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「知」に備えあれば憂いなし

歌川令三の複眼時評

歌川令三 プロフィール
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。

AI(人工知能)と警備業界(中)2016.10.21

進化を続ける大手の<機械警備>

前回は、AI全盛のロボット時代がやって来ても、生身の人間が、心を込めて警備に当たる<2号警備>は不滅である、との話を書いた。だが経営論の見地から見ると、これからの業界発展の切り札は、<人力>ではなく、<機械警備>であることは自明の理だ。

でも、産業活動が、コンピューターや人工知能の機能によって多様化する以前の経済記者であった私、有り体に申し上げると、昨今のICT(情報・通信の技術)がらみの産業イノベーションはいささかの文化ショックでもある。とりわけ東京オリンピックがきっかけで誕生した日本の警備保障業界は、昔の企業群とは全く異なる業態という印象が強い。

9千数百社で売上3兆5千億円からなるこの業界。私流に表現するなら「2頭の巨大な鯨(セコム=3700億円、ALSOK=2100億円)が全売上の2割弱を占め、次に“大手”と呼ばれるマグロ・カツオクラスの百社(売上370億~20億)。その下には中小企業から売上1億に満たぬ“パパ・ママ経営”に至る約数千のイワシの群れで構成される<三層構造>からなる企業群」なのだ。

人力の<2号警備>は、“イワシ企業”が受け持ち、飛躍的成長が期待できる<機械警備>は鯨とマグロ・カツオの仕事、と“住み分け”が出来上がっているようにお見受けする。

“心のこもった”2号の警備は、永遠になくならない大切な仕事だが、企業経営論の見地から見るといささか問題含みだ。(1)少子高齢化の進行で労働力不足が見込まれること(2)労働力を供給する中小警備会社の経営基盤が脆弱で、雇用者の社会保険未加入企業も多い(3)少ない人材をどうやって活用するかのノウハウが未熟――などが挙げられる。

キーワードは<機械学習>

ICTの進化をフルに利用すれば<機械警備>の売上は、今後ますます増大するに違いない。<機械警備>とは、センサーを現場に据え付け、これを離れた場所で受信した警備員が駆けつける手法と私は理解している。

私の全国紙記者時代から筆友である本紙・六車社長によれば「“駆けつけ警備”のみならず、ドローンやウェアラブル端末、顔認証の画像分析など“新兵器”も業界は導入済みだ」とのことだ。

では<機械警備>は、さらなる新兵器の導入を契機に、今後どのように進化を遂げるか? 以下は私の推論的予測。実用化は何年後かわからないが、キーワードは<機械学習>。「人間が機械のデータを元に判断する」のが<機械警備>だが、「生身の人間でなく機械に内在するAI(人工知能)に判断させる」のが<機械学習>警備だ。

 それは(1)警備に関する平常時と異常時のデータを蓄積した“AIコンピューター”が、自らそれを解析し異常を認識(2)人手を煩わせずに、“人工知能付き機械”それ自身が、怪しい者を追い払う仕組みではないのだろうか。(この項、11月11日号につづく)