警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

「無観客」五輪2021.07.21

見せよう「日本の警備」

「自覚・熱意・意欲を持った仲間とともに、チームジャパンの協力体制を構築し、業界を挙げて『安全・安心』な大会運営に貢献する」――「東京2020警備JV」が2018年4月3日の発足時に掲げた基本理念だ。中山泰男共同代表(全国警備業協会会長)は、7月12日に都内で開かれた「大会警備決起集会」のあいさつで改めてこのメッセージを読み上げ、大会警備に向けた思いを述べた。

発足して3年余が経つ警備JVの今日までの道のりは、平坦ではなかった。新型コロナ感染拡大で20年3月に大会の1年延期が決まり、確保した警備員は宙に浮く形になった。警備員の“つなぎ止め”を図る一方、大会前後や聖火リレーなど警備需要の高まりを受け、さらに多くの警備員の確保に努めた。長引くコロナ禍で「開催中止」も議論される中、553社、1日最大約1万8100人もの警備員を集め切った。

しかし開会式が2週間後に迫った7月8日、1都3県の五輪競技会場が「無観客」に決定。警備JVは大会までのわずかな期間で、警備員の配置転換や資機材変更など警備計画の見直しを迫られた。会場入口での観客のセキュリティーチェック、最寄り駅から競技会場までのラストマイルに配置する警備員数などの再調整が必要で、大会まで1週間を切った今も対応に追われている。

ロンドン・リオの両大会は、大会そのものは成功したが警備員の確保で課題を残した。東京2020が確保に成功した理由として、組織委が過去の大会を教訓に早期に「警備局」を立ち上げ、警備JVを発足させたことが挙げられる。“オールジャパン”の警備体制を構築した上で警備員を募ったことが功を奏した。

五輪・パラリンピックは、規模が大きく日程が過密なため「平時における世界最大で最も複雑なイベント」といわれている。東京2020はパークがなく会場が点在しているうえに、競技種目が史上最多となった。4回目の緊急事態宣言のなか、若年層を中心にデルタ株による感染者が急増している。豪雨などの自然災害も想定されることから、情勢をみて大会中の警備計画、業務内容の変更もあるかもしれない。

組織委の米村敏朗CSOは「無観客で警備が楽になったように見えるが、大会にさまざまな感情を持つ人がいることも含めて、警備環境はむしろ複雑になった」と指摘した。懸念材料を考え合わせると、警備の難度は高く困難を極めるだろう。

日本の警備業は、1964年の東京大会を飛躍のきっかけに半世紀の間、発展を続けてきた。東京2020は「成長を遂げた日本の警備」を国内外に見せ、今後のさらなる発展につなげる絶好の機会である。

会場の多くが無観客となったことで、大会の姿は当初思い描いていたものと大きく変化した。しかし「大会の安全安心を守り抜く」警備業の使命は変わっていない。全国から集まった警備員には「これが日本の警備」といえる質の高い業務を期待したい。そして大会は、何としても成功させなければならない。

7月23日の五輪開幕から9月5日のパラリンピック閉幕まで、長丁場の戦いが続く。感染予防や熱中症対策など健康面にも十分留意しながら、各自の任務を最後までやり遂げてほしい。

【瀬戸雅彦】

外国人雇用2021.07.11

働きやすい待遇実現を

東京2020の開幕まで2週間を切った。新型コロナワクチン接種は滞りが生じ「第5波」到来の懸念が頭をもたげているが、コロナ終息の時を迎えた時、人手不足の警備業界では外国人雇用の議論が再浮上するはずだ。

全国警備業協会は過日都内で開催した定時総会で、外国人雇用を柱の一つに据えた「アクションプラン(案)」を報告した。その中には、新在留資格「特定技能」制度の活用検討を盛り込み、空港を利用する外国人も多いため理解が進みやすいとみられる「空港保安警備」への受け入れを引き続き検討することとした。

日本語能力の高い「日本語学校に通う留学生」も警備業界に誘いたい考えで、同留学生をアルバイト警備員として雇い、学校やアルバイト先企業の協力を得るなどして、留学生を特定技能の外国人雇用につなげたい意向だ。

いずれの場合も鍵となる「特定技能」は、2019年に創設された新たな在留資格で、国が認める人手不足の深刻な産業分野に外国人を受け入れるための制度だ。外国人労働者の劣悪な管理を生み、「奴隷労働の温床」とまで言われた技能実習制度を反面教師として誕生した。技能実習は単純労働を認めないなど、企業にとって利用しにくい面があったため国も新たな制度創設を急いだ経緯がある。

警備業は今でも外国人を雇用できるが、長期にわたる雇用は「永住者」や「日本人の配偶者」などでないと認められない。そのため、以前より利用しやすくなった同制度に着目。いち早く国の指定を受けて取り組みを開始している他産業の動きなども参考に、制度を有効に活用したい考えだ。

現在、特定技能制度の指定を受けているのは介護業、ビルクリーニング業、素材形成業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設業、造船業・船舶業、自動車整備業、航空業、宿泊業、農業、漁業、食品製造業、外食産業の14産業。ここに「警備業」の名を連ねるための業界一丸となった取り組みが求められている。

以前から日本人が就きたがらない「3K」職場などは外国人が担うことが多く、そこでの仕事はもはや彼ら抜きには回らないことも多い。半面、彼らの待遇は各国の経済事情や貨幣価値の違い、国内労働力の動向などを反映して低く抑えられがちだ。

このほど厚生労働省の検討会がまとめた報告書は、今回のコロナ禍で職を失った外国人の多さを明らかにし、日本人よりも解雇されやすく、再就職もしにくい実態を指摘している。

日本人労働者と外国人労働者を比較できるデータが日本にはまだなく、そうした違いの原因がはっきりしないと厚生労働省は認める。そのため、日本人の雇用動向を追いかけるデータに外国人の動きも含める作業に同省が現在動いており、政治が介入しやすい外国人対策から「エビデンスに基づく対策」に舵を切る考えだ。

日本人より解雇されやすいことを知った外国人は今後、日本に見切りをつけて他の国に移動してしまうかもしれない。そうなってしまえば、人手の足りない日本にとって深刻な事態だ。

それを避けるには、外国人が日本に残りたいと思ってくれなければならない。待遇を上げたり、彼らが働きやすいと感じる環境を整備することが必要だ。

【福本晃士】

経営基盤強化2021.07.01

質の高い警備で料金アップ

「今こそ変革のとき」――。全国警備業協会の「アクションプラン(案)」が、定時総会で報告された。

プランは、慢性化する人手不足対策など5つのテーマから成る。これをたたき台として今後、理事会や委員会、都道府県警協の意見を集めるなどして施策の実践を図っていく方針だ。より多くの経営者・関係者がプランについて熟知し、業界の新たな取り組みに理解を深めることが重要になる。プランの序文に記された「今こそ変革のとき」という思いは、課題克服に向けて業界全体が共有すべきものだ。

5つのテーマの中に「経営基盤の強化・単価引き上げ策」がある。これは警備業界が社会保険の加入促進以来、取り組み続けてきた課題だ。

プランに盛り込まれたのは、警備料金について全国統一の資料を作成し経営者を対象とする研修会を行うことや、全警協の「倫理要綱」改訂の検討、警備員の処遇改善を促すスローガンの制定など。いずれもポイントは“経営者に意識改革を促すこと”である。

プラン策定の議論では、警備員の賃金が他業種に比べて低く抑えられ改善が進んでいないことや、コロナ禍を背景に一部の地域でダンピングに走る業者が見受けられ警備料金の上昇を妨げているなどの意見が出た。改めて経営者全体の意識をより高め、適正料金確保と処遇改善を進めることが業界の発展、健全な競争に結び付くことをプランは訴える。

警備業の経営基盤は、質の高い警備を行って顧客満足度を高め料金アップにつなげるサイクル(好循環)によって強化される。その中で、利益を警備員に還元する処遇改善は、豊富な人材の確保と定着促進を図る上で欠かせない。

コロナ禍が長期化し厳しい環境にあるユーザーに対しては“値上げの話を切り出しにくい”という経営者の声も聞かれる。しかし、料金確保による処遇改善の取り組みを後退させてはならない。より多くの警備会社が着実に取り組みを進めることによって、歳月をかけて業界全体に「変革」がもたらされ、警備業の社会的地位を今まで以上に向上させるに違いない。

企業が、より確かな基盤を構築する方策はさまざまだ。2号警備を手掛ける中小企業の幹部は「昨今は交通誘導警備の現場にもAIが進出しつつあるが、自社の基盤強化策は“人づくり”に尽きる」と話した。

検定合格警備員の配置路線に対応するため社内勉強会を開いて資格者の育成に努める。サービス介助士や防災士など民間資格の取得も推進、管理職は現場をこまめに巡察、指導する。こうした人づくりにより、工事現場などの警備でユーザーから急きょ増員を要請された場合、単に数合わせの増員でなく優れた技能を備えた警備員を速やかに配置でき、信頼を勝ち取るという。

施設の常駐警備では、1年以上など長期契約の業務受注が収入・雇用の安定につながる。その施設内の業務に精通した警備員を育て上げることでユーザーの評価を高めれば、契約更新時に料金アップの材料となる。

人材育成に投資を惜しまない、営業力を磨き新規顧客を開拓するなどの努力が企業を支える。各社のたゆまぬ取り組みと、アクションプランに基づく施策によって警備業全体の基盤が一層強固なものとなってほしい。

【都築孝史】