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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特別教授、全国老人福祉施設協議会理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

「トランプ城」ただいま炎上中2017.12.1

ロシアゲート、側近から始まった訴追

12日間におよぶトランプ大統領のアジア巡業が終わった。ゴルフ接待で迎えた日本、28億ドル買い物リストで対北朝鮮要求をかわした中国など、ほぼ想定通りの展開だった。

もっとも米国内の反応は、芳しくない。聞いた限り最良のコメントでも、「次回歴訪のための基礎ができた」という程度だ。米メディアが「トランプツアー」に、あまり関心を払わないのも無理はない。最大の政治ショー、ロシアによる米大統領選挙干渉事件(ロシアゲート)捜査が本番を迎えているからだ。

大統領出発直前の10月30日、トランプ選対の責任者を務めたポール・マナフォートが違法な資金運用、脱税、外国ロビー法違反、偽証罪などで有罪を認め司法取引で特別検察官に協力することを約束した。逆に言えばすべてをぶちまける、ということである。

ロシア情報機関やウィキリークスによるヒラリー選対へのハッキングと漏えいには、大統領の長男、ジュニア、娘婿でホワイトハウス上級顧問のジャレット・クシュナーも深くかかわっている。大統領に先立って日本を訪問した娘のイバンカさんが日程を繰り上げ帰国したのも、この対策とみられている。

トランプ氏が大統領選出馬を表明したのは2015年6月。9月にはFBIが民主党全国委員会に同委のサイトがサイバー攻撃を受けていると通報している。しかし同委のIT担当は無能で対策を取らず放置した。同年12月には、のちに安全保障担当補佐官(就任後辞任)となるマイケル・フリンがロシアメディアの招待で講演した。ギャラは4万5000ドル(約508万円)と破格、しかも当日、彼の隣にはプーチン大統領が座っていた。

翌年3月、プーチン大統領と親しい前ウクライナ大統領ヤヌコービッチ(亡命中)のロビー工作を担当したポール・マンフォートが選対責任者に就任、工作は本格化する。スタッフのパパドポラス(今年7月、ダラス空港でFBIに逮捕)がロンドンで、プーチンの親戚と称する女性、およびロシア大学教授と接触。

同教授は、ロシアがヒラリー・クリントンの秘密情報を握っており、トランプ選対とロシア政府関係者との会合をセットしようと持ち掛けた。

大統領弾劾に至るか?

6月3日、トランプジュニアは、このグループからヒラリーの個人メール内容を提供するとの連絡を受け、「I love it(素晴らしい)」と返事。その3時間後、トランプ本人がクリントンの不法行為について重要演説を行うと発表した。

同月9日、ニューヨークのトランプタワーでジュニア、マンフォート、クシュナーらが「ヒラリーの有罪を立証できる材料を提供する」と言うロシア人女性弁護士と会談した。ニューヨーク・タイムズは後に、この弁護士が「面会内容につきクレムリンと情報を共有した」と報道した。

トランプジュニアは、大統領選挙期間中から今年7月まで告発サイト、ウィキリークスとも接触し、クリントン陣営幹部間がやり取りしたメール多数を受領したことを議会調査委員会で証言している。ロシア情報機関が入手したメールをウィキリークス経由で流させたのかどうかは、検証されていない。 一方、フリンは、トランプ当選直後、対露制裁解除について駐米ロシア大使と面談している。最近ではウィルバー・ロス商務長官が、ロシア企業との取引で利益を得ていることも明らかになった。

これだけの材料がそろえば日本なら間違いなく政変だろう。もっとも米国大統領の弾劾手続きは、ハードルが高く簡単には実現しない。しかし、最良でも来年、中間選挙の苦戦は免れ得ない情勢だ。