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警備業ヒューマン・インタビュー2025.06.01
鈴木裕さん(日光警備保障 代表取締役社長)
多様な来館者に対応
<<警視庁四谷署管内の警備会社でつくる四谷警備業連絡協議会の会長に就任しました>>
1974年の協議会設立以来、四谷署が行う交通安全や防犯に関する街頭での広報活動に参加してきました。今後も参加を継続しつつ、協議会としても主体的に活動できればと考えています。
当協議会のある新宿・四谷周辺は、交通の要衝として発展し続けるとともに、国内外から多くの人が訪れる一方、大通りから奥に入ると高齢者や子どもが暮らす住宅街があります。例えば署管内28町会で行われる行事に協議会として参加し、詐欺被害防止を呼び掛けるなど、地域の警備業の団体として住民認知してもらえるような広報活動を行い、地域の安全・安心に貢献したいです。
教育活動としては、会員会社の若手社員が参加しやすい研修会など警備やサービスの品質向上につながる研修会を開催したいと考えています。会社単独で外部から講師を招いて研修を行うことが難しくても、協議会が開催することにより、負担を掛けずに研修会を行えるでしょう。
<<鈴木代表はどのようなきっかけで警備業と関わったのですか>>
学校を卒業し30年近く宗教法人の団体職員として勤務し、施設管理や渉外を担当してきました。関係施設の人的警備を手掛ける日光警備保障とは日頃からやり取りがありました。
こうした経験を買われ、施設警備と身辺警備を手掛ける日光警備保障に2008年に入社し、10年に社長に就任しました。当社が警備を担当する施設は、宗教施設のほか、政党本部、小・中・高・大の教育施設、美術館など多岐にわたります。施設に来る人の属性や目的、思いもさまざまで、来館者に応じた警備員教育を行う必要があります。共通する心構えは「Smile(スマイル=笑顔)・Soft(ソフト=柔軟)・Sincere(シンシア=誠実)」で「来館者第一」です。
<<施設警備で難しい対応を迫られることはありますか>>
宗教施設や政党施設への来館者の中には、動画をネット配信するため、撮影しながらやってくる人もいます。その対処法などを現任教育を通じ、施設ごとに細かく指導しています。
SNSには“爆破予告”のような投稿もあります。先日も施設に物を投げつける事件が起きましたが、警戒を強化していたので警備員が速やかに犯人を捕らえ、警察に引き渡すことができました。
<<身辺警護も手掛けています>>
4号警備員向けの教育では、警視庁本部と四谷署から現役のSPに参加してもらい身辺警備に関するデモンストレーションを行っています。聴衆に対する対応、講演会や車両の乗降を想定した隊員の配置や動作などを披露し合い、当社隊員は警察から講評を受けます。その訓練の映像は教育の“バイブル”となっています。
警備員が受傷事故に遭わないよう細心の注意も払っています。17年には、施設に放火しようと燃料を持って塀から侵入した少年を施設外に連れ出そうとした警備員が、ナイフで切り付けられ軽傷を負う事故が起きました。それ以来、侵入者と一定の距離を取ることや防刃手袋の使用など、再発防止策を徹底しています。
<<警備やサービス品質の向上についてはどのような取り組みを行っていますか>>
当社は隊員の英語対応力の向上と世界の施設警備関係者との交流を目的に、19年から国際博物館会議(ICOM)の賛助会員に登録しています。
ICOMにはルーブルなど世界の名だたる美術館や博物館が加盟しています。それらの警備担当者が集まる会合が19年に京都、23年には東京で開かれ、寺社や美術館の警備状況を視察するプログラムをお手伝いしました。視察では国宝を展示する施設に警備員が配置されていない状況を見た参加者が愕然としていました。海外では貴重な展示物には破損や盗難のリスクに備え、武装警備員を配置することも珍しくありません。
国内でも仏像の盗難などの被害は起きており、自然災害による展示物や施設の被害もあります。来場者もリスクも多様化しています。そこで警備会社では国内唯一のICOM賛助会員として登録することにしたのです。ICOMの活動などを通じ、海外の知見を取り入れながら、多様化する来場者と展示物、施設設備の安全を補完する警備員の育成に取り組んでいきます。
東京2020大会を機に、障害者、外国人を受け入れられるユニバーサルデザインの施設が求められていますが、警備員にも同様の対応力が求められます。当社では社員向けの英語教育にも取り組み、日常の接遇をはじめ傷病者や災害時に必要な会話能力を高めています。