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視点

AI時代 省人化の中、スキル磨こう2018.6.21

警備業界は人手不足に悩む中、働き方改革で長時間労働の是正を求められ、2つの課題に直面している。世の中にAI(人工知能)やICT(情報通信技術)が普及し、IoT(モノのインターネット)も広がって、さまざまな業種で仕事のあり方が劇的に変わりつつある。

警備業で新技術の導入は、AIを活用するドローンや警備ロボット、ウェアラブルカメラを装着した警備員による大規模イベントの警備にとどまらない。2号警備にもAIが実用化されている。

例えば「脇道車両検知システム」。工事現場に設置したAIカメラが、脇道から侵入してくる車両や自転車の距離などを判定し、危険があれば音声と光によって警備員に即座に知らせ、事故を防ぐ仕組みだ。求人難の中でも交通誘導警備員の不足は特に深刻で、現場の「省人化」を実現する新しい技術として注目される。

小売業の店舗保安にも最新のAIが進出する。6月下旬から提供開始の「AIガードマン」は、カメラと店のスタッフが連携して万引きを防ぐサービスだ。

客が売り場を行ったり来たりし、店員に見られていないか見回すなどの不審な行動をAIカメラが検知して、店舗スタッフのスマートフォンに通知する。知らせを受けたスタッフは、不審な行動をする人物に声を掛け犯行を断念させるのが狙い。警備員や店員が、不審な行動をする人物を見つけるために常にカメラを監視している必要がなくなった。

人が当たり前に担っていた仕事の場は“AI時代”を迎えて、段々と縮小されていく。技術革新によって多くの業界で、業務の効率化、省人化が進む。しかし暮らしに密着して安全安心を守る警備業は、単に効率を追求するだけでなく、今まで以上に質の向上を図らなければならない。

AI普及の背景には、労働人口の減少がある。その上で、超高齢化が進む社会では、新技術がもたらす便利さやスピードに加えて、人が行う温もりのあるサービスも求められる。お年寄りや体の不自由な人に対する丁寧な接遇は、ますますニーズが高まる。警備員は、資格取得などで警備技能の向上を図るとともに、接客サービス面のスキルを磨く時である。車椅子を利用する人、白い杖を持つ人への対応など福祉関連の知識を身につけて、サービスの意識を一層高める教育が重要になる。

AIを活用して万引きから店舗を守る際に、人権侵害につながるミスは許されない。長崎県の警備業界で“保安の神様”と呼ばれる警備員から聞いた言葉を思い出す。40年以上にわたって店舗を守り、捕捉した万引きの人数は4000人を越えるというその人に「仕事で最も大切にしてきたことは何ですか」と尋ねると、答えはこうだった。「『誤認』は絶対に許されません。人間の尊厳に関わることです。人に配慮して、責任の重さを自覚して取り組んでいます」。

こうしたプロフェッショナルの信念が、AI時代になっても、人的警備の現場で受け継がれてほしい。

警備員が高いプロ意識を持って高品質な業務を行うことは、顧客満足につながる。それは省人化に向かう社会で、個々の企業がふるい落とされないための切り札となるはず。経営側は資質向上に向けた教育への投資を惜しんではならない。

【都築孝史】

人手不足 「警備員ファースト」貫こう2018.6.11

手元に刊行して間もない本紙の「縮刷版・3巻」がある。1年前の6月11日号のページをめくってみる。各地の総会の模様が1、2、4、5面と続く。そこにある警協会長諸氏のあいさつには、統一テーマを申し合わせたかのように「人手不足」を嘆く語句が並ぶのだ。

そして、編集を終えた今号。人手不足についての語調は一段と愁嘆を増し、手がかりのない対応策を探し求めているように思われる。

人手不足問題を突き詰めるなら、何より警備業界に就業の目を向けてもらう従業員の待遇改善にかかっていることは論をまたない。生活に夢を持てる賃金の確立である。まさに今、求められるのは〈利益は従業員に還元する〉という意識改革と取り組み姿勢ではないか。

その中で、大切なことは警備員に対する優しい思いやりと眼差しであろう。過日、トップインタビューに登場してもらった山口県警協の会長に就任した豊島貴子さんの言葉が脳裏に鮮明に焼き付いている。(6月1日号最終面掲載)。そのさわりを紹介したい。

「(就業にあたって)警備業界を選んでくれた人たちが愛おしく、彼ら彼女らのために働きたいと考えています。現在の心境を一言で表現すなら«無私»です。現場の警備士とお客さまに感謝の気持ちを忘れないように心がけていきたいです」。

豊島さんは、今夏から女性警備員専用の休憩車両にトイレを加えた特別仕様車両を配備する予定だとも語っていた。警備士あっての警備業、「警備員ファースト」への投資であり、“原資”を作り出す健全な経営が産みだした所産であろう。

業界の草創期、一部の経営者には、〈売上高ファースト・警備員は消耗品・教育システムは二の次〉との思いがあったことは否定できない事実であろう。もしも、今現在に至っても、こうした認識が頭の隅をよぎる経営者がいたとするならば、もってのほかと言わなければならない。

新規採用にあたっては、「これまでどおり」から一歩を踏み出して、方向性を持った努力目標を掲げて取り組んでもらいたい。間断なく急速に変化する時代の流れの中で、警備業が社会の負託に応えるためには意識の変革が不可欠だ。

人手不足を補うために新しい取り組みの一例を記したい。岐阜県警協が打ち出した「警備なでしこ」の拡充プロジェクトだ。現在4.2パーセント(225人)の女性警備員の割合を10パーセントまでアップすることを目指してスタートした。

加盟会員が関心を寄せているのは、おしゃれ感を前面に出した統一ユニフォームの作成を検討していることだ。各社は袖口にワッペンを装着する。ユニフォームの発注にあたっては、警備用品メーカーも“数”が見込めて制作を受注するのではないかと想定している。もちろん、「なでしこ」合同の教育プランも視野のなかだ。成果に注目である。

明けて来年は東京五輪・パラリンピックの前年となる。時を同じくする各地の総会で「人手不足」を嘆く声が横溢して、年中行事にならないことを希望すること切である。新しい試みと意識改革は、変えること、変わることを怖がらないことであろう。道を選び直す勇気を発揮してほしい。

【六車護】

制度改正 警備業界に「革新」を迫る2018.6.01

「配置基準」、「警備員教育」、「検定」――。いずれも警備業の根幹をなす重要項目だ。

警察庁の有識者検討会が4月に取りまとめた「人口減少時代における警備業務の在り方に関する報告書」は、これら項目についての制度改正を提言した。実現すれば、間違いなく警備業界の風景は大きく変わる。今後の警備業務のあり方に大きな影響を与える革新とも言える。

報告書の概要はこうだ。

配置基準――検定合格警備員の効果的な活用と、ICTなどの技術導入を促進する。このために、現場を監視する技術の導入状況に応じて検定合格警備員を配置する場所の範囲を設定するなど技術活用を配置基準に反映させる。

警備員教育――eラーニングの導入など教育実施方法の合理化や教育時間数を見直す。

検定――より実戦的なものとするなど試験内容を見直す。

提言の背景には、2020年東京五輪・パラリンピックへ向け、「警備員を増やしたい」などの意図もあり、多くの警備業経営者には歓迎される内容だろう。

しかし、提言内容を読み解けば、改めて警備会社の今後のあり様を考えさせられる。

配置基準の見直しは、今後の更なる人手不足を見据えた技術導入の促進が狙いだが、新技術の導入だけで全ての警備業務が賄えるのであれば、電機メーカーやシステム会社で事足りる。やがて警備会社は不要となるだろう。

ICTやAIなどの新技術をいかに警備業務に取り込んで人的警備と連携させるか――。警備業に課せられた今後のテーマだ。それにより「生産性向上」は実現できるはずだ。

警備員教育の見直しも、新たな取り組みの契機となる。例えば、新任教育や現任教育の時間数減少が、警備員の“粗製乱造”となったのでは困る。いまだに散見される「教育懈怠」などもってのほかだ。

「警備業は教育産業」は、業界内でよく耳にする言葉である。昨年、業界内外に大きな波紋を広げた「自家警備問題」でも、教育に裏打ちされた警備業務の専門性が、同問題をはね返す原動力となったのは間違いない。

法定の教育時間が少なくなったのであれば、その分“法定外”の教育の充実が望まれる。

高齢者や身障者に対する介助能力、ますます増えるであろう外国人観光客対応のための語学能力、誰からも好感が持てるサービス業としての接客態度など、社会から求められる警備サービスは日々、多様化・増加している。

健全な発展に期待

報告書は、短期的には目前に迫る2020年東京五輪・パラリンピックを、中・長期的には少子高齢化・人口減少を見据えたもの。検討に際しては、警備会社へのアンケートやヒアリングも行われた。いわば警備業の実情を反映している。

「あの改正によって、警備業はより素晴らしくなった」と、後に社会に評価されるか否かは、各警備会社が新たな制度改正の真意を理解し、いかに実行していくかにかかっている。

報告書巻末の「おわりに」の一節――今後も警備業が生活安全産業として健全に発展し、国民の安全安心に一層寄与することを期待している――を、警備業経営者は噛みしめてほしい。

【休徳克幸】