歌川令三の複眼時評
歌川令三 プロフィール |
横浜国大経済学部卒。毎日新聞社に入社、ワシントン特派員、経済部長、取締役編集局長などを経て退社。中曽根康弘氏の世界平和研究所設立に加わり、主席研究員。現在、多摩大大学院客員教授。著書に「地球紀行 渡る世界は鬼もいる」(中央公論社)「新聞がなくなる日」(草思社)など。 |
英国のEU離脱とは何ぞや?2017.2.11
<トランプ現象>と同根なり
昨年6月の国民投票に続き、今年1月、大方の予想に反し、首相のメイ女史は「関税同盟からの撤退」を宣言した。これで、遅くとも2年後には 英国のEUとの“完全なる離婚”が実現する。これは英国のリベラリズム(実態はともかく、“建前としての自由、平等、人権”を重んずる“上から目線”のエリートの政治思想)の敗退だ。また、外交的にはEUという舞台で展開しようと目論んできた英国の<グローバリズム>と<国際主義>路線の終わりを意味する。
そしてこれからの英国は経済のみならず、地政学的にもヨーロッパ大陸離れする。「<英国・ファースト>、サヨナラEU」だ。それ、どこかで聞いたことあり…。ハイ。<アメリカ・ファースト>。米国45代大統領トランプ氏のセリフです。
以上のような英国のEU離脱決定の<意外性>をメディア論の観点から言わせてもらうなら、それは米のトランプ現象と<完全に同根>で、米国発のトランプ旋風が英国に飛び火したのだと私は思う。なぜ、そのような結論になるのか?
それには米英のTV、新聞事情についての若干の予備知識が必要だ。米英のブルーカラーは、知的でリベラルな高級紙は読まない。そしてリベラルを標榜する全国ネットの主要TVの政治的見解も草の根大衆には、影響力を持っていない。
このような日本とは異なるマスメディア事情のもとで、さらに以下のような大方の予期せざる現象が重なり、予測の“大番狂わせ”が起こったのだ。
(1)米国の主要マスコミは、リベラルをモットーとしており、トランプの勝利など頭の片隅にもなかった。だが事後的に判明したのだが大マスコミとは無関係の米国SNS利用者の55%は、トランプに投票していた。
(2)また知識人相手の英の主要マスコミは多くの物言わぬ大衆が、英国のEU離脱に賛成するとは、想定していなかった。
(3)上から目線のリベラル政治家に、“NO”を突きつけた主役は米国では学歴の低い中年白人労働者。英国では学歴が高卒以下、及び45歳以上の男性ブルーカラーだった。
そして「連合王国」は 分裂か?
以上のような屈折した事情から英国は
英のEU離脱は、イングランドとスコットランドの二つのナショナリズムの対決で<連合王国分裂>の可能性なきにしもあらず。トランプ出現以来、グローバリズムや地域統合主義から、