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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特別教授、全国老人福祉施設協議会理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

2017年日本を占う2017.2.1

問うべきは、解散の意義

元日の各紙社説を読んで、「我が意を得たり」と膝を打った人は多くないだろう。もっとも評論家の故丸谷才一氏によれば、「社説の読者は各社論説委員の数しかない」というのだが。

この日の各紙社説見出しを並べてみる。「立憲の理念をより深く」(朝日)、「反グローバリズムの拡大防げ」(読売)、「日本の針路は――世界とつながってこそ」(毎日)、「自由主義の旗守り、活力取り戻せ」(日経)、「自ら日本の活路を開こう」(産経)。

いずれも今日的課題を取り上げているには違いない。しかし、英国のEU離脱、トランプ大統領の誕生、中東情勢の混迷――で戦後70年間の秩序は、良かれ悪しかれ遮断、分断され逆流し始めたかのようだ。この時、日本はいかにあるべきか? 各社説からは、その切迫感が伝わってこない。例えば朝日の「立憲主義」論だ。

「元来、憲法は公の権力を抑制し、その乱用を防ぎ、国民の自由や基本的人権を守るためにある」。一方、自民党改正草案では主権在民の根拠となる97条などを削除している。「これは立憲主義を否定する危険な動きであり、憲法改正を急ぐ政府・自民党を注視しなくてはならない」、というのだ。

護憲、改憲の議論は大いに結構。しかし、自民党安倍内閣が改憲に向けた手続きを進めているのは、立憲主義を否定したからではない。2014年暮れの総選挙、2016年7月の参議院選挙で大勝し、憲法改正発議に必要な3分の2以上を衆参両院で獲得した結果、同党公約を実現する環境が整ったからである。

もし朝日新聞が改憲に反対ならば、正面から護憲勢力結集による政権交代のビジョンを打ち出せばいい。非力な野党に活を入れ、非自民政権実現に向けた方策を示さなければ“言い放し”になる。

対抗軸をどう作るか

政治システムの健全性を保つためには、与野党間の政策的な切磋琢磨が不可欠だ。そのためには現政権にとって代わり得る現実性を持つ対抗軸が必要となる。ところが各種世論調査で、野党第一党は「支持政党なし」。これでは国民に選択肢は存在しない。

社会党が3分の1の壁を越えられなかった時代、与党内の総裁争いが一定の政策的チェック・アンド・バランス機能を果たしていた。しかし今や自民党内も「安倍一強」の勢いに封じ込められチェック機能はないに等しい。何故か?「解散風」が野党のみならず、当選回数の少ない自民党議員にも抑止力となって総理・総裁に物言うことを難しくしているからだ。

この風潮を補完しているのは、皮肉にも各紙が「解散はいつか」を最大の取材ターゲットとしていること。昨年末説、年初説など懲りずに誤報(虚報)が繰り出され、結果としてすべての議員が金縛りになっている。安倍首相の思うつぼだ。

解散時期は重要だ。しかし、もっと大事なのは、「何が問われるのか」ではないか。“それに代るものがない”、“民主党時代よりまし”が主たる理由となって安倍政権への消極的支持率が独歩高の状態にある。とすれば野党のていたらくこそ内政における諸悪の根源、その再生こそ最重要課題といえる。その点、1月9日の日経で仙谷由人元官房長官(民進党)が次期選挙では、「消費税先送り反対」を争点に据え、共産党には、「党名、綱領を変えろ、くらい言ってから選挙協力協議に入れ」と述べているのは正論だ。20世紀末のイタリアでは新党、「オリーブの木」に共産党も参加して政権交代が実現した。

つまり、元旦社説にふさわしいテーマは、「野党論」ではなかったか。