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「知」に備えあれば憂いなし

潮田道夫の複眼時評

潮田道夫 プロフィール
東京大学経済学部卒、毎日新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員、経済部長、論説委員長などを歴任し退社。現在、帝京大学教授で毎日新聞客員論説委員。内外の諸問題を軽妙な筆致で考察する「名うてのコラムニスト」として知られています。著書に「不機嫌なアメリカ人」(日本評論社刊)、「追いやられる日本」(毎日新聞社刊)など。

再び「小日本」と呼ばれる!?2020.01.01

-日本人の身長が縮んでいる-

中国人が日本人を馬鹿にするとき「小日本」という。まず、国土の広さである。日本の面積は中国の25分の1しかない。ちっぽけな国という侮りがある。だが、それより強力な理由として、日本人の体格の貧弱さがあった。中国人の方がでかい。

と思っていたら、いつの間にか身長で日本に追い越されていた。それを知ってショックを受ける中国人が少なくないらしい。

昨年、中国のネットメディア「今日頭条」に「中国人はもはや日本人を小日本と呼べなくなった」という記事が掲載された。それによれば、明治維新以前の日本人の平均身長は男女とも150センチメートル台でまさに小日本だった。戦国時代の武将たちの鎧から推定される身長はそんなものである。また、日本人は宗教的禁忌から動物を食べずタンパク質が不足していた、などと論じている。

それが戦後は食習慣が一変し、学校給食で子供たちが牛乳(と言っても、はじめは米国援助物資の脱脂粉乳だったが)を毎日飲むようになって、体格が向上した、と。今日では男性の平均身長は170センチメートルを超え中国人を上回るに至った。

国家体育委員会という中国の政府機関が1997年、中国で初めて全国的な身体測定をした。それと日本のデータを比べると、男性で40歳以上は中国人の背が高いが、それより若いと日本人が高い。7〜22歳では1.96センチメートル、7〜14歳では2.28センチメートルも日本人が上回っていた。確かに、日本人の身長は戦後、急速に伸びた。男子17歳の平均身長は50年に161.8センチメートルだったが、03年は170.7センチメートルと9センチメートルも伸びている。

これが中国政府当局には非常な衝撃だったようだ。「中国人も牛乳を飲め」という国民運動を始めた。中国の牛乳消費量は、1990年を100とすると2002年は340に急伸した。2億人の小中学生に、毎日牛乳を飲ませようという「学生飲用牛乳計画」も推進している。

ところが、日本人が再び「小日本」と呼ばれることになるかもしれない事態が進行している。

国立成育医療研究センター研究所の森崎菜穂室長らのチームが、300万人を超す身長データを分析した結果、日本人の成人の平均身長は昭和55(1980)年生まれ以降、縮む傾向にあることが分かった。

平成8(1996)年生まれの平均では、男性はピーク時に比べ0.64センチメートル、女性は0.21センチメートル低くなった。日本人はこの100年で身長はほぼ右肩上がりで伸び続け、約15センチメートル伸びた。それがピークアウトして背が低くなり始めているのではないか、と懸念される。

平均身長が一番高かったのは男女とも昭和53〜54年生まれだ。男性は171.46センチメートル、女性は158.52センチメートルという。男女とも55年生まれから少しずつ低くなり、平成8年生まれは男性170.82センチメートル、女性158.31センチメートルである。

理由は今ひとつはっきりしない。森崎さんらは体重2500グラム未満で生まれる「低出生体重児」が増えたことと関係があるのではないか、という。低体重で生まれると成人後の身長が低くなりやすい。

国の「乳幼児身体発育調査」では、平均出生体重は戦後の経済成長とともに増加し続けた。だが、1980年をピークに減少に転じ、2000年には戦前の1940年〜1942年を下回る水準に至った。他の先進国では女性の体格向上に伴い出生体重も増えているのに日本は特異な動きになっている。

「高齢出産が増えている」「20代、30代女性の喫煙率が増加している」「昔は死産だった早生児が生き延びることができるようになった」「痩せ過ぎの女性が増えた」など複合的な理由が背景にあるらしい。

何もかも右肩下がりの日本で、平均身長まで縮んでいくというのはいささかショックではないか。中国に抜かれてまた「小日本」と言われるのも気分が悪い。真面目に対策を考えた方がいいのじゃあるまいか。