ちされた質の高い警備を安定供給することで、ユーザーや地域社会からの評価は、より高まる――大規模警備の成功とあわせて、施設、交通、貴重品運搬など、それぞれの現場における日々の積み重ねが重要で、突き詰めれば警備員一人ひとりが業界の地位向上を担っている。

その意味で処遇や職場環境の改善などによって警備員という職業の魅力アップが急がれる。技能やサービスに対する外部からの評価と、課題克服を図る業界内の取り組み、両者の相乗効果によって社会的な地位は高まっていくに違いない。

賃金とは別の面から従業員のやる気を引き出す取り組みとして各業種が取り入れているものに、社内表彰がある。会社から認められることで自己肯定感が深まるため、表彰は働き手に自信を持たせる効果がある。

警備会社も社内表彰を行っているが、勤続何年・優良・功労などの“大きな表彰”とは別の枠で、現場での努力や工夫、業務に活かせるアイデアの提供などを上司が評価する“オリジナルな表彰”が増えると良い効果を生むはずだ。

警備業に限らず建設、販売、介護などの業界も処遇改善を含む地位向上を唱えている。いずれも慢性的な人材難に悩む業種だ。地位を高める取り組みを進めることは、人手不足対策の観点から他業種との競争でもあり、立ち止まる余裕はない。

【都築孝史】

判決その後 質の高い警備、相応の料金2017.6.11

地裁判決が、会社を変えつつある――。

前号(6月1日号)の本欄でも取り上げた千葉地裁判決――大手警備会社に勤務する警備員が、「夜間警備の休憩時間中と仮眠時間中にも仕事は続いていた」として、同時間中の賃金の支払いを求めた裁判。地裁は警備員の主張を全面的に認め、未払いとなっていた割増賃金と制裁金に当たる“付加金”の支払いを会社に命じた――という案件のその後の対応を取材した。

会社は判決を受け、約2000人の全警備員の残業時間を調べなおし、未払いとなっている賃金を支払う方針を固めた。支払いの対象は、退職した警備員にまで広げるという。

会社は判決を機に、労使一体で働き方改革を進め、職場環境の整備も進める考えのようだ。

近年、労働時間をめぐっては、社会の厳しい目が注がれるようになった。その理由は、長時間労働が過労死や過労自殺などにつながる、という認識の広がりだろう。それを更に加速させたのが、「電通事件」であることは言うまでもない。

今回判決を受けた会社も、電通事件のように、会社の「ブラック企業」というイメージが広がっていけば、人手不足の中にあって、新規採用者の確保は一層困難となるばかりか、顧客の信用や取り引きも失いかねない。自ら残業時間を再調査し、未払い賃金を支払うことは、法令順守という企業としての原点回帰はもちろんのこと、企業防衛に他ならない。

しかし、今回の判決は、一企業だけの問題でなく、警備業界全体として考えたい重要な問題だ。

警備業務における労働時間管理において、休憩時間と仮眠時間の扱いは、多くの警備業経営者が悩んできた問題なのだ。自社に現場に配置できる多くの警備員を抱え、しかも顧客の理解があり、余裕のある配置が可能であればいい。多くの場合、“ぎりぎりの人員”の中で、しかも客先からは“少しでも安い警備”を求められる。

一方、配置される警備員にしてみれば、ろくに休みも取れずに、常に疲労困憊の中で警備を強いられる――。これでは、警備業界が目指そうとしている「質の高い警備」が提供できる訳がない。

前述の判決が下された日、訴えを起こした警備員の代理人弁護士は、「警備業の役割は大きい。しかし、警備料金は買い叩かれやすい」と、警備業の実情に一定の理解を示した。その一方で、「コスト削減のしわ寄せは現場警備員の待遇に跳ね返ってくる」と指摘、会社の姿勢を厳しく問うた。同時にこうも付け加えた。

「先のヤマト運輸の一件(労働環境改善のための27年ぶりの運賃全面改定)は“利便性には対価が必要”というメッセージを社会に発信した。警備会社も“安全・安心には対価が必要”というメッセージを社会に送るべきだ」。

2020年の東京五輪・パラリンピックを3年余に控え、さらに高まるテロの脅威。「水と安全はタダ」は、既に過去の言葉だ。高度化・複雑化する脅威には、より質の高い警備で対応するしかない。それを担うのは一人ひとりの警備員であり、その優秀な人材を得るには相応の待遇が不可欠だ。

「質の高い警備という利便性には、相応の警備料金が必要」。これを求めずして警備業の明日はない。その声を上げる環境が今、整いつつある。

【休徳克幸】

労働時間 働き手にきちんと賃金を2017.6.1

先月下旬。警備業界にちょっとした衝撃を伴うニュースが駆け巡った。千葉地方裁判所の労働時間をめぐる判決だ。一般紙、TVも伝えていた。あらましは次のようなもの。

警備員が「夜間警備の休憩時間と仮眠時間中も仕事は続いていた」として賃金の支払いを求めた裁判である。千葉地裁は警備員の主張を全面的に認め、会社には未払いの割増賃金などの支払いを命じたのだ。何人かに想いを聞いてみた。

「労働時間については、電通の高橋まつりさんの事件やヤマト運輸の未払い残業代が数百億円になるとか、にわかに騒がしくなってきた。しかし、一部の経営者は〈残業はするな〉というが、〈しなければ仕事はないよ〉という感覚が抜け切れていない」

「国も“働き方改革”のアドバルーンを上げて残業規制の法律を作ろうとしているが、上限の設定や繁忙期はどうするのか。青天井の残業が可能な“サブロク協定”(労基法36条)の扱いなど問題点を整理するハードルは高いね」

「裁判を起こした警備員は事務職で残っているらしい。今度の判決で労働問題に強い弁護士の下には相談が増えそうだ。大体、〈残業〉と〈時間外労働〉は同じ意味で使われることが多いが、全く同じじゃない。我々も、きちんと学習する必要を感じている」。こちらもこの声に誘われて労働時間について整理してみた。

まず、〈残業〉は就業規則などで定めた「所定労働時間」を超えて働くこと。〈時間外労働〉は労働基準法で定めた「1日8時間、週40時間」の「法定労働時間」を超えて働くことだ。

明白なことは代金の計算方法の違いである。残業をしても会社は、法定労働時間内なら賃金の時給相当分を払えばよい。時間外労働では割増賃金になるということ。割増率は政令で「25パーセント以上」。休日労働の率は「35パーセント以上」なのだ。 もう1つ書けば、労基法は休日について「毎週少なくとも1回」としている。例えば、月曜から金曜まで7時間、大方が休日の土曜に5時間働いたとき、労働時間は週40時間なので時間外労働にもならない。確かにややこしい。要約すれば、労基法の規定は最低基準であり、法定労働時間内の残業に割増賃金を支払わなくても問題はない。割増賃金は、最低基準を守らなかった会社に対してペナルティーの意味で支払いを義務付けているのだ。

――企業は働き手にきちんと賃金を支払い、それを織り込んで市場で公正に競争する――至極、当たり前の労使原則と市場原理なのだが、現状は残念ながらそうではない。判決は、そのことを浮き彫りにしたといえるだろう。

警備業界にとって、2019年のラグビーW杯、翌20年の東京五輪・パラリンピックは、社会的ステータスを上げる絶好のチャンスなのである。時間外労働の常態化とダンピングによるコスト削減が現場警備員へのしわ寄せに向かうことなどあってはならず、容認することはできない。

鹿児島県警協の上拾石秀一会長は5月15日にあった定時総会でこう呼びかけていた。判決の2日前である。「労働時間の正しい把握は必要だ。残業時間はどうか、十分な休憩時間が確保されているか。適正で細かい管理が求められている。こうした正しい取り組みが若者の人材確保につながる。夢を語れる魅力ある業界にしよう」――みんなで意識を共有して取り組むテーマである。

【六車 護】