視点
最低賃金2025.08.21
価格転嫁と質の向上を
今秋から適用される全国平均の最低賃金は63円(6.0%)増の1118円――。7月11日に始まった、今年度の最賃「引き上げの目安」を検討する厚生労働省の審議会が8月4日決着した。
現行最賃の全国加重平均額は1055円。東京など首都圏や東海・近畿地区などでは1000円を超えるが、多くの県が900円台。全都道府県の最賃が1000円を上回るのは初めてだ。
賃金の地域格差是正を訴える働く人には朗報だが、高騰を続ける人件費や原材料費に悩まされつつも、価格転嫁もままならない地方の中小企業や小規模事業者からは“ため息”が聞こえてくる。
警備業への影響も大きい。今後、これまで地方の多くの警備会社が提示してきた「日給8000円」は違法となる。「日給9000円」さえ違法となる都府県もある。
新たな最賃(時間給)に基づく日給や月給などの賃金見直しは焦眉の急だ。
昨年の審議会では、使用者側委員の強い反対にもかかわらず、24年度最賃は“過去最大”51円の引き上げとなった。7月に始まった25年度の審議会でも、使用者側は当初から慎重な議論を求め、会議も前回の5回を上回る7回開催されたが、最終的には24年度をさらに上回る結果となった。
政府は「20年代に全国平均1500円」を目標に掲げる。この目標達成のためには毎年7%程度の引き上げが必要だ。今後も最賃の大幅引き上げは続くものとみるのが妥当だろう。
一方で、政府は最賃大幅引き上げを機に、中小企業や小規模事業者の生産性向上を支援するとともに、官公需対応や価格転嫁対策を徹底するとしている。加えてキャリアアップ助成金や働き方改革推進支援助成金、人材確保等支援助成金など各種助成金についても、賃上げ支援の観点から充実させる方針だ。
警備各社には、これら政府支援策の積極的活用と、これまで以上の価格転嫁への取り組みが求められる。そのためには「警備員になるには法で定められた教育が不可欠」「特定の警備業務には国家検定に合格した警備員が必要」――といった警備業の実情を発注者に理解してもらうとともに、これまで以上に警備の質向上を図り、提供していくことが必要であることは言うまでもない。
【休徳克幸】
管制システム2025.08.01
「警備業DX」の急先鋒
警備業界で「管制システム」の導入が進んでいる。かつては「警備員の上・下番報告を携帯電話からの打刻方式にして集中する電話対応から管制員を解放すること」が導入目的だった。そして今――。
管制システムを提供する企業は切磋琢磨して新機能を開発。導入メリットが一層高まった。例えばスマートフォンの画面上に現場管理者の手書きサインをもらいメール送信できる「電子日報」や、勤怠システムと連動した「発注書・請求書の自動作成」「給与自動計算」などの機能だ。いずれも現場と管制、バックオフィスの手間と経費を削減する。
最近発表された機能の一つに「体調報告」がある。straya(ストラーヤ)の管制システム「くもかん」に追加された機能だ。「熱中症対策が6月から強化され、体調不良の警備員が現場に出るリスクを事前に把握したい」というユーザーの声に応えたもので、使い方はこうだ。
警備員はスマホアプリで「自宅出発」を報告する際に表示される「体調報告画面」から「体調の良し・悪し」を選択。「悪い」を選んだときは症状を入力する。管理者は事前に警備員の体調を把握し、適切な配置を組んで熱中症発生のリスクを減らすことができる。strayaの渡辺拓也社長は「体調不良の警備員を早期にケアすることは長く勤めてもらう効果も期待できます」と語る。導入効果は今や警備員の健康管理や定着率にまで及んでいる。
本紙はこれまで8社の管制システムを記事紹介してきた。取材で感じたことは、システムの機能以上にメンテナンスやカスタマイズなど運用面でのサービスが大切であること。システムが本稼働し使い慣れていくうちにユーザーのリテラシー(能力)が向上、機能拡大などの要望が出るためだ。
管制システム「ShiftMAX(シフトマックス)」を10年以上前に開発、提供を続けるKYODOU・澤橋秀行社長は「お客さまの困り事を解決するためには技術力の他に経験値が必要。当社ではサポート力を強化する社員教育に一層力を入れたい」と話す。
スマホが普及し「警備業DX」の急先鋒となった管制システム。今後はAIを活用し最適な配置を提案する「自動配置」などが実現される見通しだ。本紙は引き続き動向をお伝えしていく。
【瀬戸雅彦】