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警備業ヒューマン・インタビュー2025.07.21

浦友治さん(群馬県警備業協会会長 ALSOK群馬代表取締役社長)

災害対応で多くを学ぶ

<<群馬県警備業協会の第8代会長に就任し、約半年が経ちます>>

前会長の山﨑松恵氏が今年1月に急逝され、その後を引き継ぐ形で2月に協会会長を拝命しました。身の引き締まる思いでおります。

今、警備業が直面する最大の課題は「人手不足」です。その対策として、業界全体の社会的信頼の向上と会員各社の経営基盤強化を支援することが重要となります。協会としては警察や行政、地域との連携を一層強めて「安全・安心な群馬」の実現に貢献していきたいです。

少子高齢化の影響で若年層の確保が難しくなる一方、警備員に求められる質は年々高まっています。こうした状況の中、警備料金の適正化を図りながら、処遇や労働環境の改善に努める必要があります。働き甲斐がある職場づくりを通じて警備業の社会的価値を高めていくことが、業界発展の「鍵」になると考えます。

会員各社からは「適正料金を確保するための価格転嫁が難しい」という声を聞いています。全国警備業協会から冊子の提供やさまざまなアドバイスをいただき、それらを活用しながら会員各社の支援にも取り組んでいきたいと思います。

<<ALSOK群馬の代表取締役としても多忙な毎日です>>

当社は「社員ファースト」の考えのもと、人材育成・キャリア開発と定着支援に力を入れています。そして現場の声を経営に反映し働きやすい環境づくりに取り組んでいます。AIや警備ロボットなどテクノロジーの導入を進めていますが、最も大切なのはやはり「人」です。そのため教育には力を入れており、特に新卒者の新任教育は「警備の仕事に誇りを持つこと」を目的に時間をかけています。

今年度は上野村村長・黒澤八郎氏を講師に招き、日航機墜落事故の事例から安全について深く考察する研修を行いました。また各部署で行う機械警備や現金輸送、営業などの業務を体験してもらいました。「お客さまの安全を見守る」という共通の目的に向かって日々行われる多くの業務を知ることで、相互の理解や連携が生まれると思うのです。

<<スポーツが盛んな社風と聞きました>>

陸上部、野球部、武道などの環境を整え、スポーツ活動を奨励しています。私自身は中学・高校と柔道をやってきました。今はランニングが趣味で、週2回、約10キロの距離を走り健康維持と気分転換に役立てています。11月に開催される「ぐんまマラソン」には昨年初出場し、今年もエントリーしています。ランニングを本格的に始めたのは今から9年ほど前で、ある体験がきっかけとなりました。

<<どのような体験でしょうか>>

私はALSOKに入社してさまざまな業務に携わってきました。2016年からは本社の運用部門であるセキュリティサービス第2部に所属し、災害が起こると被災地に急行して機械警備の対応処理を取り仕切る業務を担当していました。

16年4月に熊本地震が発生してすぐに現地入りしたのですが、実はそれは前震で、2日後にマグニチュード7.3の本震が起こりました。そのとき私は旧耐震基準のビルの1階にいて、倒壊のおそれがあるため外に飛び出すと歩道が割れていくのが見えました。豪雨のような水を被ったのは屋上の受水槽が倒れたためで、受水槽の落下・直撃は鉄柵に引っ掛かり辛うじて免れました。

それから優先順位を決めて隊員たちに指示を送り、一丸となって機械警備の対応を図りました。その際、水も電気もない所で長期間指揮をとるには体力が必要であることを思い知らされたのです。

<<まさに極限の状況です>>

2018年の北海道胆振東部地震の被災現場では、道内ほぼ全域で電力が止まった「ブラックアウト」を体験しました。こうした災害現場を何度か経験することで、次第に落ち着いた行動をとれるようになり、起こる事象を予想したり対応策の優先順位を決めることができるようになりました。

<<治安が悪い地域の日本大使館に出向した経験もお持ちです。豊富な警備経験は多くの警備員の参考になるのでは>>

失敗談も含めて伝えています。私は第一線の現場を経験するうちに、警備という仕事にすっかり魅せられました。これほど世の中の役に立つ実感を持てる仕事は、そうはないと思います。警備に関わる一人ひとりにそれを感じてほしいです。

警備業ヒューマン・インタビュー2025.07.11

松本哲裕さん(ヒトトヒトホールディングス 代表取締役)

AIで警備品質を向上

<<AIを活用した警備品質の向上に取り組んでいます>>

警備品質を向上させるため「HaiTO(ハイト)」という、トラブル事象の発生リスクを予測するAIシステムを開発し、今春から導入しています。

「HITO(ヒト)の間にai(AI)を組み込み、ヒトのチカラをAIで高めるシステム」という意味を込めて命名しました。例えば、スポーツイベントでは、気象情報や観客数、対戦相手などの情報をHaiTOに入力するとトラブルがいつ、どこで発生確度が高まるかをAIが示してくれます。

商業施設の駐車施設で「バッテリー上がり」が多発するのは「冬」「暗くなり始める時間帯」「平面駐車場」「天気が悪い日」「平日」などに起因し「ライトの消し忘れが起こりやすくなる」とAIがリスク予測することで、巡回の強化やアナウンスが実施され、早期発見や未然防止につながります。導入前に比べて同種トラブルが減少する傾向が現れています。

新規グランドオープンした商業施設に導入したケースでは、同規模の施設対比で事故やトラブル発生を抑制することができました。

施設警備やイベント運営の責任者は毎朝、AIからの情報を確認し、隊員、スタッフへ事前対策の指示とリスク予測を共有することにより、現場経験が浅くてもどのようなリスクが起こり得るかを意識しながら行動できます。

施設警備やスポーツイベントなどの運営スタッフの業務でAIを活用することで、一層きめ細かな対応が実現でき、施設来訪者の満足度向上にも寄与します。導入する顧客施設が増えると、学習データ量も増え、さらに予測精度が向上します。重大インシデントに関する情報など、異なる施設でも共有すべき情報は、当社グループ内で共有します。

<<人材育成にもAIを活用しています>>

当社の警備人材確保の取り組みでは、福利厚生の充実など長期的な定着の対策に加え、短期的な人材に当社を積極的に選択してもらうため、学生アルバイト人材に対し「HITO―KAIKA(ヒトカイカ)」というAIを活用した人材育成システムを開発・運用しています。

当社のアルバイト学生がヒトカイカに登録し、将来志望する職種や取得したいスキル、資格を入力すると、AIが職業診断し、志望に関連するeラーニングを受講できます。プログラマー志望の学生ならプログラミングに関する学習を行うことができます。

アルバイトでのOJTの履歴やeラーニングの受講、職業診断の記録は蓄積され、LINEで確認できます。学生も企業も無償で利用でき、企業側は採用活動のコスト軽減を図りながら意欲とスキルをもつ学生からエントリーを受けられます。

<<個性的な社名です>>

ヒトトヒトという社名は私が代表に就任する過程で人材を扱う会社であることを表そうと変更しました。1974年に創業した日本総業から始まり、2018年に持株会社としてニッソーホールディングスを設立、20年にヒトトヒトホールディングス(HD)に変更しました。HDは、警備を含むビルマネジメントとイベントマネジメントを担う「ヒトトヒト」、関西地盤の「エース警備保障」と「エースガード」など5社で構成されます。

ヒトトヒトでは、主に明治神宮野球場をはじめとするスタジアムやアリーナ施設、大型商業施設などにおける施設警備業務やイベント運営のお手伝いなどを手掛けています。

<<学生アルバイトから代表取締役に駆け上がりました>>

大学在学中は日本総業のアルバイトとして、神宮球場で観客の誘導や切符切りなどを担当しました。入社後は営業部門に所属しました。20代の頃、埼玉の大型商業施設で警備の受注をいただきました。それが今の事業の礎になっていると確信しています。あの案件を受けられたことが、その後の大型商業施設の受注につながったものと考えています。

その延長線上にHaiTOやヒトカイカがあります。今、私が先頭に立って誘導棒を振るわけにはいきませんが、アルバイト学生が働きながら能力を高め、業務品質を維持できるよう、適切なコストをかけることも心掛けています。

<<4月に業界最大手の三井不動産との業務提携を発表しました>>

当社にとって大きなターニングポイントとなりました。先方が運営する商業施設やアリーナなどで、当社が警備や施設管理、人材供給に関する最適なサービスを提供することにより、施設来場者の満足度の向上に貢献したいと考えています。

警備業ヒューマン・インタビュー2025.07.01

髙木雄太さん(キステム)

「選ばれる」講習に

<<18歳の時、王子警備企画(東京都、2013年にキステムと合併)にアルバイトで入り、警備の仕事を始めました>>

アルバイトは学費を稼ぐためです。新任教育で警備業法や憲法、刑法といった法律が出てきて、衝撃を受けました。大学では法学部に進んだので、勉強とつながりがあると思い興味が湧きました。

警備の現場は主に交通誘導でした。年齢や経験もさまざまな警備員の方々と出会い、いろいろなアドバイスを受けました。警備の仕事がうまくできなくて、辞めようと思った時がありましたが、「ここで君は働いてきた。ほかの仕事に移ると、また一年生になるのだよ。もうちょっと頑張ってみないか」と声を掛けてもらったことを覚えています。

その後、片側交互通行の現場で交通誘導をしていた時に、遠くにいたもう一人の警備員に大きな声で合図をしたことがあります。電柱に登って電話工事をしていた方がその日、「すごく大きな声で、大きい動作で合図をして、頑張っていたね。良かったよ」と言ってくれました。私自身、「こうやってやればいい」と気付くことができました。警備のアルバイトでは、いろいろな方に救われ、「生かされてきた」と思います。

<<大学卒業後、アルバイト先に正社員で入社しました。現在はどんな仕事に携わっていますか>>

一つは「安全衛生管理」です。社内や警備現場の状況をチェックしています。現場では安全な場所に立って警備をしているか、休憩をしっかり取っているかなどを確認していて、今の季節は水分や塩飴を持って現場に行っています。

もう一つは「教育研修」です。新任・現任教育や、検定資格取得を目指す警備員の送り出し教育を担当しています。送り出し教育は事前講習の2か月前から始めていて、実技では私がやってみせた上で、一緒にセリフや動作を繰り返しやっています。学科では模擬問題を解いてもらっています。

送り出し教育を受けることで、安心して事前講習、本講習(試験)に臨むことができると思います。そして検定資格はステップアップを可能にするものです。

<<埼玉県警備業協会で2008年から、特別講習講師を務めています>>

埼玉警協が講師を公募していたことがきっかけでした。私自身、いろいろな検定資格を取得してきましたが、講習で指導していただいたおかげです。講師の方々の思いを、私が講師になってつないでいきたいと思いました。

今は、ほかの登録講習機関ができて、講習を受ける人が選べる時代になりました。「埼玉警協で講習を受けて良かった」と思ってもらえるように、丁寧な接遇、分かりやすい講義・訓練を今まで以上に心掛けていきたいです。

埼玉警協では熱中症対策として、6月から9月にかけ、Tシャツやポロシャツなどの軽装で事前講習、本講習を受けられるようにしました。今までは各社規定の制服を着なければなりませんでした。こうした取り組みが、選ばれる講習につながると思います。

<<社会保険労務士の肩書を持っています>>

私は一般企業に勤務しながら社労士の仕事を行う「勤務社労士」です。社内向けに、関係法律の改正について解説したり、書類の書き方に関する支店や営業所からの問い合わせに対応したりしています。埼玉警協の研修会で講師をしたこともあり、今後も法改正の時などにやらせていただければと思っています。

<<警備業界では課題が山積しています。提言はありますか>>

正しい会社運営の担保とするためにも、警備業法を改正して、警備業協会への加盟を義務付けた方がいいと思います。また、採用競争に負けないように、採用までの手続きの時間を短くする必要があるのではないでしょうか。

働き方を変える必要性も感じています。道路に人が立って警備をしている限り、走ってくる車にひかれる確率はゼロにはなりません。車が走行するところには警備システムを置き、警備員がそれを安全な場所で操作するという交通誘導警備が広がってほしいです。

警備員の収入が低いというのは「もはや過去の話」です。資格を取得して真面目に勤務している人は安定的な収入を得られますし、一定の資産形成ができます。そういったPRを一層していかなければなりません。

<<オフはどのように過ごしていますか>>

昇段を目指して、会社帰りに杖道、居合道の稽古に通っています。休みの日に関東近郊の温泉地へ家族で出掛けることが増えました。