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「知」に備えあれば憂いなし

歌川令三の複眼時評

歌川令三 プロフィール
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。

辛口批評・「北」の核にどう立ち向かうか?2018.2.21

-トランプも[OK]、日本の核武装-

エッ。トランプ大統領も賛成なの? そんな馬鹿な」。このコラムの表題を見た読者の皆さんは、そう思われるかもしれない。だが、建前や美辞麗句を断固排するリアリストの安全保障論者(私もその端くれ)に言わせれば、日本の核武装は<至極当然>の答えなのだ。「でもそんな怖い話、新聞も真面目に取りあげていない」と首をかしげる読者も多い。無理もない。<唯一の被爆国日本>の大新聞は「日本よ。核武装せよ」などという際どい話は避けて通る傾向、“無きにしも非ず”だから。

だが、アメリカの言論界では、<日本の核武装容認論>が主流を占めつつある。口火を切ったのは、実はあのトランプ大統領。曰く「何よりもアメリカ・ファースト。米国に世界の警察官はできない。金がかかる。日本や韓国に核兵器を保有させる選択はある」=ニューヨーク・タイムズ、2016年3月の報道=と。これが呼び水となって、ティラーソン国務長官、マケイン共和党上院議員など続々と賛成派が増えている。

彼らの認識とその主張の骨子は(1)太平洋地域での対中国防衛費の大半を負担したオバマ前政権の政策は、金の浪費だった。北朝鮮、中国など“敵対国”との戦争リスクを逆に高める結果を招いた(2)在韓米軍を撤収する。その埋め合わせとして日本や韓国に核を保有させ、中国の西太平洋での地政学的野心の封じ込めに参加させる。そうすれば米国は大幅な防衛費が削減できる――という理屈だ。

そのために米国は「北」を<名実ともに核保有国>であると認知した上で、西太平洋地域から手を引くつもりなのだ。日本はどうすればよいのか? したたかな“普通の国”にいかに変身すべきか?トランプは、敗戦後70年の<平和ボケの同盟国>日本にその答を迫っているのだ。

日米・核coupling(カップリング)の勧め

“普通の国”になるためには日本はいかにすべきか? 「言うは易く、行うは難し」を承知で言う。その第一歩は、<核アレルギー>からの脱出だ。逆説的な言い方だが、米ソという二つの核大国が、角突き合せていた冷戦時代は、安全保障の観点からいうと東西の横綱がガッチリ組み合った<水入り相撲>で、安定した時代。だから唯一の被爆国として「ああ許すまじ。原爆を…」のお題目を唱えていれば、すべてOKだった。

だが核の拡散でそのような<ノー天気時代>は、過ぎ去った。ちなみに現在、世界の核保有国は、米、露、英、仏、中、インド、パキスタン、イスラエル、イラン、シリア、北朝鮮。そして共有国として独、伊、オランダ、ベルギーだ。

もはや世界の平和は、拡散した核同士の微妙なバランスの上に成り立っているのだ。しかも、ならず者国家の異名をとる「北」の核保有を<国際社会>が事実上認知してしまった今日、<核保有論議>がいまだに封印されている日本の国会は<時代錯誤>としか言いようがない。

今、日本がやるべき戦略。私のお勧めは、まず「持たず、作らず、持ち込ませず」の<非核三原則>のうち、少なくとも「持ち込ませず」を外すことだ。米国から持ち込まれた“核の共有”による自国の安全保障を、専門用語では、<核のカップリング(coupling)>と言う。カップリングとは夫婦のように一対になること。核持参でやってきた米軍が日本の自衛隊と共同で操作して、「外敵と戦う」というシナリオだ。この方式はすでにドイツと米国の間で有効に機能している。

このアイデア、トランプはもちろん[OK]に違いないと思うのだが…。