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「知」に備えあれば憂いなし

歌川令三の複眼時評

歌川令三 プロフィール
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。

〝格差〟の比較文化論 2018.1.1

<謙虚な2号警備>VS<傲慢・NHK>

今回のテーマは、2つの<公共性業種 >に関する“へそ曲がり”的論評です。

いやはや、よく考えてみれば、日本とは“奇妙な文化”の国。へんてこな話だが、“上から目線”で、いつもお高くとまっている高給取り“NHK様”がいるかと思うと日本で掛け値なしに最低の賃金水準!に甘んじながら、「ご迷惑をお掛けします」と日々、工事現場で愛想よく通行人に声掛けを怠らない“交通誘導の腰の低い2号警備のおじさん”、そして時にはおばさんたちがいる。

どちらも法律的には<公共>の2文字を旗印にしているのだが、警備員はその身分や処遇が劣悪であるだけでなく、<殿様NHK>に比べると業法に基づく、守るべき義務がかなり多い。改めて調べてみたのだが、びっくり仰天!

すなわち2017年のNHK職員の平均年収は1126万4657円(40歳勤続17年)。これに対し警備員の平均年収は258万円、しかも7割の人々は月収15〜20万円。牛乳配達や新聞配達、あるいは用務員(月収22万円)よりも低い。家族手当も“原則としてゼロ”。

ところが、である。日本で一番低い給与水準でありながら、警備業はNHK職員よりはるかに厳しい『公共性』の遵守を義務付けられているのだ。例えば警備業法により(1)厳格な教育(基本教育15時間以上、業務別教育15時間以上)を受ける(2)資質の向上に努める(3)警備の法令を身につける(4)事故発生時における警察への連絡、応急措置をする(5)護身用具が使えること、などだ。

でも、2号警備の人手不足は、もはや深刻さを通り越している。これでは、いずれ警備業界はやっていけなくなってしまう。私は本紙が創刊された2012年3月から、この<時評欄>に、原則として1回おきに随想を連載してきたが、その間一貫して警備員の有効求人倍率は、「4」を上回っている。

すなわち求人4人に対し応募者は1人という超不人気の業種であり続けてきた。それにもかかわらず、この<2号警備の職業>を死守している<奇特な産業戦士>が残っている。それが「あの貴重な2号警備・交通誘導の笑顔と気持ちの優しいおじさんたち」なのだ。

「なぜいつもニコニコ?」「こちらから笑顔を向ければ、必ず通行の方も笑顔で応じていただけますからね」と。職安統計の数字のみでは、語り尽くせない人情の機微の世界が、まだ警備の現場には残っていたのだ。

どこへ行くのかNHK?

ところで、12月の最高裁の<合憲判決>で、受信料の徴収が原則認められた格好のNHKはどうなるのだろう。今のNHKのあり方が「すべて肯定された」とは私は思わない。

単に「受信料を徴収しても良い」。それだけの判断が下されただけで、重要なのは国民が費用を負担するに値する公共放送とは何か?果たしてNHKはそれにふさわしい番組を提供しているのだろうか?をもっと真剣に議論すべきではないか。

またNHKはごく近い将来、インターネットでテレビと同じ番組を流す「常時同時配信」を計画中とのことだが、この新しい受信料の課金問題も浮上するかもしれない。要注意だ。同社の28年度決算によれば事業支出のほぼ全額6793億円が、受信料で賄われている。どうなる訴訟は? 徴収は?

これからも“要注意”だと、私は思う。