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「知」に備えあれば憂いなし

歌川令三の複眼時評

歌川令三 プロフィール
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。

「豊洲」で何故いけないの?2017.6.1

小池流<都民ファースト>の罠

<都民ファースト>を旗印に<上から目線>の石原前知事をノックアウト、既定路線の豊洲への魚卸売市場移転路線を白紙に戻した小池百合子知事。「なかなかやるのう」。それが私の初印象だった。だが就任以来、10か月の今、ありていに申し上げるなら「お主、やり過ぎ。豊洲を弄ぶ<自分ファースト>の“危ない政治家”」と評価変えさせてもらった。

なぜか? その手練手管と詭弁を駆使するポピュリスト的政治手法にはうんざりで、私の我慢の限界を超えてしまったからだ。彼女曰く「築地には<安全と安心>があるが、豊洲は<安全かもしれぬが、安心ではない>」などと奇妙な理屈をこねて決定を先延ばしする。

どうして豊洲はダメなのか? 発端は市場予定地の地下水から<環境基準>を大きく上回るベンゼンなどが発見されたことだ。だが、この<基準>とは、「地下水を1日に2リットル、生涯にわたって毎日飲み続けるのが前提。つまりは飲み水の話で、完成後の豊洲の施設で、業者が仮にその水に触れたからといってリスクは<あくまでゼロ>なのだ。

でも、小池氏はそんなことは百も承知の上で「安全は、安心にあらず」という奇妙な理屈を編み出し、大衆の不安を掻き立て7月2日投票の都議選で豊洲推進の自民党を破り、<都民ファーストの会>の第一党躍進を目論んできた、と私はお見受けする。

いつまで続くか<劇場型都政>

さて、これから何が起こるのか? 小池氏の選択肢は、可能性としては3通りある。(1)豊洲案に復帰(2)築地を選ぶ(3)住民投票に持ち込む、だ。いずれになるのか、決定は都議選後に先送りのようだ。豊洲か、築地か? この原稿が警備保障タイムズの読者の目に触れる頃になっても、小池氏からは結論の表明はない、と思う。

私から見れば、<安全=安心>であり、小池氏の<安全と安心の分離>は、強弁が過ぎる。「政治的パフォーマンス過剰の詭弁」と顔をしかめているのは、私だけではない。そのせいか、最近のマスコミの世論調査では、小池人気もひところの<ダントツの勢い>は、やや下降傾向のようだ。

それでも支持率は高水準を維持しているようだが、豊洲を担ぐ自民党も人気を回復しつつある。果たして都議選の結果は? 小池氏は、4月初旬、米誌TIMEで「世界で最も影響力のある百人」に選出されたが、もしかしたらこの辺が小池人気の頂上だったのかもしれない。

<小池流劇場型パフォーマンス>の泣き所は、「豊洲にケチをつけた」ものの「築地が良い」と断言できないことだ。老朽化の進む築地市場。もともと荷捌きスペースが不足しており、大型トラック輸送の時代には不向き。アスベスト飛散の危険を抱え、さらには1954年の“原爆マグロ”の放射能問題もある。

「拳を振り上げる様はカッコいいが、下ろしどころが難しい」それが彼女の政治結社<都民ファースト>に内在する“根本的な弱点”とお見受けする。