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「知」に備えあれば憂いなし

歌川令三の複眼時評

歌川令三 プロフィール
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。

「北」のサイバー攻撃と日本 2017.11.21

見くびるとヤバイ<安保>の盲点

北朝鮮の<核>の脅威と問題点はほぼ語り尽くされた感ありだが、どっこいもう一つ厄介なテーマが残っている。それはサイバー空間(CYBER=ある国のコンピューターとよその国のコンピューターの相互関係)で起こる、目に見えない“電脳戦争”のことだ。

相手国のコンピューターに侵入し、データを盗み、撹乱することによって、その国のシステムを機能不全に追い込むのが目的だ。目に見える戦争とは異なり、誰が仕掛けたのか、およその見当はつくものの、十分な<物的証拠>を挙げにくい陰険で厄介な“ナウイ”戦争である。

“新しい安全保障”論によれば、<陸>の取り合いの戦争は、大方終局に入りつつある。これからの世界は、<海>、<宇宙>そして<サイバー空間>をどの国、どの民族が支配するかが、争点になるという。

“平和国家日本”ではこの種のテーマはおよそ受けないようだが、北朝鮮は、この“現代の安保論”には極めて敏感。特にサイバー戦争への関心と知識は、世界の<八傑>(米、露、中、英、仏、イスラエル、イラン&北朝鮮)にランクされている。

米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の分析によれば「北」は、政治的にも軍事的にもサイバー技術を重視、開発投資に力を入れているという。朝鮮人民軍偵察総局所属の<91部隊>に6000人もの優秀なハッカーが在籍、「アメリカと渡り合う」を合言葉にしているという。

では、守りの方はどうなのか?

皮肉なことに、インターネットは限られた人(政権幹部、軍人、工科大学生)しか使用許可されていないし、さらに国外から隔絶されているので、他国からのサイバー攻撃のリスクは極めて小さいという<非対照の利点>がある。だから「北」にとっては、おあつらえ向きの安くて使い勝手抜群の兵器なのだ。

では日本はどうか? 2015年、日本年金機構が国籍不明国(多分、中国)のサイバー攻撃で、受給者名簿などが大量に外国に流出した事件を覚えていますか?

お粗末な日本の<サイバー安保>対策

政府はこれを機に内閣にセキュリテイ・センター(NISC)なる機構を設置した。だが、サイバー防衛は「言うは易く、行うは難し」。日本が当面するサイバー戦防衛上の致命的弱点は、サイバー兵器を保有していないことだ。すべてアメリカに抱っこおんぶ。例えば日本の官公庁や大企業は米国企業の提供のウイルス除け装置を使っている。ここから秘密が米国に漏れる危険が大きい。

このような“軍事的・技術的”脆弱性に加え、もっと本質的な防衛思想の“認識”の問題がある。それは、「専守防衛」という“実物世界”の<憲法9条的思想>は、<デジタル空間>では全く通用しないどころか、ナンセンスであることを知っておくべきだ。

“電脳世界”では<見えない相手>をあらかじめ封鎖することは不可能に近い。

今、世界の主な国々では、我々日本人の目に見えないサイバー領域で、自国の利益拡大のための陰湿な戦闘を繰り返している。その中で日本は“丸腰”のままでいいのだろうか?