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視点

東京五輪・パラ 成功に導く認識の連携を2016.10.21

先日、一般紙の外信面下段に小さく載った通信社電の記事に目が留まり、嬉しさが広がった。

リオ・パラリンピックでは、障害者もボランティアで活躍が目立ったというのである。あらましを紹介したい。

――パラリンピックのボランティア約1万5千人のうち、車いす、義足、松葉づえなどを必要とする障害者は278人。ボランティア全体に占める割合では、約5万人中315人だったオリンピックを大きくしのいだ。

両足が不自由な体で、会場の車いす貸し出しサービスのボランティアに参加した初老の男性は「多くの子供が来てくれて、記憶に残る大会になった。障害者に対する市民の意識を変える良いきっかけになったと思う」と話した――

 筆者は先月のパラリンピック開幕に合わせ、当欄で<「優しさ」を理念として>と題する一文を書いた(9月21日号)。4年後の東京五輪・パラリンピックは、選手だけでなく、ボランティア、観客、身障者、高齢者、みんなに優しい「東京大会」を目指そう、と。

さらに、さかのぼる2年前。東京五輪の招致が決まったときは、<聖火に託する五輪の理念>を訴えた(平成26年9月21日号)。その文意は、地球温暖化を見据えた「環境五輪」、東日本大震災と原発事故の被災地を忘れない「復興五輪」をコンセプトに加えよう、と。

いま、「東京大会」は、膨れあがる開催費用、「社長と財務部長のいない会社と同じ」と東京都の調査チームに一刀両断されたガバナンスの所在の不明確さなど、準備を推進する統治と体制への不安と懸念が限りなく広がっている。

いやはや、これでは五輪・パラリンピックの基本的な考え方である<理念>の設定、閉会後も社会に良い影響を残すための<レガシープラン>など、本来なら知恵を出し合い、議論を戦わせて共通認識を構築することなど、どだい無理な相談であり、期待はできないであろう。

ちょうど2020年は、温室効果ガス削減の新しい国際的な枠組み「パリ協定」がスタートする。組織委員会の森喜朗会長や丸川珠代五輪担当相に、その「視点」があるのだろうか。ここは、環境相時代に「クールビズ」を定着させた小池百合子都知事の出番に頼るしかない。

出番と言えば、丸川氏は何をしているのだろう? 五輪担当相は、文科相が兼任していたが、大会の成功に向け、新しい法律のもとで専任となった。首相経験者の長老・森氏に遠慮しているのではないかと感じるのは筆者だけではないだろう。

このところ、聞こえてくる小池都知事との“不協和音”などは論外だ。担当相として職責を果たし、「東京大会」を成功に導く立場でありことを自覚してほしい。

現状を見るにつけ、警備全般を担う警察庁、警視庁、県警本部も動きにくい。まして、警備を支援する重責の警備業界は手をこまぬくしかないのではないか。切羽詰まれば、やり遂げるのが日本人の持つ特質である。しかし、そのことは、いかにも漠としたものだ。

東京五輪・パラリンピックは、競技施設の「ハード」だけに目を奪われてはならない。文頭に引いた<ボランティアも障害者が活躍>のニュースは、心温まる「ソフト」の具現の一例に値するのではないか。関係者には、胸襟を開いた連携を強く促したい。

【六車 護】

戦略もとに人材確保を2016.10.11

10月1日、大手企業を中心に、来春採用の新卒者の「内定式」が始まった。

日本経団連が取り決めた「採用選考に関する指針」で、〈正式な内定日は、卒業・修了年度の10月1日以降とする〉を受けたものだ。

都内でも、着慣れないスーツを身にまとい、しかし、「就活生」にはない“安堵感”に包まれた表情の男女学生を多く目にするようになった。

学生は、来春からの希望に満ちた社会人生活の第一歩として、企業は、労働力減少期の貴重な若年労働力の確保として、それぞれ内定式を迎えたに違いない。

近年、軒並み新卒採用者数を増やす大手企業の内定式、その様子は人手不足に喘ぐ警備業関係者の目に、どのように映ったのだろう。

このような中、これまで警備業と人材獲得を競い合ってきた建設業界やタクシー業界では、新たな取り組みが進んでいる。

慢性的な職人不足が続く建設業では、大手ゼネコンが現場での工事施工を担う傘下有力専門工事業者運営の企業内訓練校に、全面的な支援を開始した。一部の大手ゼネコンでは、自ら企業内訓練校を持つ子会社を設立、職人の育成をスタートさせた。新卒者を社員として採用し、自社やグループ企業の工事を担う職人として育成する取り組みだ。

準大手ゼネコンの人材育成担当者は「これから同様の取り組みは、大手中心に更に進むだろう」と述べ、自社でも複数あった下請企業の協力会組織を一本化、有力企業や優秀な職人の囲い込みに着手したことを明らかにした。

タクシー業界では、大手各社が新卒採用の拡大に乗り出した。これまで同業界では、中途採用者が主体だったが、訪日観光客向けサービスなど広がる事業領域に対応するためだという。

さらに、一時期は「社員化は人件費の固定化につながり、企業経営にはマイナス」といった意見が主流となり、多くのアウトソーシングや派遣労働者を受け入れた製造業や小売業などでは、今は深刻化が予想される労働力減少を見越し、アルバイトやパートを社員化する企業が多くなっている。

小手先の人集めは限界

警備業に目を向けると、これまで中途採用者に頼ることが多かったが、一部で新卒採用への取り組みは進んでいる。

ある会社では、高校卒の新卒者を“幹部候補生”として積極的に採用、現場の警備から営業、管制など幅広い業務に対応できるよう育てている。

さらに同社は、主婦や定年退職した高年齢者の採用にも、さまざまな工夫を凝らして取り組んでいる。主婦には「午前だけ、午後だけ勤務」といった具合に、働く側のライフスタイルを考慮した多様な短時間勤務を用意した。高年齢者には「年金が支給されるまで」「体力づくりの一環」など、働く側の理由に応じたシフト管理に努めている。

警備業の一部で行われてきた「入社祝い金あり」、「日払い・週払いOK」などの“小手先”の人集めは、いずれ通用しなくなる。

新卒採用に取り組むのか、これまでのように中途採用を継続していくのか――。各社の経営戦略などで判断は分かれるところだ。しかし確実に、働く人、労働力人口は減少していく。人材確保対策に遅れは許されない。

【休徳克幸】

サイバー攻撃 「2020」へ、対策急げ2016.10.1

リオから東京へ――五輪旗・パラリンピック旗が引き継がれた。リオ大会の開催期間中、大きな事件・事故はなかったが、実際には目に見えない危機に見舞われていた。「サイバー攻撃」だ。

リオ五輪公式サイトに約2000万回の攻撃があり、国際パラリンピック委員会と世界反ドーピング機関がロシアのハッカー集団に攻撃された。世界の注目を集める五輪・パラリンピックは格好の標的となる。ロンドン大会では公式サイトが2億2100万回の攻撃を受けた。このときは、電力インフラへの攻撃により、開会式の最中にスタジアムの照明が停電する可能性があった。

2020東京大会へのサイバー攻撃は始まっている。昨年11月、組織委員会公式サイトのサーバーに大量のアクセスが集中する「DoS攻撃」があり、機能停止に追い込まれた。

警察庁は今年上半期のサイバー情勢を発表したが、被害は年々深刻化している。日本年金機構の個人情報が大量に流出した事件は、まだ記憶に新しい。特定の企業や個人を狙って情報搾取などを目的とした「標的型メール」が複数、送りつけられた。

警察と民間事業者が官民一体となったサイバー犯罪に対抗する取り組みが進められており、警備会社ではセコムとALSOKが参画している。ALSOKは警視庁と、サイバー犯罪調査に協力する共同対処協定を結んだ。犯罪の認知から捜査における技術的な協力、情報共有などを進めている。同社は今年8月、地域金融機関向けの新たなサイバーセキュリティー支援の提供を開始した。

セコムグループのセコムトラストシステムズは「セコム・サイバー攻撃対策サービス」を提供している。未知のウイルスを使った標的型攻撃に対して外部に出ていく通信を監視する“出口対策”を徹底し、機密情報の漏えいを防止する。

「セコムサイバー道場」は、サイバー攻撃を再現する環境を同社データセンター内に作り、攻撃された場合の検知方法や実態調査の技術について学ぶサービスだ。標的型メール攻撃やウイルス感染、インターネットバンキングの利用者への攻撃手法が体験できる。

2020東京大会に向け警備員の確保が課題となっているが、サイバー攻撃に対抗するセキュリティー人材はもっと不足しており“トップガン”と呼ばれる最上位レベルの技術者を含め「約8万人足りない」という推計がある。世界のハッカーと勝負できるエンジニアの育成が急務だ。

サイバーセキュリティーコンテストは、技術者のレベルアップに効果がある。セコムトラストシステムズは国内最大規模のコンテスト「SECCON2016」への協賛を決めた。昨年度は65か国3343人のエンジニアや学生が参加した。攻撃・防御の両面から総合力を試す「CTF」、学生向けの大会「サイバー甲子園」のほか、初心者向け勉強会や女性専用ワークショップも予定されている。

今月19日から「サイバーセキュリティワールド2016」が始まるが、社会を揺るがすサイバー攻撃に対処する技術・サービスの最先端を知る絶好の機会だ。2020東京大会は、競技会場や周辺の物理的な安全確保と共に、目に見えないサイバー空間のセキュリティー対策を入念に準備する必要がある。

【瀬戸雅彦】