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「知」に備えあれば憂いなし

歌川令三の複眼時評

歌川令三 プロフィール
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。

ヤバいぞ! 米朝〝核問題〟首脳会談2018.4.1

-<私の悪夢>「北」はニンマリ、さて日本は?-

史上初の米朝首脳会談が5月までに開かれることになった。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、「北」のシンパ?である文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の斡旋で、<非核化>への意志と<核ミサイル実験>の一時“凍結”に応じ、米国との会談を求め、これにトランプ大統領が応じた?という筋書きになっている。

まだどこで会談するのかは、決まっていないし、どんな会談になるのかは不明だ。でも、数ある日本の新聞の中でもリベラルで平和主義を標榜する朝日、毎日などは「韓国の文大統領は、一定の役割を果たした」と評価。「米朝が緊張をほぐし和平へ向けての直接対話は望ましいこと」と早くも期待を寄せている。

だが、国際情勢の真実を掴むには、「“辛口”に解釈することをもってよしとする」リアリストの私は、そうは思わない。むしろ「あの言動に一貫性のないトランプ氏は、したたかな“北のロケットマン”金正恩氏に一杯喰わされる危険なきにしもあらず」と懸念している。

そのカラクリは以下のとおりだ。例えば北朝鮮は<核保有の全面放棄>の要求を、<さらなる核開発の停止>という“現状維持”にすり替えてしまう。すなわち、北の核はあと一歩のところで、米国本土に届くには至っていないのだが、一応「ここで凍結する」腹積りではなかろうか。その可能性は極めて高いと言わざるをえない。<核抜き北朝鮮>などそもそもありえない。

「経済制裁なんてなんのその」。軍事的に見れば「北朝鮮―核=0」であり、核保有は彼らにとって国家存立の必要条件そのものだからだ。韓国のお膳立てに乗ったような顔をして、米国の顔色を伺うために首脳会談に臨むものの、“面従腹背”を貫き通すのではなかろうか?以上が私の読み筋だ。

トランプの思惑+「北」の面従腹背=日本の自主防衛

これは、あくまで一つの仮説だが、核放棄を拒む「北」に、業を煮やしたトランプ氏が核を持って先制攻撃を加えたらどうなるか? 答えは「そんな事態はありえない」だ。

なぜなら「核保有国同士の戦争は、相互の核兵器が<抑止力>として作用するので、起こりえない。それが国際社会の“力学”だからだ。そんなことは、「北」の“ロケットマン”委員長は百も承知にちがいない。

むしろ、大方の予想に反し、5月の首脳会談で米国は「北」に対し融和策を取り、<米国に届かない範囲での核保有>を認めた上で、双方は<戦争はしない>という了解が成立する可能性も否定できない。

もしそうなったら<国の交戦権を持たない専守防衛>を標榜し、足らざるところは、核の傘をさしかけてくれる同盟国米国におんぶに抱っこの日本にとって、核付きの「北」は、日本国の存在そのものを脅かす致命的な脅威になってしまう。

大方の日本人は、(1)日本は戦争放棄の平和国家(2)軍備は国の交戦権を持たない専守防衛の自衛隊に限定(3)日米同盟の元で米国の核の傘にはいる――という平和憲法の<安全保障観>の信者だ。

だが、そのような“他力本願”は、通用しなくなる? 「北」の核が日本にとって脅威であっても、これを<米国の核>が永遠に阻止してくれるという保証がなくなってしまうからだ。<日本の核武装と自主防衛>という選択肢、どうやら<絵空事>ではなくなりつつあるように思えるのだが…。