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視点

社保問題 「加入」と「適正料金」は一体2016.4.21

もう8か月前になる。去年の8月21日号の当欄は、カットに「除名と退任」を掲げ、「身を切る改革論の行方」の見出しで社保の未加入問題に視点を当てた。いささか旧聞に属するので論旨を紹介したい。文脈をたどると次のようになる。

まずは、<全警協の一部委員会では、社保加入の促進について、未加入業者の協会からの除名、未加入協会役員の退任を視野に入れた施策をテーマとする議論が交わされたことが明らかになった>と書き出した。

次いで、<避けては通れない道>→<身を切ることも辞さない決意のメッセージと受け止めるべきだろう>→<道の先には、警備業の健全な発展を担保する新しい地平が開けるに違いない>。

文末は、<抜本的な改革に向けて、拙速にならず、丁寧な説明と議論を尽くし、少数意見にも十分に耳を傾け、最善の方策を見い出してもらいたい>と結んだものだった。

そして、8か月後の今。全警協は青山会長名で各県協会長宛に「社会保険未加入問題に対する更なる取組の推進について」(お願い)のA4判2枚の要請文書を発送した。「加盟員の入会基準」と「役員就任規定」の見直しである。 文中に「除名と退任」の字句こそないが、真意は十分に読み取れる内容だ。

詳細は先号の1面に掲載したが、ことは警備業界の行く末に関わる大切なこと。3項目を手短に再録したい。いずれも文頭には「(国交省が示す)平成29年春まで」を明記した。

▽警備員の社保加入率が90%の業者だけが協会に加盟できることとする。▽社保に会社単位で100%、警備員で90%以上の加盟業者だけが協会役員に就任できる。▽目標の未達成加盟員については、各県協会で必要な指導措置を検討する――というものだ。

背景には、3つの事象が想起できる。未だ目標に達しない未加入の現況への焦燥感。26年6月の全警協総会における「社保加入促進の決議」以来、毎年度にわたる全国各地の研修会で、説明と協力要請は十二分に重ねてきたという思い。

もう一つは、昨今の霞ヶ関(厚労省・国交省)の社保と労務単価に対す<取り組み本気度>であろう。厚労省が検討を明らかにした厚生年金の加入逃れ事業主への刑事告発は、実施までに解決しなければならない多くの課題があるにしても、である。

記憶に鮮明なのは先日、栃木県であった関東地区連総会でのことだ。青山会長は「社保加入と適正料金は表裏一体」と呼び掛けた。両問題は、決して別個に存在するものではない、との訴えだ。

社保加入を果たしてこそ適正料金はきちんと算出、見積もることが可能だ。適正料金は社保加入が必須の条件でなければならない。2つの課題を一体のものとして完遂することで経営基盤の強化が図られる。

さらには、給与体系の見直しから警備員の処遇改善が推進される。それは警備業の適正な業務につながり、社会になくてはならない業界へと発展するだろう。青山会長は、要請文書の送付に当たって“当然の義務”の履行を求めたのだ。

5月の大型連休が明けると、各都道県協会の総会が相次いで開催される。6月8日の全警協定時総会をピークに、どのような議論が交わされ、結果が導き出されるのか。我々は固唾を呑む思いでいる。

【六車 護】

社保調査 これが最後のチャンスだ2016.4.11

国土交通省と全国警備業協会が取りまとめた警備会社と警備員の「社会保険加入状況」が、相次いで明らかとなった。

公共工事での労務単価を決めるために関係書類の提出を求める厳格調査(国交省)と、 加盟社の自己申告(全警協)という調査手法の違いはあるものの、総じて同様の傾向となった。

国交省調査では、検定合格警備員である「交通誘導警備員A」は、 雇用保険と健康保険が、左官や鉄筋工などの全建設職種平均並み、厚生年金保険と3保険全て加入が全職種平均を下回った。

同省は「会社単位は100%、労働者単位は製造業と同様の90%」を目標に掲げているが、その期限はあと1年。 両調査結果で、警備業の更なる取り組みの必要性が、改めて浮き彫りになった。

一方で、両調査結果を見ると、昨年度から加入率アップを続けている。歩みを止めさえしなければ、 目標達成はけっして無理なことではないと信じたい。

追い風を味方に

国交省は公共工事での交通誘導警備員の費用積算方法を見直すことを決定した。 4月1日以降の工事から順次適用していく(3月21日号既報)。

同省の試算では、交通誘導警備員1人当たりの支払い対象額は、現行の約1割増しとなり、 社保加入のための原資がより確保しやすくなる。

同取り組みは、夏ごろには県など地方公共団体発注工事でも導入される見込みで、それが実現されれば、 更なる追い風になること間違いなしだ。

今後、これまでゼネコンが警備料金値上げの拒否の“言い訳”として用いてきた 「予算がない」は通用しなくなる。

もう一つの追い風は、スーパーゼネコンの「社保加入に必要な法定福利費全額払い進展」の動きだ。

本紙では昨年、実例を挙げてこの動きを報じた。背景には、ゼネコン側に「いつまでも払い渋りはできない」という状況がある。

「労務単価がアップしたが、下請会社や現場で働く人まで十分に届かないのは、どこかで止まっているのではないか」という声は、 警備業界だけでなく建設業界にも広がっている。

スーパーゼネコンを経て、ある専門工事業団体の事務局長を務めるA氏は「労務単価の引上げがゼネコンで止まっているのは確実」と、 ゼネコンの行動原理を踏まえて分析し、その是正の必要性を指摘している。 その思いは国交省も同じだろう。

国交省にしてみれば、そもそも労務単価をアップしたのは社保加入促進が目的。 けっしてゼネコン救済などではない。このまま社保加入が進まないとなれば、所管業種である建設業界の監督指導責任を問われかねない。 会計検査院から「消えた労務単価の上昇分」の国庫への返納命令でも出されたら大変だ。

ここ数年の労務単価の連続アップ、積算方法の見直し、ゼネコン包囲網の形成--など、社保を巡る環境は大きく変化した。

今は社保加入のための警備料金値上げの最後のチャンス。この機を逃せば、いずれは「社保未加入の脱法企業」 というレッテルが貼られ、市場からの強制退場というペナルティが待っていると覚悟しなければならない。

【休徳克幸】

人材確保 魅力ある職場を作る2016.4.1

警備員の人手不足が深刻だ。厚生労働省によると、今年1月の全業種の平均有効求人倍率は1.28倍で、前月より0.01ポイント上昇。警備業については平均を大きく上回り、中でも2号警備は20倍を超えているという。

2号警備業務をメインとする企業の経営者からは、次のような声が聞かれた。

「ハローワーク(公共職業安定所)中心に求人をかけているが、2~3か月に1人の面接希望者があればいい方だ」。

「入社する人数より辞める人の方が多い。昔から長く勤めてくれていた警備員が高齢や体調不良で退職する率が高くなった」。

「募集広告の効果がない。求人票の文面について警備保障タイムズの見出しからヒントを得るなど、工夫を凝らしていく」。

リーマンショックの翌年、2009年の有効求人倍率は0・46倍まで下がったが、警備業はこうした不況時に雇用が活発化し、雇用の下支えの部分を担ってきた経緯がある。しかし、今後は人材確保のために違う流れを作らなければならない。

厚生労働省は、警備業の有効求人倍率が高い状況や2020年東京五輪・パラリンピックで警備員の不足が予想されることから、警備員確保への支援を強化することにした(2月11日号1面)。ハローワークを中心に、都道府県警備業協会などと連携し警備業についてのパンフレット配布やセミナー開催などを行う。

社会保険未加入問題における労務単価の上昇同様に、人材確保についてもこれから“追い風”が吹きそうだ。警備業界がこの好機に目指すべきことは“魅力ある職場づくり”だ。「働きやすさ」と「働きがい」が警備員の労働意欲、定着率を高め、結果的に会社の業績向上につながる。

警備業の中でも2号業務は、厳しい職場環境にある。例えば時期によって発注量に波があったり、過酷で危険な場所の勤務が多く労災事故が起きやすい。現場への直行直帰で人材育成が図りにくく、土日出勤やシフト制など勤務時間が一定ではない、という状況だ。

そうした中にあって「警備員重視」の職場環境へのシフトが、より求められている。適正料金確保による賃金アップの他にも方法はある。検定資格をとらせ“自分が期待され役に立っている”という意識を持ってもらう。現場への配置はできるだけ本人の希望を尊重したり、職場環境について提案制度を設け警備員の意見に耳を傾ける、警備員の意見を経営計画に反映させる、といった取り組みが挙げられる。

長時間労働に対しては今後、労働基準監督署の指導が一層厳しくなる方向で、今こそ雇用管理全体を見直すときだ。警備員の処遇・職場環境の改善を図る経営者に対し国から支給される助成金があり、大いに活用してほしい。厚生労働省のサイトで「中小企業向けの職場定着支援助成金」をはじめ、詳しく紹介されている。

“魅力ある職場づくり”は“魅力ある求人条件”につながる。多くの求職者に応募してもらい、質の高い人材を見つけて業績を伸ばすことが、業界全体が社会からの信頼を得ることに結びつくだろう。

【瀬戸雅彦】