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「知」に備えあれば憂いなし

歌川令三の複眼時評

歌川令三 プロフィール
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。

エッ「これが俺の人脈?」2017.8.1

〝あの人検索〟<SPYSEE>の怪

大げさな表現かもしれぬが、小生のパソコンが“スパイ”されている。それを知らせてくれたのは、私が昨年まで非常勤講師を務めた社会人を対象とする某大学院経営学科の教え子の一人で、経営学修士の資格を取得した敏腕なビジネスマンO君。先日、「先生。これ面白い。でもかなり胡散臭いです」の添え書き付きで、 <歌川令三のAI相関図> なるものを転送してくれた。

「有名人の人間関係丸わかり」と称する1枚のカラー写真の絵図だった。小生の顔写真を中心に放射状に線が延びており、まず <最も近い知人> 10人と結ばれている。ところが、である。なんとこのうち4人は、全く知らない人物だった。

例えば私は世界平和研究所に、通算で十数年、研究職として在籍。とりわけ会長の中曽根康弘氏には目をかけていただいたが、相関図によれば、S氏という人物が間に入っている。会ったことも聞いたこともない未知の人。ネットで調べてみたら元読売新聞の販売店主で、 <不当な搾取である> と本社を告訴、最高裁まで争った人物だった。どうこじつけてみても、私と中曽根氏の出会いの仲介役を務める人物像とはほど遠い。

それだけではない。この10人の“コアの人物”から派生し、さらなる「歌川令三の <AI人脈> 」と銘打って、50人の顔写真が掲載されていた。だが、人脈の相互関係がデタラメで、しかもこのうち35人は、会ったことも聞いたこともない未知の人物だった。

この“デタラメ人脈相関図”の作成者は誰だろう? O君が突き止めてくれたのが、「SPYSEE=スパイが見ている」という名前の検索エンジンだった。株式会社オーマなる企業が運営する「人物間のつながりを可視化する検索エンジン」とのことで「このサービスを利用して著名人の氏名を入れると、関係する人物の相関図が閲覧できます」と。

「ギョエテとは俺の ことか」とゲーテ言い

なぜ、そのようなことができる? 「インターネット上での <共起関係> に基づく独自アルゴリズムに、機械学習・人工知能技術を加えて、人物同士のつながりの強さを算出する」とのご託宣だ。

いやはやびっくり。著作物などから私の人脈を類推する。その上で(1)私のネット通信の中身を傍受しているわけではないが、私と誰がネットで頻繁につながっているかを監視する(2)そのデータを独自の計算方法=アルゴリズムで整理する(3)結果を人工知能の能力を活用して私の人脈をあぶり出す――という段取りだ。

だが、幸いなことに極めて精度が低い。唯一、当っていたのは、この複眼時評の筆友、河内孝氏が私の <最も親密な人脈> に挙げられていたことだけ。新聞記者時代からのもう一人の仲間であり著書もある元早稲田の投手、六車護・本紙社長は、この <私の人脈図> には一切登場していない。まだ検索システムそのものが幼稚だからだ。

今はただ苦笑するのみ。そこで川柳を一句。「ギョエテとは、俺のことかとゲーテ言い」。でも、他人のプライバシー覗きのこの <スパイ検索エンジン> が将来、さらなるAI革命の波に乗って飛躍的に精度が上がったらどうなるか。

そもそもこのサイトは、勝手に私人にまつわる情報をもてあそび <肖像権> や <個人情報> 侵害の危険性をはらんでいる。米国では、似たようなサービスをやっているグーグルに、「著作権法違反ではないか」との声も出ているとのこと。要注意である。