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「知」に備えあれば憂いなし

潮田道夫の複眼時評

潮田道夫 プロフィール
東京大学経済学部卒、毎日新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員、経済部長、論説委員長などを歴任し退社。現在、毎日新聞客員論説委員。内外の諸問題を軽妙な筆致で考察する「名うてのコラムニスト」として知られています。著書に「不機嫌なアメリカ人」(日本評論社刊)、「追いやられる日本」(毎日新聞社刊)など。

COCOAってご存知?
-コロナ禍でさらけ出した電子政府の遅れ-2020.09.11

「COCOA」ってご存知? 飲むココアではない。COVID19ContactConfirmingApplicationの略称で日本語に訳せば「新型コロナウイルス接触確認アプリ」と言うことになる。

新型コロナ対策にスマホを使おうというものだ。6月19日から始まった。理想的にはスマホの持ち主全員にこのソフトをインストールしてもらう。新型コロナの陽性と判定された人はその事実を登録する。すると陽性者と1メートル以内の距離で15分以上接触した人に対し、アプリが電波信号(Bluetooth)で警告を伝えてくる。その人はもちろん驚いて病院に駆け込み検査を受けるだろう。その結果、二次感染していたら適切に隔離・手当が行われコロナ禍の拡大が防げる、という仕掛けである。

ところがこれが当て外れ。今のところ全く機能していない。まずは導入初日にアプリの不具合が分かった。コロナ陽性者は保健所などから8桁の「処理番号」をもらって打ち込む手順だった。ところが、なんでもいいから適当に8桁の番号を打ち込むと陽性者と登録されてしまうことがわかった。こんな欠陥アプリで国家行政はできない。あわててソフトを修正し10日後に再配布したが、それでうまく動き出したわけではない。

COCOA運営のためには、どこの誰がいつ感染したかなどの感染者情報が政府機関に共有されなければならない。そのシステムをNESID(NationalEpidemiologicalSurveillanceofInfectiousDisease)といった。直訳すれば「全国感染症疫学監視」である。

これがまあ、システムとは名ばかりの前時代的な代物。感染を確認した医療機関はなんと手書きで「発生届」を書いてファックスで保健所に送る。保健所は記載もれなどないか確認し個人情報を黒塗りにして厚生労働省と都道府県にファックスで転送する。手間がかかってしょうがないからたちまちパンクした。政府がPCR検査を制限した理由の一つでもあった。

ファックスは英国生まれの技術だが、多種類の漢字を使う日本で重宝され、改良が進んで世界のファックスのほぼ全てが日本製になったほどである。しかし情報はデジタル化されてこそ、その処理が高速化・効率化できる。今どき、手書きとファックスで行政事務が行われている先進国などない。日本だけだ。

政府はそこでHER―SYS(HealthCenterReal―timeinformation―sharingSystemonCOVID―19)つまり「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム」への切り替えを図った。現場がiPadなどのタブレットに情報を打ち込めば、関係者が時間を置かずに情報共有できる。

やれやれ、これでやっとうまくいくか。いや、そうはならなかった。と言うのも、国と地方自治体で個人情報の扱い方などがバラバラなのだ。オンラインシステムの操作方法も違ったりする。だから関係諸機関をネットでつなぐのに苦労している。特に東京と大阪がだめ。

厚生労働省のホームページを見ると、9月1日現在、アプリのダウンロード数は1577万件。国民の6割がインストールしないと有効でないと言うから全く不十分だ。そして、残念なのは陽性者の登録が533人に留まっていること。全国では累計6万人以上、毎日500人以上の感染者が報告されている中で、これでは意味をなさない。さらに決定的なのはCOCOAで警告通知を受けても、結果としてPCR検査を受けられない。受けられたのはその2割という。しかも有料である。検査機関にもよるが2、3万円はかかる。

COCOAは「コロナの時代」にあって有力な対抗手段と目され各国とも導入に動いている。わが国政府が飛びついたっていいのであるが、いかんせん「電子政府」に手抜きし続けてきたハンデは大きい。台湾がコロナ防疫に成功し世界に称賛されたのは、IT担当大臣オードリー・タン(唐鳳)のシステム設計の手腕によるものだった。弱冠39歳。

今冬、コロナ感染の爆発が懸念される。政権交代はよい機会である。IT化を筆頭に旧弊を一掃するコロナ対策が必要だ。