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「知」に備えあれば憂いなし

潮田道夫の複眼時評

潮田道夫 プロフィール
東京大学経済学部卒、毎日新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員、経済部長、論説委員長などを歴任し退社。現在、帝京大学教授で毎日新聞客員論説委員。内外の諸問題を軽妙な筆致で考察する「名うてのコラムニスト」として知られています。著書に「不機嫌なアメリカ人」(日本評論社刊)、「追いやられる日本」(毎日新聞社刊)など。

地方銀行は生き残れるか?2019.5.1

-アベノミクスで青息吐息-

昔、就職の人気企業といえば銀行が上位を独占していたものだが、だいぶ様子が違ってきた。

就職支援の「ディスコ」によるアンケート調査によれば、旅行関連の日本航空や全日空、JTBとか、三菱商事や三井物産などの商社が上位を占めた。常連だったメガバンクで10位以内に入ったのは三菱UFJ銀行(5位)だけ。「マイナビ」の調査でも同じような結果だ。三菱UFJ銀行は前年の4位から11位に転落した。

銀行はどこも人減らしの最中だ。それが人気に響いたらしい。三菱UFJは9500人、三井住友は4000人、みずほに至っては1万9000人の人員を削減するという。1人当たり利益が急激に低下しており、このままでは国際競争に勝てないというので、思い切った人減らしに踏み出した。

しかし、メガバンクは収益源も多様で人材もいないわけではないからまだマシだ。大変なのは地方銀行以下である。

銀行を監督する立場の金融庁が焦っている。明日あさって潰れるという状況ではないが、経営指標の悪化が止まらない。

2018年3月期決算では全国106の地方銀行(第2地銀つまり昔の相互銀行を含む)のうち54行が本業で赤字だった。そのうち23行はなんと5期以上連続して赤字なのである。

本業とはつまり預金を集めてその金を企業に貸して利ザヤを稼ぐ、ということである。それが、もはやもうからなくなった。

そもそも金を借りてくれる企業が地方にはない。東京の丸の内や六本木あたりを見ていると超高層ビルの建設ラッシュである。しかし、地方都市に行くと人通りも閑散として、空気はうまいが活気がない。人口が減っているのだから当然だ。銀行から金を借りて業容拡大などしたら自殺行為だ。構造的にいかんともしがたい。

このため金融庁は「地方の金融機関は合併で生き残れ!」とハッパをかけている。「合併で合理化してなんとか生き残れる体制にしろ」ということだ。ここ数年、地銀の合併が相次いでいるのはそのためだ。

公正取引委員会は当初、寡占が進むと弊害があると抵抗していた。だが、合併の邪魔すると地方金融機関が潰れてしまう惨状であることを理解して、今は全部OKだ。

アベノミクスによるマイナス金利政策が銀行をかつてない窮地に追い込んでいるのである。銀行がもうかるのは短期金利と長期金利に開きがあって、短期で金を集めて長期で金を貸すから利益が生じた。ところが、いまやアベノミクスで長期金利もゼロの時代である。もうけようがない。

地方銀行はこのため、(1)バブル気味の不動産融資を拡大する(2)日本国債と外国国債でもうける、という手法でしのいできた。

いま10年満期の国債を買うと、利回りはマイナス0.028パーセント。10年持ち続けると損をする。ところがこれが銀行の間で引っ張りだこ。買った瞬間にそれより高く日本銀行が引き取ってくれるからだ。いわゆるアベノミクスあるいはクロダノミクスの正体だ。

しかし、いつまでもこんな不自然なことができるはずがない。日銀そのものが、昨年10月の金融システムレポートで地銀に警鐘を鳴らした。(1)不動産融資はミニ・バブルで危なくなったぞ(2)いつまでも国債でもうかると思うなよ――と。

自分が超金融緩和で不動産バブル、国債バブルを作り出しておいて、銀行には「いい加減にしろ」とはずいぶんだが、地銀が競争のない世界で経営革新を怠ってきたのも事実である。「獣(しし)食った報い」ということであろうか。