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「知」に備えあれば憂いなし

歌川令三の複眼時評

歌川令三 プロフィール
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。

<真夏の怪談>あやふやな?日米同盟!2018.8.21

-いつまでもあると思うな<米の庇護>-

今回の時評は、あくまでも<仮説の世界>のお話で、「そうなるという蓋然性の論証抜きの怪談」です。旧盆にちなんで、“おっかない逆説”を一席。

手っ取り早くいうなら今の日米関係は「安倍首相とトランプ大統領はChemistry、すなわち“ウマ”が合っており、だからうまくいっている」という日本国の“一方的思い込み”を前提に成り立っている。だが、それはあくまで建前で、「トランプは、そんなことを思っていない」としたらどうなるのか?

かなりやばいことになるぞ! 私の頭からどうしても離れない<真夏の夜の悪夢>だった。

そんな思いに駆られ、「これからの日米関係はかなり危ういのではないか?」と悩んでいた私、7月の下旬、日系アメリカ人の安保専門家との内輪の討論の集会に参加した。トーマス・カトウさんという80歳の人物だ。この人は日本語で書かれた「ドナルド・トランプ物語」(副題・パックス・アメリカーナからの訣別&アメリカファーストの偉大なるアメリカ)の著者だ。

彼はこう言った。「トランプの対外政策で一番後回しになっているのが、対日政策。これからが、正念場です」と。「どうヤバイのか?」私も含めて十数人の日本側の論者は、一斉に色めき立った。

彼の指摘したトランプの論点は(1)アメリカの平和の傘はもはやない。まず、自分で守れだ(2)トランプは日本からの米軍の撤退を考えている(3)米国の日本での駐留経費は日本の防衛費の2倍以上。もし米国に守ってもらいたいのなら日本のGDPの3パーセント相当を払え(4)しかし、米国は日本の自主防衛が基本と考える(5)そのための日本の核保有は容認する――と。

いやはや、<世界の警察官米国>におんぶに抱っこで、軽武装の“安上がり安保”を謳歌してきた平和憲法日本(実はこれは米国製、マッカーサー元帥の占領軍が作った)にとって、もし米国が本気ならそれは、かなり高額、かつ発想の異なる“献立表”だ。

これに加えて、(6)番目のポイントとして米軍の韓国からグアムへの撤退と、北朝鮮向けの戦術核の発射準備がある。

だが、トランプはそのことを含めて、公式にも非公式にも、まだ一切、発言していない。そこが現段階では日米関係の裏の裏に潜む“真夏の怪談”の域を出ていない最大の理由だが…。

トランプの深謀遠慮「安倍は気付いている」

結論から先に言おう。前述のカトウ氏の仮説はともかく、安倍首相は「トランプは、“アメリカ・ファースト”の思いを具体化するため、これまでほとんど手をつけていなかった<抜本的日本対策>を行う準備をしている」ことは、予見しているのではないか、と私は思う。

もちろん、安倍氏からはそれを思わせるような明快な発言はない。日米関係で安倍氏の公式発言として残っているのは、昨年8月15日のトランプ氏との電話会談後の談話だ。彼は「大統領の同盟国日本の安全に関するコミットメントを高く評価する。日本は<強固な日米同盟>のもとで、国民の安全を守るつもりです」と。でも、あれから一年、安倍氏は、それが“希望的観測”に基づく発言であった、ことをとうに気付いているらしい。

昨今の安倍氏は、<トランプのアメリカ>への“おんぶに抱っこ”を修正、欧州はもちろんロシア、中国にも<秋波>を送り、トランプ氏の際どい<アメリカ・ファースト主義>への依存を修正しつつあるように見受けられる。

 

これからの日米関係は一体どうなるのか?<米日は同盟国なのか><日本は従属国なのか>、それとも、日米は太平洋を挟む<普通の関係の国>なのか? いやはや、これは私の“独り言”です。