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視点

現任教育2025.05.01

教育の苦労を付加価値に

日夜、さまざまな現場で警備員が市民に安全・安心を提供している。警備員が「お願い」し、市民が「協力」するという関係は、日常生活の中に溶け込んでいる。市民が目の前の警備員を信頼しているからこそ、水平に示された誘導棒を赤信号同様に信じ、「どうぞ」と誘導されるまで立ち止まるし、自らの安全を託せるのだと思う。

信頼の拠り所は、警備員一人ひとりの乱れのない身だしなみや言動、毅然とした表情などさまざまあるが、いずれも各社が取り組む警備員教育の成果だ。

昨秋行われた東京都警備業協会「教育幹部合宿研修」では、教育の在り方が警備員への信頼やサービスの価値を左右することを再認識させられた。

研修合宿の参加者は会員会社の警備員指導教育責任者と管理職。1泊2日の日程で、教育幹部・管理職として必要な話し方や実技と座学の教え方に関するスキル全般をレベルアップさせ、経営者の右腕となる人材を養成することが開催の目的だ。

研修担当の警協教育委員会の一人は「内勤が中心の教育担当者は、会議室で開催する研修会に参加しても終わり次第、帰社する人が多く他社の教育担当者と情報交換する機会も乏しい。合宿研修を自社の警備員教育の改善に活用してほしい」と開催意義を強調する。

合宿の最終授業は、施設警備と交通誘導警備いずれかの現任教育1時限分の内容を検討するグループ会議と「模擬講義」だ。普段は仕事で競い合うライバル関係にある教育担当者だが、警備員が集中して受講し、知識や技術が定着する現任教育という共通の目標達成のために団結していた。

閉講式で講師の一人は「研修は身体も頭も使い大変ですが、それが価格交渉の際の付加価値になります。従来はこれが警備会社として当たり前だと言われてきましたが、当たり前ではないのです。会社を代表して参加した皆さんの苦労が、質の高いサービスとして提供されるのです」と呼び掛けていたのが印象的だった。

顧客からは見えない教育のコストを料金で負担してもらうことは、抵抗を受けるかもしれない。教育担当を兼ねる中小の経営幹部は、価格交渉の場で警備員が学んだ成果を「質の高い警備」として現場で実践していることを伝えてほしい。

【木村啓司】