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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特別教授、全国老人福祉施設協議会理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

すれ違うインド太平洋戦略の思惑2017.12.21

対中封じ込め連携は日本の片想い?

“put my leg in someone's shoes”

直訳すれば「他人の靴に自分の足を入れる」だが、「相手の身になって考える、思いやる」という意味で使われる。80年代、在日米軍駐留経費の日本側負担を増やす“思いやり予算”交渉を取材したとき覚えたフレーズだ。もっとも米国務、国防総省のジャパン・ハンドは、この命名を嫌った。彼らにすれば、「上から目線の“思いやり”とはなんだ。守って貰っている側が払う当然の対価ではないか」というわけだ。

先日、米国籍を持つインド人投資コンサルタントA・R氏と話す機会があった。話題が安倍首相が掲げ、トランプ米大統領も協調している「インド太平洋戦略」に及んだ時、このフレーズを思い出した。同じ言葉を使っても、“インド側の靴に足を入れて”みると同床異夢ぶりが浮かび上がって来る。さて、「インド太平洋戦略とは?」から始めよう。

安倍首相は2016年8月、アフリカのケニアで開かれた第6回アフリカ開発会議で演説した。「日本は太平洋とインド洋、アジアとアフリカの交わりを、力や威圧と無関係で、自由と法の支配、市場経済を重んじる場として育て、豊かにする責任を担っています」。「法の支配と、海洋の自由」という言葉に、豊富な資金提供でアジア・アフリカでの存在感を増し、軍事的にも南シナ海の拠点化を進める中国をけん制する意欲が込められている。

今年7月、ドイツのハンブルクで開かれたG20主要国首脳会議の際、会談した安倍首相とインド・モディ首相は、日印の戦略的対話の進展、日印米による共同海上訓練の実施などで一致、日本のメディアは「インド太平洋戦略が具体的進展を見せた」と伝えた。11月の日米首脳会議では、「自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力を強化する」ことが合意に盛り込まれた。日本としてはオーストラリアも加えた4か国で対中対抗網を構築したい構えだ。

トランプのアメリカには依存できない

これについてA・R氏はズバリ言う。「アメリカ一強の時代なら自分の意思と能力でアジア太平洋でもどこでも好きなように振舞えた。その能力が低下したからこそインド、日本の協力が必要になったのです」。

ではインドは米国とはどう付き合うのか。「トランプはDeal President(商売人)。彼のアメリカには依存できません。インド人のため、インド人の雇用に役立つ事に限定して付き合っていく事になるでしょう」。

でも中国の脅威は感じませんか?「長期的には中国共産党の支配体制は崩壊するでしょうが、当分の間、覇権国を目指す強大化が続く。といってインドは中国と戦う気はないし、中国も核を持つインドを滅ぼす力はない。他方、『大国への夢』を追う中国は、西安からトルコ〜モスクワ〜英国を結ぶ一帯、広州からクアラルンプール〜コロンボ〜ナイロビ〜ベニスをつなぐ一路構想を進めています。豊富な資金を投入して東南アジア諸国で道路建設や鉄道、アフガニスタン、イランでは港湾建設が進んでいます。この際、中国の意図などどうでもいじゃないですか。アフリカ、アジア諸国は、中国の金を大いに使って自国のインフラ整備を進めればいい。これが我々の考える『一路一帯』構想ですよ」。

では日本は? 「アジア、アフリカの誰もが日本大好きです。領土的野心はないし、平和愛好国で素晴らしい技術を持っている。だから流通システムとか環境対策で中小企業や庶民の生活を助けてほしい。そうすれば国民が日本を支持します。中国なんかと張り合う必要は全くないですよ」。

A・R氏の主張、私には妙に説得力があった。