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視点

人材確保 まず「就業規則」整備を2017.12.21

今年も残すところあと僅か。多くの警備会社にとって、人材確保に苦労した年だった。

厚生労働省は、警備業の有効求人倍率が他業種と比べて高いことから昨年から雇用改善の支援を始め、一部のハローワークで「人材対策特設コーナー」を設けるなど、より積極的な取り組みを行った。モデル企業を募り、社会保険労務士によるコンサルタント訪問を無料で受けられる事業もその一環だ。年明けに調査結果を集計して、来春には事例集にまとめ、セミナーを開いて結果を報告する予定になっている。

その事業はまだ途上にあるが、採用・定着の改善の前に警備業には労働環境に基本的な問題が多いことが浮き彫りになってきた。中でも「就業規則」は改善が必要だ。規則の内容が正規社員向けで、非正規社員にはマッチしていないため現実的ではない。またはサイトからダウンロードした一般向けの内容だったり、最悪のケースでは就業規則自体がない企業もある。

警備会社にとって「警備業法」遵守は大切だが、それ以前に足元にある「労働基準法」も厳守すべきコンプライアンスだ。今まではそこを曖昧にしても人を採れる時代だったが、これからはそうではない。警備業界だけではなく産業界全体で人材の奪い合いが始まっている。警備業は残念ながら、そのスタートラインにも立てていないのが現状だ。

社員がいつでも閲覧できるよう義務付けられている就業規則の整備は、一部の警備業者にとっては都合が悪いことでもある。法人の義務である社会保険加入や時間外労働の規定、休憩・仮眠時間の扱いなど、労働条件を明確にする必要があるからだ。しかし企業が新たな人材を確保するためには、避けては通れない道である。

警備員不足の対策と警備業の社会的地位を上げることを目指し、全国警備業協会は昨年、「基本問題諮問委員会」を立ち上げた。学識経験者・警備業者などで構成される調査部会で検討を重ね、今年6月に最終報告書がまとまった。今後は各都道府県協会と連絡をとりあい、施策の実施と普及を図る。

最終報告書は前文で「警備員不足の背景には『厳しい労働環境』のほかに『イメージの悪さ』や『賃金の低さ』がある」と問題提起した。全警協は今月「警備業務適正化小委員会」を設置し、警備員のイメージ向上と賃金改善についても取り組む。警備員の所作を正し倫理観を高めて業界の地位向上を図り、人材確保につなげる規範が「警備員憲章(仮称)」だ。かつて経営者の意識改革を目指す「経営者のための倫理要綱」が策定されたが、今度は警備員一人ひとりに向けた“心得”となる。

警備員の賃金改善については、適正料金確保のための営業技術書として「警備業の価格交渉ノウハウ・ハンドブック」の作成に取り組んでいる。2号業務と比較して1号業務の警備料金が上がらないことから、「施設警備の標準見積書」についても検討されている。

建設業やビルメンテナンス業では、発注者や元請け業者に向け「下請け取り引き適正化」のために最低賃金を規程したり、生産性の向上などを促すガイドラインがある。警備業には現在それがないので、早期に策定してもらいたい。

2018年初夏には「2020東京大会」の民間警備予算が確定する見通しで、警備計画などの準備が加速するだろう。警備員の雇用改善に猶予はない。

【瀬戸雅彦】

警備なでしこ 女性が女性を呼ぶ職場に2017.12.11

警備の日の全国大会で、女性警備員の愛称「警備なでしこ」が発表された。人材確保対策の一つとして、女性の雇用拡大に向けて業界が掲げた旗印である。働きたい意志はあっても子育てなどで就業していない“潜在的労働力”の30〜40代の既婚者をはじめ、より多くの女性層をどのように業界に取り込んでいくかが命題であろう。

子育て中の女性が求める働きやすさとして「勤務シフトの柔軟さ」がある。朝は登校する子供より早く出勤しても、子供が帰宅する時には夕食をこしらえて待っていたい、といった要望がかなうような勤務時間だ。子育てに限らず、超高齢化が進み、介護と仕事を並行する人も増えていく。希望に合わせた柔軟な勤務シフトの採用を進めることは、フルタイムで働けない人々の受け皿となる。各業種の間で労働力の奪い合いが激しくなる中、短時間勤務などの魅力は女性層を振り向かせるのではないか。

また、現場で少数派の女性警備員が不満をためないよう、会社側が話を聞く機会をこまめに作ってコミュニケーションを深めればメンタルケアになり、改善すべき点が見えてくる。話すことはストレスの解消にもなる。大切なのは、警備業に入った女性が、例えば“ママ友”など友人知人の女性に「働くなら警備業はおすすめ」と積極的に誘いたくなる職場づくり、環境改善を進めることである。

女性は仕事選びで、職場の雰囲気を重視する傾向が強い。愛称のPRなどがきっかけで警備業に目を向け、面接や説明会に訪れた女性を逃さないためには“安心感”を与えることがポイントになる。

圧倒的に男性が多い職場に入っていくことには心細さが伴う。特に交通誘導警備では、トイレや着替え場所の問題がつきまとう。応募してきた人の不安をどう解消するか。例えば会社側が、トイレを利用できるコンビニや公園の場所など、現場ごとの情報を必ず調べて、隊員に周知していることを面接の段階でしっかりと伝える。屋外で働く厳しさはあるが、受傷事故や熱中症の防止には、自社はもとより業界が一丸となって取り組んでいるとアピールすることも安心感をもたらすに違いない。

今はタクシー業界に女性ドライバーが増えたが、かつては男性のイメージが強かったせいで求人誌をめくる女性はタクシーの項目を飛ばし読みしていたという。警備業も同じではないだろうか。警備員54万3000人のうち女性の割合は、わずか5.8パーセント。ハローワークなどで、警備の仕事には女性のニーズがあるという“気づき”を与えて振り向いてもらうため、愛称をさまざまな機会に活用すべきだ。「警備なでしこ」は、東京五輪・パラリンピックを控えて女性が活躍する警備現場が今まで以上に広がっていくことを知ってもらう糸口になるはず。

「警備の仕事は楽しいです。安全を守ることに充実感があります」――これは山口県警備業協会が、交通誘導警備の現場を巡回点検した「交通安全パトロール」の際に女性警備員が述べた言葉だ。20か所のうち4か所で業務を行う女性警備員の中には今年、交通誘導2級を取得して結婚をした20代の隊員もいて、全員が公共の安全確保という使命感を持って取り組んでいた。

警備なでしこの活躍は、職場環境の改善や警備業のイメージアップ、認知度の向上と一体になっていく。 

【都築孝史】

労災防止 全てを失う前にやること2017.12.1

先ごろ、中央労働災害防止協会が主催して厚生労働省などが後援する「全国産業安全衛生大会」が神戸であった。今回で76回目を数えた同大会は、わが国産業界の労働災害防止へ向けた意識高揚はもとより、労災防止のノウハウ・情報の共有に大きな役割を果たしてきた。

全国の職場で日々活動に取り組んでいる安全・衛生管理者など約1万人が集った大会では、メンタルヘルスやリスクアセスメントなど近年注目される分野をはじめ、安全管理活動や中小事業場など全12分科会に分かれて活動発表などが行われた。

特に会場で目についたのは、若い参加者の増加だ。労災防止のさまざまなノウハウを持つ“団塊の世代”が職場から去った今、「ゼロ災職場」の担い手として期待されている若い社員が、勉強のために派遣されたのだろう。

一方、警備業からは今回、全国警備業協会が推薦した4社を含む計5社が発表した。テーマは、交通事故(交通労災)防止、南海トラフ地震に備えた危機管理体制の整備、熱中症予防など。いずれも日常の警備業務に関係の深いものばかりだった(11月21日号「特集ワイド」)。

発表はパワーポイントを用いてスライドを示しながら行われたが、会場からはスライドを撮影するデジカメやスマホのシャッター音がここかしこから聞こえてきた。発表後は取り組みについての質問も相次ぎ、中には、会場を立ち去ろうとする発表者を捕まえ、質問を寄せる熱心な聴講者の姿も見られた。

全警協も例年、大会に合わせて労務委員会を現地で開催している。委員たちは発表者の応援と聴講に臨んだ。ただ残念だったのは、発表者と労務委員以外の警備業からの参加者(聴講者)がほとんどいなかったこと。唯一、見かけたのは北陸地方の主に2号警備業務を主体とする会社の役員。同氏は過去に大会での発表経験を持つが、今回は勉強のために大会に駆け付けたという。大会は他社の取り組みを知る絶好の機会。そればかりか他業種であっても警備業に参考となる取り組みは多いのだ。

安全衛生対策は不可欠

厚労省が取りまとめた11月7日現在の労災発生状況によれば、死亡と休業4日以上の「死傷災害」の被災者は全産業計で8万7125人。これは前年同時期に比べて1229人の増加だ。警備業は1144人で同64人の増加となっている。死亡者数は全産業計が同32人増の701人。警備業は同7人増の23人で、死傷、死亡ともに増加している。

死亡者数が最も多いのは建設業の235人だが、その就業者数は警備業の約10倍の約500万人。警備業の死亡災害の発生率は、危険作業の多い建設業とほぼ同じということになる。

これからの年末や年度末、さらには東京五輪・パラリンピックへ向け、警備業務の一層の需要増大が見込まれる。人手不足の昨今、ベテラン警備員には負担増による疲労、経験の浅い警備員には業務不慣れなどを原因とした労災発生が懸念される。適正なシフト管理や教育など各種安全衛生対策は不可欠だ。「安全への取り組みは金を生まない」という経営者もいる。しかし、ひとたび労災が発生すると、これまで積み上げてきたものを一瞬にして失うことを忘れてはならない。 

【休徳克幸】