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「知」に備えあれば憂いなし

潮田道夫の複眼時評

潮田道夫 プロフィール
東京大学経済学部卒、毎日新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員、経済部長、論説委員長などを歴任し退社。現在、帝京大学教授で毎日新聞客員論説委員。内外の諸問題を軽妙な筆致で考察する「名うてのコラムニスト」として知られています。著書に「不機嫌なアメリカ人」(日本評論社刊)、「追いやられる日本」(毎日新聞社刊)など。

ビットコインは「通貨」になるか?2018.2.1

-もうけ損なって分かった真実-

ネット上の仮想通貨「ビットコイン」に最初に注目したのは2013年、中国でビットコイン・バブルが起きたときだ。

ビットコインは2009年に登場、最初は少数の仲間内での実験だったから、1円もしなかった。それが中国人の投機であっという間に当時の高値12万8000円をつけた。「面白いものが出てきたな。少し買ってみるか」と思った。ところが資本流出を警戒した中国政府が「イエローカード」を出したため相場は冷めてしまった。それ以後、おおむね5万円前後で推移していたので、面白みが失せて放っておいた。

ところが昨秋から無茶苦茶な値上がりである。一時はなんと230万円。「しまった、あのとき買っておくんだった」。だが、1月になって中国政府が事実上の売買禁止命令を出し、主要国が規制に向かいだしたため半値に暴落。これを書いている時点で130万円ぐらいする。1年前でも買っていれば大儲けだったが、所詮、私は相場向きに出来ていないらしい。

ビットコインに関する解説を聞いたり読んだりしたが、よく分からない。あの仕組みを理解するには「数学脳」を要する。どうせ比喩的にしか理解できない。その例え話のなかで面白かったのは、ヤップ島の巨石貨幣だ。持ち運びできない巨大な石のお金をどうやって使うのだろう、という問題である。

話を聞くとなるほどと思う。つまりヤップ島の住民は小さな世界だから、村の入口に鎮座する巨石貨幣は住民Aの持ち物であることを知っている。Aはある日、隣人Bからヤギ1頭を買うことにし、対価として巨石貨幣を譲った。両者は村中にそのような取り引きが行われたこと、巨石貨幣はいまやBのものであることを触れ回る。Bはそれによって巨石貨幣を対価とするさまざまな取り引きが可能になる。

つまり、取り引きが行われその結果として金銭の移動があったことを、ヤップ島のコミュニテイ全員が知ることで、この島の巨石貨幣は機能する。ビットコインは巨石貨幣の代わりにインターネット上の電子的な取引台帳を用いるわけだ。誰もが閲覧可能な台帳に取引記録が書き加えられていく。Cは靴をBに売り確かに1ビットコインを受領した。従ってCはその1ビットコインで好きな買い物ができる。仮想通貨の誕生である。

問題は、これがインチキの書き込みでないとなぜ保証できるのか、である。この先の説明はおそろしく面倒だ。「ブロックチェーン」という技術が用いられるが、私はよく理解していないからあれこれ述べない。大事なのは、台帳への書き込みが真正であるかどうかの証明だ。それができないとシステムが成立しない。これはコンピューターを何台も連結し複雑な計算をしないといけない。その作業で取り引きが真正だと証明した人には新規のビットコインが与えられる。

この作業の8割を中国人が担ってきた。電気代の安い新疆あたりの僻地で、倉庫か何かを借りコンピューターを並べて24時間計算させている。金を採掘するのに似ているのでマイニング(採掘)という作業だが、中国当局はこれも規制し始めた。ビットコインは政府や中央銀行に把握されないから、脱税や麻薬など非合法取り引きに利用されてきた。イメージが悪いが送金手数料がゼロなどメリットも多く、仮想通貨でなくリアルマネーになるのではないか。そういう議論も盛んである。

しかし、ビットコインは持っているだけで値上がり益が期待できる資産になってしまった。200万円の車を2ビットコインで買えるとして、半年後に300万円になりそうな2ビットコインを使うだろうか。つまるところ、通貨は価値が安定しているからこそ使われるのである。政府や中央銀行と無縁のアナーキーな通貨などというものはありえないのだ。