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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特別教授、全国老人福祉施設協議会理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

日米首脳会談の評価2017.2.21

友情、信頼だけで同盟は維持できない

ゴルフを交えた日米首脳会談が終わった。発表文を読む限り安全保障で日本は期待通りの成果を引き出せた。経済・通商問題は、麻生財務相とペンス副大統領をトップとする協議機関で詰めることになる。つまり先送り。防衛ただ乗り論や為替の円安誘導批判は出なかったという。これが事実なら、「手ごたえ予想以上」(毎日新聞)との評価は順当だろう。

一方で米内外から批判を浴びている入国禁止の大統領令に関して安倍首相は間接的にトランプ支持の態度を示した。また、かつてなく評判の悪い大統領とフロリダまで行って、ゴルフを楽しんだことに内外メディアから、「やり過ぎ」、「ごますり外交」との批判も浴びせられた。筆者が注目するのは、この会談で語れなかったこと、あるいは公表されなかったこと、さらには安倍・トランプ会談の直前に行われた米中首脳電話会談との関係だ。

政治部時代、先輩に言われたのは、「取材先とは電話でなく直接会え、出来ればサシで。会うだけでなく飯を食え。食事よりはゴルフをしろ」の三点だった。癒着の温床と言われようと情報を取ってなんぼの世界。相手と一緒にいる時間が長いほど親しみはわき、口はほぐれる。政治記者の息子である安倍首相は、この原則を忠実に守っているようだ。

例えばこの2年、安倍首相は盟友であった故中川昭一元通産相の仇敵と言える鈴木宗男氏と親密な関係を維持している。北海道の選挙で鈴木氏率いる「大地」が一定の票を持っていること、ロシアとパイプがあり領土交渉上、使えるカードと見たからである。公民権停止中の鈴木氏の政治資金パーティーで応援演説もするし、長女の結婚式にも顔を出す。「やりすぎなのでは」と心配する側近を、「付き合うと決めたら徹底的にやらなくては。中途半端が一番いけない」と退けた。このアプローチ、プーチンロシア大統領、トランプ米大統領に対しても共通している。なるほど、とかく物議をかもしているトランプ大統領とハグした上、「17秒間の異例な握手」(CNN)、しかもゴルフに興ずるとあればリベラル、米マスコミの主流から総スカンを食うことは百も承知。しかし天変地異がない限りトランプが今後4年間、米大統領の地位にあることは動かしがたい。であれば軍事同盟を結ぶ国の首相として相手の胸に飛び込まないことには仕事にならない、と割り切ったのだろう。この決断を筆者は評価する。

友人のいない日本と日米同盟

明治からの日本外交を見るとベクトルは「孤立への恐怖」だった。植民地化されていたアジア諸国との連携は難しく、清国、大韓民国はプライドが高すぎた。結果、日本は日英同盟に乗って「黄色い白人」の道を歩む。しかし、第一次大戦後、アジア・太平洋の覇権をめぐり日本をライバル視した米国は日英同盟を葬り、中国への過剰な思い入れ、介入を始める。満州事変からドイツ、イタリアとの軍事同盟に走らせた原動力は孤立への恐怖だった。真の友人のいない日本。米国は、そこを見ている。昔も今も。

確固たる日米同盟は好ましい。しかし、首脳会談直前の米中首脳電話会談でトランプ大統領は、「一つの中国政策尊重」を確認、安倍首相との共同記者会見では、「良好な米中関係は日本にも恩恵がある」と語り、巧みにバランスを取った。尖閣諸島防衛義務の見返り、「お土産」としてインフラ投資、自動車産業のアメリカ生産枠拡大という暗黙の了解があったとしても不思議はない。首相とトランプ、入口は良かった。出口戦略が問われる。