視点
担い手確保2025.05.21
いまと未来、並行して
「子どもたちは知っている職業をなりたい職業に挙げることが多い」と、取材を通じて聞いたことがある。3月に刊行された「警備業のひみつ」は、未来の担い手である子供たちに、警備の仕事を漫画で知ってもらえる書籍だ。
この書籍は、全国警備業協会の広報プロジェクトチームと出版社の学研が製作した。A5判より少し大きく、プロローグと6章立てで約130ページ。製作関係者が「いいものができた」と話すように、読み応えがあって分かりやすい。全国の小学校や47都道府県警備業協会、加盟会社などに配布された。
漫画のストーリーは、小学5年生の男の子と女の子が警備の仕事について「調べ学習」をするというもので、男の子の父親が警備会社で働いている設定。小学生2人は防災センターや交通誘導警備、雑踏警備の現場を見学し、関心を高めていく。
各章にはコラムもある。種別のコラムでは1号を「一番身近な警備員」、2号を「人や車両を誘導して事故を防ぐ」、3号を「大事なものや危険なものを運ぶプロ」、4号を「依頼人の心と体と日常を守る」と端的に紹介。警備員の七つ道具や最新設備なども取り上げていて、好奇心をくすぐる。
「警備業のひみつ」は、3月末時点で219巻ある「まんがひみつ文庫」の一つ。今後は、子供たちに手に取って読んでもらうための工夫が望まれる。各警協や加盟会社から「活用事例」が発信されることを期待したい。
担い手の確保では、未来を見据えた活動と並行して、深刻な警備員不足という、いまの課題に取り組むことが欠かせない。業種を超えた人材獲得競争では最近、退職自衛官をめぐる動きが活発だ。
部隊の精強性維持のための制度があり、自衛官は民間企業の社員より早い年齢で退職を迎える。そうした中、国土交通省と防衛省は退職自衛官の鉄道・海運・住宅業界への再就職を図る申し合わせを3月に各業界団体と締結した。今後、人手不足に直面する業界へ広げていくという。
全警協は一昨年12月、防衛省と同様の申し合わせを締結している。「安全安心の即戦力」といわれる元自衛官から魅力ある再就職先として警備業が目を向けてもらえるよう、業界を挙げた取り組みを続けてほしい。
【伊部正之】
現任教育2025.05.01
教育の苦労を付加価値に
日夜、さまざまな現場で警備員が市民に安全・安心を提供している。警備員が「お願い」し、市民が「協力」するという関係は、日常生活の中に溶け込んでいる。市民が目の前の警備員を信頼しているからこそ、水平に示された誘導棒を赤信号同様に信じ、「どうぞ」と誘導されるまで立ち止まるし、自らの安全を託せるのだと思う。
信頼の拠り所は、警備員一人ひとりの乱れのない身だしなみや言動、毅然とした表情などさまざまあるが、いずれも各社が取り組む警備員教育の成果だ。
昨秋行われた東京都警備業協会「教育幹部合宿研修」では、教育の在り方が警備員への信頼やサービスの価値を左右することを再認識させられた。
研修合宿の参加者は会員会社の警備員指導教育責任者と管理職。1泊2日の日程で、教育幹部・管理職として必要な話し方や実技と座学の教え方に関するスキル全般をレベルアップさせ、経営者の右腕となる人材を養成することが開催の目的だ。
研修担当の警協教育委員会の一人は「内勤が中心の教育担当者は、会議室で開催する研修会に参加しても終わり次第、帰社する人が多く他社の教育担当者と情報交換する機会も乏しい。合宿研修を自社の警備員教育の改善に活用してほしい」と開催意義を強調する。
合宿の最終授業は、施設警備と交通誘導警備いずれかの現任教育1時限分の内容を検討するグループ会議と「模擬講義」だ。普段は仕事で競い合うライバル関係にある教育担当者だが、警備員が集中して受講し、知識や技術が定着する現任教育という共通の目標達成のために団結していた。
閉講式で講師の一人は「研修は身体も頭も使い大変ですが、それが価格交渉の際の付加価値になります。従来はこれが警備会社として当たり前だと言われてきましたが、当たり前ではないのです。会社を代表して参加した皆さんの苦労が、質の高いサービスとして提供されるのです」と呼び掛けていたのが印象的だった。
顧客からは見えない教育のコストを料金で負担してもらうことは、抵抗を受けるかもしれない。教育担当を兼ねる中小の経営幹部は、価格交渉の場で警備員が学んだ成果を「質の高い警備」として現場で実践していることを伝えてほしい。
【木村啓司】