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「知」に備えあれば憂いなし

歌川令三の複眼時評

歌川令三 プロフィール
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。

もし<AI>が市長になったら?2018.5.21

「アホなこと言うな」と笑えぬ実話

「エッ AI?」「ハイ。そうです。人工知能です」AIを搭載したロボットが人間の仕事のすべてを肩代わりする時代なんて絶対にやってこない。なぜなら機械であるロボットには人間の<感性>を読む能力がないから…。でも人間の思考のうち<論理>、すなわち数学に置き換えられる部分の多くは、人間の労働力はAIの機能を持つ計算機に代替される時代がすぐそこに迫っている、のではないでしょうか?(『AIと教科書が読めない子供たち』の著者、新井紀子氏によれば、今日のロボットの記憶力は英語の単語や世界史の年号など、凡庸な大学生など足元にも及ばないほど進化している、とのことです)

さてここからが本題。私の住む東京都多摩市で先日、市長選挙が行われた。4選を目指す阿部裕行現市長(62歳)を向こうに回し「市政にAIやITの概念の導入」を旗印に2人の人物が立候補した。1人は松田道人(44歳)。職業はインターネット会社の社員。「AIを駆使する若い市長の手で公明正大な市政を」と。「AIはしがらみも忖度(そんたく)もない概念であり、公明正大な政治ができる」と訴え、その技術で(1)予算編成の無駄排除(2)バス路線の最適化(3)役所内の不適切な行政文書をチェックする――などを訴えた。

もう1人はパルテノン多摩(ギリシャの神殿を真似た壮大な建築物)や市庁舎など<箱もの>の公共施設改築のための浪費や乱脈計画の見直しと、行政サービスのIT化を訴えた79歳の都市工学の高橋俊彦博士だった。

投票率は36パーセントと低調。その中で現市長が3万4000余票で4選。2位はITの高橋氏の4400票、そして3位がAI推進の松田氏の4013票だ。さて、この2人の“インターネットによる市政の改革候補”の票を少ないと見るか、それとも健闘とみるか? 65歳以上の高齢化比率が26パーセントと極めて高く、「ITとかAIとか何のこと? それって市役所と関係あるの? アホなこと言うな」という選挙民の多い多摩市。それにしては、この2人の<にわか仕込みの泡沫候補>は大方の予想以上に票を集めたのではないか――と思う。なぜか?

<AI導入>で企業は淘汰されるのに…

定年までの雇用と“高給”が保証されているのが、市役所など<親方日の丸>の役所勤めの公務員だ。だがAI時代の民間企業に勤めるサラリーマンは、そうはいかない。「AIに仕事を奪われクビになる。あるいは会社自身が、AIの普及で存在意義を失い倒産する」そういう時代がやってくる。お役所さんよ。少しは民意を汲んで行政の簡素化と効率化のためにAIとかITを導入し、コスト削減に努めたらどうか? そういう悲痛な叫びが、多摩市のような老齢化の進んだ活気のない住宅コミュニティーでさえ起こりつつある。いわんや大都市においておや!