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視点

働き方改革 出発点は適正な労務管理2017.4.21

ソッポを向かれる前に

「労働条件や労務管理に問題のある会社もあり、人を紹介したくても紹介できないという声が現場から上がっているのです」――。

厚生労働省は昨年に続き、警備業の人材確保への支援に乗り出した。詳細を取材するために、本省職業安定局の担当官を訪ねた際の「警備業は人手不足で苦しんでいるので、このような施策はありがたいですね」との筆者の一言に返ってきた言葉が、冒頭のそれだ。詳しく聞くと、同様の意見が全国複数のハローワークから寄せられているという。

他業種に比べて有効求人倍率が高く、3年余に迫った2020年東京五輪・パラリンピックを控えてもなお、慢性的な人手不足に喘ぐ警備業への支援が、一部の企業ではあるが、警備業の実情をあぶりだした。

厚労省の支援は、ハローワークにおいて、求職者には警備業に対する理解促進や求職の誘導。求人者である警備会社には効果的な求人票作成の手助けや魅力的な労働条件整備への助言・指導などが行われる。また、今年度は全国の県庁所在地などにある地域最大規模のハローワークを中心に、就職面接会と事業所見学会を同時に行う「ツアー型面接会」を、ハローワーク側に年4回とノルマを課して行う。東京では12ハローワークで、大阪は9ハローワークで、「ツアー型面接会」が行われる予定だ。このような手厚い支援、好機と捉え利用しない手はない。

ソッポを向かれる前に

最近耳にすることの多い「働き方改革」。政府主導の、これまでの労働慣行を大きく変えようとするこの試みは今後、企業の人材確保にもさまざまな影響をもたらしてくることが予想される。

“電通事件”をきっかけに社会の注目を集めた「長時間労働の是正」、正社員と非正規社員の待遇差を是正しようという「同一労働同一賃金」など、いずれも働く側には大歓迎だ。

言い換えれば、これらに取り組まない会社には、いずれは「ブラック企業」という不名誉なレッテルが張られ、若者など多くの働く人からソッポを向かれることになるだろう。その意味からも、適正な労務管理の実施と、これに基づいた段階的な労働条件の改善は不可欠だ。

これまで警備業では、労務管理の一つである時間管理については、「交通誘導警備では直行直帰が当たり前。時間管理はムリ」、「施設警備では人も不足し、いつ何があるか分からない。夜勤での休憩、仮眠の線引きは困難」など、長年の慣行に基づいた対応がとられてきた。

しかし、労働時間の正確な把握は、何も割増賃金の支払いだけに直結する訳ではない。会社の誰が多く残業をしているのか、業務が一部の担当者に偏ってはいないか、十分な休息が取れずに体調を崩してはいないか、勤務シフトに改善の余地はないか――など、時間管理が賃金管理はもとより、健康管理や業務管理など多岐にわたる管理を可能とする。そのキメの細かい管理が、人材の適正配置など経営資源の効率的な投入へとつながる。

今秋にも関連法案が国会に提出される「働き方改革」。会社から見れば“働かせ方”の改革。従業員が元気に、イキイキと働ける経営を考えてほしい。

【休徳克行】

人手不足 労働条件を改善する好機2017.4.11

新年度が始まった先週。いかにも新社会人と分かる装いの若者たちを目にした。通信社調べによると、その数は約89万人という。

彼ら彼女らを見るにつけ、警備業に思いが及んだ。業界あげて人手不足が最大の課題としてクローズアップされる中、はたして、新卒の人員確保は、いかがだったのだろう。

小紙は今号で警備業数社の入社式の模様をレポートした。次号は「特集ワイド面」で経営トップの〈歓迎と訓示の言葉〉や〈採用事情〉を掲載する予定だ。これまでの編集同人の取材結果を要約すると次のようになる。

――「大手・中堅会社は、かつてないリクルート活動を展開して何とか人員を確保できた。それでも目標人数には届かなかった」。「規模の小さい会社は、新卒採用を端から手の届かないものとあきらめている感がある。ターゲットは、中高年を中心に随時採用にならざるを得ない」――

そんな状況で警備の仕事を選んだ新人社員は、〈売り手市場〉の中で確保した貴重な人材だ。そこで大事なことは、人々の安心と安全を守る仕事に誇りと愛着を感じる社員に成長してもらわなければならない。“人材確保”につづく“人材定着”である。

若い社員は、いざ現場で働き始めると、「こんな仕事とは思わなかった」と悩みを抱いたり、苦しさを感じることは容易に想像できる。いま、まさしく必要なことは、上司や先輩の理解と心配りではないかと思われる。

何もチヤホヤと甘やかすことではない。新人の仕事ぶりを見守りながら、折に触れて、豊かな経験に基づくアドバイスと分かり易い指導、ときには仕事を離れた息抜きの世間話でよい。胸襟を開いて語り合うことで悩む若者は救われる。年長者だって、わが身を振り返れば思い当たる節があるに違いない。

これから、警備業界の人手不足の行先は如何に。今後の採用動向を予見するなら、建設業や流通業を中心に厳しさが続くものとみられる。それは、両業種と密接な関りを持つ警備業界にとって「仕事はあるが、人がいない」という悩みの言葉が繰り返されることを意味している。

では、どうすれば新たな地平を開くことが出来るのか。行き着くところは一つ。〈言うは易く行うは難し〉ではあるが、警備業が一丸となって、社会的なステータスを高める努力を積み重ねることに尽きるのではないか。せんじ詰めれば結局、“魅力ある職場づくり”であろう。具体的に言えば、(当欄で何度か訴えてきた)警備員のやりがいを担保する報酬と待遇の改善である。このことは、何も大手・中堅会社に限ったことではない。業容拡大を望んでも、現状維持を余儀なくされている小規模会社とて同じだ。

本音を言わせてもらうなら、むしろ後者にこそ取り組んでもらいたい命題なのである。「歩調を合わせることはない。ウチは現状の程々でよい」の意識を転換してもらいたい。

ラグビー競技の世界で精神的な支柱となっている名句が思い浮かぶ。「One for all、all for one(一人はみんなのために、みんなは一人のために)」。

「社会的なステータスを得る」ハードルは高い。しかし、みんなが意識を共有しなければ、成就は有り得ない。人手不足の顕在化は、労働条件の改善と警備業のあり方を考える絶好のチャンスと捉えることだ。行動を起こしてほしい。

【六車護】

加入期限 今後は“強制加入”の流れ2017.4.1

社会保険加入の期限となる「平成29年3月31日」を迎えた。

国土交通省は平成24年、建設業に向け、健康・厚生年金・雇用の3保険未加入業者を公共工事現場から排除すると発表。企業単位で100パーセント、労働者単位で90パーセントの加入を目標値として示した。以後5年間にわたり、建設現場における交通誘導警備員の労務単価引き上げなど、警備業界に対しても加入促進に向けて手を尽くしてきた。

この未加入対策は法令上だけでなく、若年層の確保のために重要な意味があった。また法定福利費を負担する企業が競争上不利になる“正直者が馬鹿をみる”状況を打破し、公正な経営競争環境を取り戻す目的もあった。

法人の義務である社保加入を創業時から当然のように済ませている会社もあれば、血がにじむ思いで加入を進めた会社もある。その一方で、当初から加入の意思が全くない経営者もいるという。「警備員が不足している現状で公共工事の現場から未加入業者の警備員を排除したら、工事が進まなくなる」という“居直り”とも取れる声を聞いたことがある。

しかし今後、国は未加入業者を放置せず、“強制加入”を進める方針だ。2次以下の下請け業者が社保未加入だった場合には、一定の期間(2次で30日)を設け指導するよう、元請け業者に求めていく。期間内に下請け業者から加入報告がない場合、厚生労働省の保険担当部局に通報され、立ち入り検査が行われる可能性がある。ゼネコンや全国展開の大手建設業者は特に厳格に指導するという。

本紙記事にあるように、全国警備業協会は警察庁と連名のクレジットを入れた社保加入促進用のチラシとポスターを作成、各加盟員に配布した。そこには「未加入の場合、法令により厳しい罰則や追徴金が課せられます」と明記されているが、それが現実となる。

ある経営者は次のように話す。「加入期限前にもかかわらず県内で10社以上が日本年金機構による立ち入り検査を受け、2年間遡って莫大な追徴金を徴収された会社もある。消費税率10パーセントへの引き上げ時期が平成31年10月1日へ2年半の延期となり、年金納付期間が25年から10年に短縮されて社保制度の財政が厳しいことから、今後、社保未加入者への取り締りは一層厳しくなるのではないか」。

加入を果たした会社も安心していられない。東北地区警備業協会連合会「経営健全化推進委員会」は2月に盛岡市で、3月に青森市と秋田市で、“巡回セミナー”を行った。赤津紀正委員長は「社保加入期限以降、再び加入達成企業同士のダンピング競争に戻ってはならない。社保加入企業が健全経営のリーディングカンパニーとなり、業界を牽引してほしい」と訴えた。今年の各県定時総会で経営健全化の“決議”をして、経営改善の実現を図る。業界が社会的信頼を得るために、これからが勝負どころだ。

建設現場によっては、下請けに「健康診断結果の提示」を求める所も出てきた。警備業界では社保加入の先にある賃金、労働時間、福利厚生など“労務管理の改善”が課題の焦点になりつつある。警備会社の求人広告で待遇欄に“社保完備”と記されることは、やがて当然のこととなるだろう。

全警協は昨年末、会員各社を対象に「社保加入実態調査」を行った。結果は近日中にまとまる予定で、注目される。

 

【瀬戸雅彦】