歌川令三の複眼時評
歌川令三 プロフィール |
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。 |
“文系男”のパソコン受難記(上)2016.7.21
<windows10>が攻めてきた
恥ずかしながらこの話、私の身の上に起こった実話です。全国紙の記者歴30年の小生、文章書きは手慣れたものと自負している。でも、パソコン操作は極めて不器用。英語では、その手の人間をdigital divide(二進法の数理音痴)というらしいが、以下はその表現がぴったりの“文系老年”の嘆き節だ。
ここ1か月ほど、小生のパソコン(windows7)は画面一杯に暴れまわるマイクロソフト社の<windows10への転換勧誘メッセージ>に翻弄され続けてきた。「それは操作を難しくするだけ」と判断した私、その都度、丹念に<転換拒否>をクリックしていた。だが画面上での抵抗虚しく強引に<10>にされてしまった。
それでも諦めきれない私、最後に現れた「以下は法律的手続きのための確認……」と銘打った画面で、<拒否>を選択、クリックした。ところがビックリ。突然、画面が暗転、そして動かなくなってしまった。パソコンの修理屋に持ち込む。なんとか起動してもらった。
だが、喜びもつかの間。翌日我がパソコンの起動スイッチを押したら、画面は“真っ暗”。再度、懇意の修理屋に駆け込んだ。だが診断は「修理不能」。つまり“パソコンの死”だった。
新しいパソコンを購入するしか選択肢はないと宣告された。しかもその前に、破壊された我がwindows7から、データを救出できるかどうか?過去10年にわたる小生執筆の原稿や、研究メモなど千数百件、私にとっては命から二番目の“知的財産”が保存されている。
「おお、万事休す。金ですむことなら……」。覚悟を決めるしかない。私の支払ったお金は、(1)データ救出費3万5000円(2)新型パソコン購入費13万円(3)印刷機との接合など雑費1万円、締めて17万5000円也。金もさることながら、悔しさで頭に血がのぼる。俺のツキは落ちた。「仏滅、三隣亡」とはこのことか、と。
「同じような被害にあったお客さんは大勢います」。顔見知りになった修理屋のお兄さんはそう言った。「まさか?」半信半疑だった私は数日後、まさしくその通りであることを確認した。
「オオ、お前もか!」高齢者にも被害続出
小生の高校卒業後、“何十年目”の同窓会の幹事会の出来事。雑談のネタのつもりで、私はパソコン受難の話を披露した。出席者8人中、パソコン使用者7人、うち小生の他にもう一人<windows7>がいた。そこでビックリ。この学友が「なんだって?お前もか。実は俺も被害者だよ」と言うではないか。元大手TV放送局の記者Y君だ。受難の経過は、私と全く同じだった。彼の場合は、さらに、壊されたパソコンに貯蔵されていた数十本の音声付き映像が永遠に逸失、というオマケまでついていた。
「全くなあ、踏んだり蹴ったりだよ。勝手にアップデートしやがって」。「訴訟を起こしたらどうなんだ?」という学友も。だが、それは<骨折り損のくたびれもうけ>になる公算大という結論が出た。
「相手は訴訟大国アメリカで、大勢の弁護士を抱えるしたたかな大企業。勝てる見込みはない。時間も費用もかかる。それよりも精神的疲労で自滅してしまうよ」と。いやはや、ネット社会とは、住みにくいですねえ!(この項、次号に続く)