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「知」に備えあれば憂いなし

潮田道夫の複眼時評

潮田道夫 プロフィール
東京大学経済学部卒、毎日新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員、経済部長、論説委員長などを歴任し退社。現在、帝京大学教授で毎日新聞客員論説委員。内外の諸問題を軽妙な筆致で考察する「名うてのコラムニスト」として知られています。著書に「不機嫌なアメリカ人」(日本評論社刊)、「追いやられる日本」(毎日新聞社刊)など。

温暖化問題のセクシーな取り組み方2019.10.11

-「よくそんなことが言えますね」-

ニューヨークの国連本部で9月に開かれた「気候行動サミット」で、スウェーデンの16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんが行った演説が注目を集めた。「私たちは、大量絶滅の始まりにいるのです。なのにあなた方が話すことは、お金や永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり。よく、そんなことが言えますね」。

トゥンベリさんはアスペルガー症候群(知的障害を伴わない自閉症)で学校に行かず環境運動に献身している。この糾弾演説は賛否こもごもの大反響を呼んだ。私は彼女の行動力や善意は否定しないが、演説の中身には全く賛成できない。

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書によれば、21世紀末までに世界の平均気温は摂氏約1.8〜3.4度上昇する恐れが大であり、深刻な悪影響を及ぼすが、IPCCはそれが「大量絶滅の始まり」だなどとは言っていない。

一説には彼女はグリーンエネルギー産業に投資しているグループによって、政府から補助金を引き出すための道具として使われている、という。私にはその真偽は判定できないが、興味のある向きはブログ・マガジンSTANDPOINTなどを参照されたい。

さて、さはさりながら、先ごろ、千葉のゴルフ場でプレーしたら、そこら中でかなり大きな木々が根こそぎ押し倒されていた。台風15号の被害である。ゴルフ場も復旧に忙しくて細かい手入れができておらず、ラフなど草が伸び放題。おかげでメンバーの誰もかれもがロストボール続出で往生した。

いや、それはどうでもいい。台風15号に限らず、このところ、気候が荒れ模様である。世界的にそうだ。台風やハリケーンが大型化して大被害が出るかと思うと、カリフォルニアなどは乾燥化が酷くて山火事が頻発だ。

はて、これはどういうわけか。誰でも思うのが、地球温暖化で懸念されていた異常気象がいよいよ始まったのか、ということだ。

どうもそうらしい。気象研究所の今田由紀子主任研究官と東京大学大気海洋研究所、国立環境研究所などの研究グループが今年5月、「現在の異常気象と温暖化の間には因果関係あり」という報告をまとめた。

昨年7月の記録的猛暑に着目したのである。猛暑日(最高気温が35度超)が延べ3100箇所以上で観測され、熱中症による死者が1000人を超えて過去最悪となった月である。さまざまにシミュレーションした結果、「地球温暖化の影響がなければ、2018年の日本の猛暑はほぼ起こらなかった」と結論した。

台風の大型化や干ばつの深刻化などはまだ、ここまで精密に温暖化が原因であると裏付けられていない。だが、そうであるに違いないという見方が常識化しつつある。

例えば気温が産業革命以前より2〜3度も上昇すれば海面上昇で東京の下町は水没する。2016年に発効したパリ協定で世界はCO2の削減目標を定めたが、仮にそれを完全遵守できたとしても、気温は2度以上上昇する。大被害は免れない。

小泉進次郎環境相は国連で「気候変動問題への取り組みは、楽しく、カッコよく、そしてセクシーであるべきだ」と意味不明の演説をした。批判が強いが実のところ日本が仮にCO2排出量をゼロにしても温暖化は止まらないから、まあ、この程度の演説でもいい。

ドイツが原発ゼロを目指して風力発電など再生可能エネルギーに代替する政策に踏み出したが、多くの機関が「失敗」の烙印を押した。つまりこの先、CO2は増え続け温暖化は不可避なのだ。われわれはそろそろこの現実を直視し、それを前提とした政策を打ち出さなければならない。子どもに国連で絶叫させている場合ではないのだ。