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視点

シニア採用 仕事内容の説明は丁寧に2018.9.21

「受講者16人に対して、27社の警備会社が面接会に出席しました。東京しごとセンターでは約10業種の就職支援コースがあり、その中でも警備業は講習修了後に開く面接会への出席を希望する会社数が多いのです」。

東京都の「東京しごとセンター」がこのほど開いた、就職支援講習〈警備スタッフコース〉の担当者の話である。講習は働く意欲のある55歳以上の男女を対象に、シニアでも新たに就職しやすい職種の技能を無料で学べるものだ。深刻な人手不足を背景に、毎回受講者数を大きく上回る警備会社が面接会に出席している。

昨年は講習を受けた23人中22人が都内の警備会社に就職した。ハローワークは、仕事を探しに来たシニアで、警備業を希望する業界未経験者に必要な技能を身に付けてもらうため同センターでの受講を勧める。受講者は仕事内容や必要な技能をあらかじめ知ることができ、警備会社は働く意欲のあるシニアを雇用する機会を得ることができる。

深刻な人材不足にあって、意義のある制度だ。警備業界に就職する人が増えるよう、PR活動を活発化してほしいと伝えると、担当者はこう言った。「ハローワークでシニア層に警備業を勧め、本人も乗り気で話が進んでも、結局は警備業に進まずほかの業界を選ぶケースが多いと聞いています」。

給与面で折り合いが付かないのかと思ったが、そうではない。仕事内容を見て年齢的な問題から健康面の理由で敬遠されるらしい。例えば施設警備は常に館内を巡回して体力が求められるイメージがあり、交通誘導警備は暑い日差しにさらされながら業務して、熱中症になりやすいと考える人が多いという。

施設警備の夜間業務については、定期巡回以外の時間は警備員室で監視カメラのモニター画面を確認することが中心となる。もちろん巡回中は異常がないか注意深く確認する必要があるが、決して常に立って動いている訳ではない。交通誘導警備の場合、確かに熱中症の危険があるが、各社対策には力を入れている。保冷ベストや警備用空調服など対策グッズが数多くあり、これらを採用する会社も増えている。

求職者が心配になるのは、求人案内で丁寧に説明していないからとも言える。福島県警備業協会が5月に人材確保をテーマに開いた研修会で、講師のハローワーク福島の就職支援コーディネーターは「県内の警備業求人票全てに目を通したところ、ただ『交通誘導の警備を担当してもらいます』や『ビルの警備です』など、説明が大ざっぱなものが多かった」として、無理なく安心して働けることを丁寧に記述すべきだと話した。

もちろん自分が働く職場のことは、自らで調べることが大切だ。若い人はインターネットを使って調べているだろう。ところがシニアの場合はインターネットを使えない人も多い。深刻な人材不足にあって警備業に興味を持った人に働いてもらえるように、雇用する側がしっかりと情報を提供することが求められている。

ハローワークで警備業に関心を持つシニアは、第二の人生では社会に貢献できる仕事をしたいと考えている人が多いそうだ。希望を抱いて警備業を選ぼうとする人に、詳しく業務内容を説明しよう。安心して入社、活躍してもらおう。

【長嶺義隆】

災害頻発 警備員を守る体制を2018.9.11

6日明け方近く、北海道で「最大震度7」の揺れを観測する地震が発生した。

道内全域での停電による社会生活への深刻な影響はもとより、大規模な土砂崩れや家屋倒壊など、今後のさらなる被害の広がりが予想される。

発災当日朝のニュースを見て、筆者が真っ先に感じたのが「また災害か」だった。同様の思いを抱いた人は多いだろう。

4日に四国に上陸、関西空港を冠水させて機能不全にした「台風21号」。いまだ西日本の広い地域で大きな被害の傷痕が残る「7月豪雨」。さらには、6月に発生、倒壊したブロック塀の下敷きになり児童が亡くなるなど大都市に被害をもたらした「大阪北部地震」。

このほかにも相次ぐ火山噴火やゲリラ豪雨、遡れば熊本地震や東日本大震災震災など、近年の災害発生の“頻度”は、異常と言わざるを得ない。まさしく“災害列島”である。

かつて、科学者であり文学者の寺田寅彦は、関東大震災の教訓を後世に伝えるために「災害は忘れたころにやってくる」という言葉を残した。

筆者は以前、「視点」で防災をテーマに取り上げた際、相次ぐ自然災害を念頭に、寺田の言葉をもじって「災害は次々とやってくる」と記し、その備えを訴えた。最近の発生状況を見ると、残念ながら、その言葉が現実のものとなってしまったようだ。

警備業に目を転じれば、多くの災害被災地で、警備員が復旧や復興に汗している。7月豪雨では、岡山県内で規制業務に従事していた2人の警備員が、氾濫した川に流されて亡くなったことは記憶に新しい。

災害発生時、警備業に期待されるのは緊急車両の誘導や住民避難地域の防犯活動など。加えて、水道やガス、電気などのライフラインの復旧工事では警備員による交通誘導警備は不可欠だ。

熊本地震発生時、直後に現地で取材したが、街中のあちこちで行われていたガス復旧工事の脇で、不眠不休と思われる無精ひげの警備員が交通誘導警備を行っていた姿が印象的だった。

警備業の活動は、警察や自治体との災害協定に基づく出動と、建設会社などの顧客からの緊急要請による出動に大別される。

公的出動は都道府県警備業協会が窓口となるが、災害時には加盟社やそこで働く警備員も被災者となる場合もある。広域的なバックアップ体制の整備も進めたい。また、対応力強化のための日ごろの訓練も大切だ。

個別の警備会社にあっては、まずは従業員の安否確認。連絡方法や集合場所を事前に検討する必要がある。また、災害発生時には、直後から水道工事会社やガス工事会社などから出動が求められる。即座に駆け付けられる警備員の選定など準備しておくことは多い。

さらに、警協や警備会社は災害対応時の拠点となる。水や食料、必要な資器材の備蓄なども必要だ。

東日本大震災で被害を受けた、東北のある経営幹部は「震災直後は車の燃料をいつも満タンにしていたのですが、最近は忘れがちです」と語っていた。甚大な被害が発生した地域でも、記憶の風化は進んでいる。「自然災害大国」日本で暮らす限り、災害はいつ・どこでもやって来る。“その時”への備えは欠かせない。

【休徳克幸】

災害対応 安全対策、見直す時2018.9.01

7月6日の夜、私は豪雨の中、車を岡山県の総社市から高梁市方面に走らせ、帰宅するところでした。途中、日羽の通行止め地点で警備員さんに声を掛けられ、言われるままに総社方向へ引き返しました。そのお陰で被災せずにすんだのです」。

そう話すのは、増水した高梁川による水害からかろうじて逃れた50代の主婦Aさんだ。現場はその時点ではまだ、足首まで水に浸かる程度の状況だった。しかし国道180号で総社に戻る途中、道路が水没しており無理に通過しようとして車は動かなくなった。110番通報し警察の指示を受け、高台に上って徒歩で避難場所まで辿り着くことができた。道路が整備されるまで避難場所に3日間滞在することになったという。

警備員の指示により九死に一生を得たAさん。「あのあと警備員さん2人が亡くなったことを避難所のテレビニュースで知りました。いろいろな人に聞いてこちらの会社の警備員さんとわかりました。ご迷惑でなければ受け取ってください、と近畿警備保障本社を訪ね、追悼の花束を手向けたのです」。この日は警備員2人の葬儀が行われた日だった。

Aさんは「私を助けてくれた恩人が代わりに亡くなってしまった。あのような悲惨な事故は二度と繰り返さないでほしい」と思いを強く語った。

互いに励まし合った

規制地点では、Aさんを誘導して1時間ほどの間に水の勢いが増して、身動きがとれない状況となっていた。10人いた警備員全員が濁流に流されたが、生還した一人が記した報告書からその時の切実な思いが明らかになった。

「流されたとき頭が真っ白になり『死んだ』と思ったが、携帯電話の子供の写真が見えて『死んでたまるか』という気持ちで木にしがみついた。そのあと耐えきれず再び流されたとき『終わった』と思ったが、気力を振り絞って竹林にしがみついた。暗闇の中で不安があったが、流された3人が周囲にいて声を掛けてくれた。『大丈夫か?がんばろう。生きて帰るぞ』と。どれだけ勇気づけられたかわからない」。

激しい流れの中、別の場所では4人が警笛と誘導灯で場所と安否を確認し合いながら互いに励まし合い、日が昇るまでの長く冷たい夜をしのいでいた。救助された警備員8人は、一晩水流に耐え続けたことから全身の筋肉にダメージを受け入院した。いまだに4人の警備員は、ショックから抜け出せない状態でいるという。

この事故を風化させてはならない。警備業界はこれを極めて重く受け止め、業界を挙げて再発防止に取り組まなければならない。決壊する可能性がある河川近くの現場では、ライフジャケットの着用、懐中電灯や笛の携行など命を守るための備えが必要となる。「生活安全産業」として人の生命・身体・財産を守ることが任務の警備業界だが、自身の安全を確保できなければその任務も果たせない。

9月1日“防災の日”を中心に、各地で自治体主催の防災訓練が行われている。各県警協はこれに参加し、被災現場での警察と連携した車両・人の避難誘導や交通規制などについて訓練と確認を行っている。警備業はそれだけにとどまらず、台風や集中豪雨など災害に対応するときの安全対策を見直さなければならない。

【瀬戸雅彦】