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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特別教授、全国老人福祉施設協議会理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

10月政変の怪2017.9.11

安倍一強、政治構造の秘密

一度下がった内閣支持率は、なかなかリバウンドしない。月末には臨時国会が召集され、またぞろ森友・加計学園問題が蒸し返されるだろう。10月22日には衆議院青森4区、新潟5区、愛媛3区の補選が行われる。すべて自民現職の選挙区だったから一つでも落とせば安倍批判に油を注ぎ政権運営が窮まる可能性も。それならいっそ臨時国会冒頭又は、会期末の衆議院解散に踏み切るのでは? その結果によって政変の幕が上る。これがマスコミを騒がせている「10月政変説」のシナリオだ。

政界一寸先は闇だから可能性ゼロとは言わないが起こりそうもない。何故ならこうした見方は、5年以上続く安倍政権を支える「一強の構造学」を理解していないからだ。まず安倍一強を支える最大のスポンサーは、北朝鮮の金正恩だ。核実験、ミサイル乱発でJアラートが鳴る中、政変なんかやってられない。もう一人、力強い味方が野党第一党、民進党のていたらく。これは説明の必要はないだろう。以上を外部構造とすれば、以下は内部構造だ。

まず党内グリップの強さ。よく言われるのは、総裁および幹事長が小選挙区制のもと公認権と税金による政党助成金の配分権を独占している点だ。確かにこの矛(ほこ)と盾の威力は強力で、先の茨城県知事選では自民県議一人当たり数千万円の活動費が配布されたという。これには7選の現職も太刀打ち出来なかった。

それ以上の要素は、「家業政治屋」が党内多数を占めたためである。前回、2014年12月実施の衆議院選挙結果を見ると、父母、養父母、祖父母のいずれか、または三親等以内の親族に国会議員がいて、同一選挙区から立候補した候補者を世襲と定義した場合、112人が世襲当選者で全当選者の23パーセントに当たる。自民党に限ればほぼ3人に1人の比率で、今回の改造内閣を見ると「家業政治屋」は20人中13人。なんと65パーセントだ。

自民党は「家業政治屋」が3人に1人      

「家業政治屋」の特徴は(1)地盤(集票)、看板(知名度)、カバン(集金力)付きだから選挙安泰(2)苦労知らずの坊ちゃん嬢ちゃんで、ほとんどが政見なし、覇気なし、世情知らず(3)半面、権勢欲は人一倍。つまり、大勢順応で上ばかり見る「ヒラメ集団」が大発生したといえる。上から見ればこれほど御しやすい集団はない。

党内金縛りの次が「官僚金縛り」だ。90年代までの自民党政治はある面、官僚主導の政治で、その象徴は財務官僚であった。ところが安倍政権になり警察庁と経産省を抱え込んだ官邸が2度にわたる増税棚上げで財務省を打ちのめした。さらに官房長官が仕切る内閣人事局が各省審議官以上の人事権を召し上げたことで言いなり、迎合、忖度のトリプル構造が完成した。

かつては政権から距離をおき、独自政策を主張したこともある財界、労働界だが、賃上げから労働条件、ハシの上げ下げまで官邸の土足の介入を許しており見る影もない。マスコミは、首相が各社社長と定期的に懇談して首相動静欄で現場記者に誇示し、自己規制を誘導している。こうした基礎構造の上に立ち、某広告代理店が振り付ける「地球儀を俯瞰した外交」「人づくり革命」など意味不明ながら「何かやっている感」を醸し出すフレーズを乱発することで「ま鳩山、菅よりはいいか」という消極的支持の醸成に成功している。

短命に終わった前回の失敗に学んだ“耐震構造”を倒すことは結構大変で、任期満了か、本人が健康上の理由などで引く以外、政変は起こりにくいというのが筆者の見立てである。どうなりますやら。