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視点

北陸の大雪 心を通わせて除雪作業2018.2.21

「雪の量は37年前(昭和56年・五六豪雪)を超えたのではないでしょうか。いま、何より迫られているのは除雪です。住宅地は道路が雪に埋まって屋根の雪を降ろす場所さえないのです。私の会社も周辺の除雪に追われています」

福井・石川両県の大雪で警備業はどうなっているのだろう――福井県警備業協会会長の吉田敏貢さんは、電話での問い掛けに、こと細かに現状を報告してくれた。

その日は中旬の連休初め。大雪は一段落、久しぶりに晴れ間がのぞいた日である。福井市内は九頭竜川が流れている。支流と町内を巡る排水路は、極めて都合がよい雪捨て場になっている。県・市当局に加え住民のみんなが一生懸命に除雪作業に取り組んでいると言った。

「しかし」、と吉田さんは嘆息を漏らしながら言葉をつないだ。

「心配なのは気温の上昇と雨の予報です。本来なら北陸はベタ雪なのですが、今回はサラサラ雪。雨で、積もった雪が水気を含んで重く柔らかくなると路面の悪化だけでなく、屋根からおろす雪には細心の注意が必要です。雨のあと、また雪が来ると大変なことになると思いますよ」

果たせるかな、である。連休の2日目には夕方から降り始めた雨で道路状況が悪化した。連休明けは吉田さんの危惧が現実となった。寒波の襲来とともに北陸地方は再び大雪の日々となったのだ。

県と市による除雪車と排雪を運ぶダンプカーは大渋滞で機能しなくなった。行きついたのは、県知事の企業に対する操業停止の要請だった。困惑の輪はさらに広がった。

お互いにご苦労さま

それでも、天を恨んで手をこまねいているわけにはいかない。吉田さんは、なんとか会社にたどり着き、徒歩で出社した警備隊員と一緒になって会社周辺の道路の除雪に汗を流した。そこで身に染みて感じたのは<住民の人たちの「情の輪」>だったという。

近所の人たちは、自宅の雪かき、屋根の雪下ろしで疲れているだろうに、スコップを手に道路の除雪に加わってくれたのだ。吉田さんたちが「協力、ありがとうございます。ご苦労さまです」と声を掛けると、決まって多くの人が口をそろえて同じ言葉を返してきた。「いえいえ、お互いさまです」。

路面のへこみでタイヤが空転する自動車があれば、何人もが集まって力を合わせて移動を手伝うこともしばしばだった。

「住民の人たちのお力添えは大変なものです。私は名古屋の出身ですが、今回の豪雪では、福井にやってきて、つくづく地域の情けの輪を感じましたよ」と吉田さんは言った。

自戒を込めて言えば、首都圏に住む者にとって、山陰から北陸、北海道に至る大雪を、ともすれば季節の風物のように感じることがある。先月は東京都心で20センチの積雪を記録した。

NHKは夕方の全国ニュースのトップで伝えた。雪国の人たちにしてみれば、物の数ではない積雪だ。「何を大騒ぎする」であろう。画面に見入ったことを思い出すと恥ずかしい限りと言わなければならない。

付記すれば、今度の北陸豪雪を伝えるNHKの一連報道には違和感が募った。内容は積雪量と交通渋滞の繰り返し、なんとも上っ面だけに過ぎた。そんなとき、吉田さんのさりげなく語った除雪作業にまつわる「情の輪」は、琴線に触れて余りあった。

【六車 護】

五輪警備 「JV」へ積極的な参加を2018.2.11

2020東京五輪・パラリンピック警備の準備が、春から加速する。大会オフィシャルパートナーであるセコムとALSOKが昨年10月に「発起人会」を立ち上げた。現在、大会組織委員会と協議しながら警備共同企業体(JV)の骨格を固めている。4月に正式に設立され、理事会を組織して参加企業の第1次募集をスタートさせる予定だ。

昨年12月、発起人会2社と組織委員会は、東京と神奈川、千葉、埼玉の各都県警備業協会に対し、大会とJVの概要について説明会を開いた。最大の課題としてあげたのは「警備員不足」で、協会に支援を要請した。

直近の五輪2大会は、警備員の確保に失敗した。2012ロンドン大会は、スポンサーである世界最大の警備会社「G4S」が警備員1万人超を準備する計画だったが、大会2週間前に警備員不足が判明。急遽、陸軍を1万2000人投入し、民間警備は4400人のみとなった。

2016リオ大会は警備員1万6000人で対応する予定だった。しかし入札で受注した警備会社は大会1週間前に破産。大会予算の不足から刑務官1700人、警察官OBも活用した国家治安部隊9600人を急遽、編成した。民間警備はロンドン大会同様、4400人となった。

「2020」はこのような失敗を避けるため、スポンサー2社を中心に全国の警備会社がJVを組んで協力する“オールジャパン体制”を目指す。競技会場は1都3県を中心に北海道から静岡まで40にわたり、公式練習会場や関係施設を合わせると警備対象は100を超える。それが五輪開会からパラリンピック閉会までだけで1か月半続く。最寄り駅から会場までの“ラストマイル”や、全国レベルとなる聖火リレーの警備もあり、膨大な人数を要する。

警備員を確保するため各社の積極的なJV参加と共に、業界をあげてPR活動に力を入れなければならない。今月25日に開かれる「東京マラソン」は監視カメラの台数を昨年の86台から133台に増やし、車両テロを未然に防ぐ資機材を設置する。このように人に頼らない資機材を用いた警備も考えていく必要がある。

8万人を収容する新国立競技場をはじめ競技会場や関係施設への入場チェックは先端技術の導入で効率化を図りたい。昨年から羽田空港などの保安検査場に導入された「スマートセキュリティ」の技術は活用したいところだ。手荷物を自動搬送しながらチェックするもので、従来は1時間180人の検査人数を300人に増やせる。

課題は人材確保だけではない。盛夏の開催だけに熱中症対策には万全を期してほしい。9日に始まった平昌冬季五輪では宿舎で生活する警備員の間でノロウイルスが発生。組織委は警備員1200人を現場業務から外し、代わりに韓国軍900人の投入を発表した。

各地から集まった警備員に宿舎を用意することも課題だ。平昌冬季五輪のボランティアスタッフは、シャワーが冷水しか出ないなど宿舎の劣悪な環境から2000人が離脱した。

「2020」は国内では例がない大規模な警備になる。あと2年あまりで周到な準備を積む必要がある。IOCは“警備服の統一”をリクエストしているという。スマートな警備で大会を守り抜き「日本の警備業ここにあり」を世界に示してもらいたい。 

【瀬戸雅彦】

観光立国 外国語対応、警備員の「挑戦」2018.2.1

JNTO(日本政府観光局)がこのほど発表した昨年の訪日外国人は2869万900人、前年比19.3パーセントで過去最高を更新した。都心を走る電車に乗って車内を見回すと、ほとんどが外国人という光景も珍しくなくなった。国は、東京五輪・パラリンピックが開催される2020年に訪日外国人4000万人という目標を掲げ、観光立国を推進する。留学生や、農漁業などを各地で実習する外国人も増加が続く。治安の良さが魅力である日本を訪れる人々のために、警備業は安全安心を守るとともに外国人に対する接客スキルの向上を目指していく時だ。

先日、賀詞交歓会の懇談で都内の中小の経営幹部に“警備員の英会話教育”について聞いてみた。「必要な時代になったと実感するが具体的な方法はこれから考える」、「高齢の警備員が多いこともあり着手していない」、「必要最小限の英会話をピックアップして覚えさせている」などの答えだった。英語力は警備員の付加価値となるはず。しかし人手不足の克服という最優先課題が立ちはだかる中での取り組みは難しそうだ。

外国人とのコミュニケーションでは、スマホの手軽な音声翻訳アプリや、日本語を英・中・韓の3か国語に翻訳する拡声器「メガホンヤク」が活用できるだろう。しかし、災害時の的確な避難誘導や、さまざまな不測の事態に備えて、外国語の心得がある警備員の育成は安全確保のために欠かせない。

交通誘導警備員に英会話を広めようとする会社がある。シンコー警備保障(東京都新宿区)は、警備で役立つ英会話(足元の段差にお気をつけ下さい、等々)のカリキュラムを英会話教室の協力を得て作成し、カナダ人講師を招いて毎月、社内でレッスンを行う。コンセプトは“外国から来た人と楽しく話そう”。参加する警備員が少ないことから、現場の隊長が集まる合同会議の中でレッスンを行って、それぞれの現場に伝えるなどの工夫をしている。

英語以外の語学対応のニーズもある。ブラジル人が多く働いている施設を警備する会社に、ユーザーから「ポルトガル語の話せる警備員を配置してもらえないか」との要望があった。リクエストにかなう警備員は見つかっていないが、こうしたニーズに応え、外国人への接遇を充実させて他社との差異化を図ることは、自社の特色づくりとなり、料金交渉の材料にもなるのではないか。

語学とともに外国人とのコミュニケーションで必要なのは、宗教や文化、慣習の違いを把握しておくことだ。例えば、指で輪を作るOKサインが侮辱的な表現となる国々や、子供の頭をなでることをタブーとする国もある。文化の違いを知れば、トラブル回避につながるだろう。

大事なのは、警備員が外国人に対する接遇のために語学や異国文化を学びたいと積極的に思うことだ。こうしたスキルアップの意欲を高める職場環境づくりは、経営側の役割である。

しかし、せっかく語学を身につけても、その警備員が離職してしまえば意味がない。東京五輪に向けた警備員の確保は単に人数を集めるだけでなく、警備技能と語学力を兼ね備えた警備員を、より多く大切に育てることが課題だ。観光立国を守る警備員は、英語教育と合わせて、離職を防ぐ処遇改善や労働環境の整備によって育成されるに違いない。 

【都築孝史】