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視点

五輪警備 事前の計画を万全に2018.4.21

「警備の成功は計画が8割」という話を聞いたことがある。

今月初めに設立された「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体(JV)」は、大会の成功に向けて過去最大規模の体制と計画づくりをスタートさせた。

大会中の観客数は、1日当たり最大約70万人、延べ約1000万人との予想もある(いささかオーバーな数字との感もあるが)。ともあれ、圧倒的な観客の来場は、最寄り駅から会場までの“ラストマイル”の的確な誘導に始まって、会場の出入り管理、手荷物検査などをいかに手際よく、迅速に対応できるかである。

事前に求められるのは、観客の動線など群衆行動を解析し、交通誘導、雑踏警備、手荷物検査などの効率的な計画を立てておかなければならないことだ。冒頭に書いた「計画が8割」とは、そのことを指している。東京五輪は、これまでに経験したことのない“一大警備”なのだ。あらゆることを想定した計画立案が成功のカギとなるだろう。

JVが大会組織委と締結した「覚書」によれば、警備の参加企業は100社、動員警備員は1万4000人が最終目標だ。ハードルをクリアするのは並大抵ではない。組織委と綿密な協議を重ね、政府、1都3県を中心とした自治体とも連携しなければならない。

今夏には具体的な動きの第一弾として、基本的枠組みに係る契約が予定されている。注目しなければならないのは、警備料金と宿泊施設についての2点だ。以下の記述は、筆者の“私見”であることを承知してもらいたい。

五輪の警備料金は警備員1人当たり「時給3000円」でいかがだろうか。人材確保の難しさは周知のこと。そんな状況下でスポット的な五輪に警備員を派遣することは、通常業務との兼ね合いにおいて多大な覚悟をしなければならない。少しでも五輪の成功に寄与したいとの思いを抱いている経営者を何人か知っている。

宿泊施設については、地域の中堅警備会社が強い関心を寄せている。「組織委、JVは施設を斡旋してくれるのだろうか」、「大会期間中、廉価なホテルは予約が殺到しているようだ。宿泊は自己責任でと言われても…」などの声があるのだ。難問であろう。

JVと組織委は、東京都に対して夏休みとなる都立の小・中学校の教室を借り受けてもらうことも一考ではないか。少子化による廃校利用を含めてである。聞くところによれば、昨今の小学校は水泳教習などで校舎が無人になるのは盆休みしかないという。それでも交渉の余地はあるだろう。文化センターの借用も考えられる。近くに銭湯があればなおよい。

こんな光景を想像した。警備員が地元の住民や父兄、学童と顔を合わせても、「警備員の人たちはオリンピックを手伝っているのよ」と理解を示してくれると思いたい。加えて言えば、1都3県には自衛隊の宿泊施設が多くある。宿舎の一部提供もまた、政府・防衛省との話し合いで実現するかもしれないのだ。

1998年の長野冬季五輪、東京の警備会社は長野市内の寺院の宿坊を宿泊所として借りた。寝具をトラックで運び、警備員は貸し切バスで移動した。引率した担当者は「住職は五輪のためならと快く応じてくれた」と語っていたものだ。

ロンドンとリオ大会では、民間警備会社の動員が大幅に不足する事態を招いた。東京五輪は日本の警備業界の人的動員力や組織統率力を世界に発信する絶好のチャンスである。それにも増して、五輪警備の成功は、警備業界のステータスを高める又とない舞台到来なのである。

1万4000人の警備員が掲げる旗幟は「日本の警備業ここにあり」である。7月の基本的枠組みは、最初の一里塚だ。JVと組織委には英知を結集して、優れた契約案を取りまとめてほしい。

【六車 護】

大会警備JV 頑張れ〝オールジャパン〟2018.4.11

「1964年の東京大会で世の中の信頼を得て飛躍し、今日に至った。2020年はその恩返し」(セコム・中山社長)、「双方の創業者は(五輪という)赤い糸で結ばれている」(ALSOK・青山社長)――。

「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体」が設立された。冒頭に示したJV共同代表となった2社のトップが設立式で語った言葉には、2020年東京五輪・パラリンピックへの強い思いが感じられる。

両社を中心とした大会警備JVは今後、100社・警備員1万4000人の“オールジャパン”での警備体制を目指す。

直近のリオ、ロンドンの両大会では、当初は大会警備を民間警備が担う予定だった。しかし、直前での警備会社の経営破綻や必要な警備員を集められなかったことなどにより、最終的に軍隊や警察が主体となった警備になった。2020年の東京大会では、その轍を踏むことは許されない。

人集め、教育が課題

警備業界では「募集しても人が来ない」状況が長く続いている。そのような中で、大会警備に必要とされる警備員1万4000人を集めなければならない。

この1万4000人という数字は、ロンドン五輪などを参考に算出されたとされている。AIや顔認証カメラなどに代表されるように、警備機器の技術進展は目覚ましく、多くの部分で人的警備をカバーできるようになってきた。しかし、“空前の規模”の警備体制が求められる東京大会では、相当数の警備員が必要であることは言うまでもない。

人材確保のためには、新たな人材の掘り起こしはもちろんだが、競技が開催される首都圏以外の地域での警備員確保、大会警備と通常警備業務との掛け持ちなど、ありとあらゆる手を尽くしたい。

女性警備員確保も大切なテーマだ。女性客の手荷物検査やボディーチェック、トイレや更衣室、授乳室など女性しか警備できない場面・場所は多い。イスラム教など宗教的理由から、女性には女性しか対応できない場合もある。

ただでさえ絶対数の少ない女性警備員を、今後いかに大会警備に振り分け、あるいは新規採用していくかは重要な課題だ。シフト管理の手間はかかるが、女性が働きやすい「短時間勤務」を数多く用意し、女性の採用拡大も進める必要がある。

もう一つの課題は教育。大会警備JVは、新任・現任教育はJV参加各社に任せ、五輪・パラリンピック対応の教育は「e―ラーニング」で行う方針だ。しかし、これに準じた各社でのフォローアップ教育は欠かせない。

五輪招致の際から言われてきた“おもてなし”を警備業務に反映させていくためにも、警備員の身だしなみや立ち居振る舞いから始まり、お年寄りや身体の不自由な人、外国人への対応などを、早期に教育していかなければならない。

ここで、ある経営者の言葉を紹介する。

「自分たちの世代には、2020年の東京大会は日本で開かれる最後の五輪。しかし、息子や若い世代には“次”のチャンスもある。五輪警備から得られるものは大きい。駐車場の端っこでもいい、大会警備に関わりたい」。同様の思いを持つ警備関係者は多いはずだ。わが国警備業界の“心意気”に期待したい。

【休徳克幸】

雇用管理 「支援センター」の活用を2018.4.01

慢性的な人手不足で、有効求人倍率は高止まりの状態だ。労働力人口は1995年の8700万人をピークに少子高齢化が進み、2030年には6700万人と8割弱まで落ち込むと予測されている。

厚生労働省は昨年度、人手不足が深刻な保育、訪問看護、運輸の3業種に警備を加え、雇用管理の改善を図る取り組みを行った。モデル企業を募集して社会保険労務士が雇用改善の訪問コンサルティングを無料で実施した。事業委託された三菱総合研究所は今年3月、都内でパネルディスカッションを開いて成果を発表。そこには人材確保と定着に向けた多くのヒントがあった。

警備分野のコンサルティングを行った社労士は、担当した警備会社2社の事例を報告した。

警備員300人が勤務する警備会社Aは、非正規社員がなかなか定着しない課題を抱えていた。社労士のアドバイスは「社内制度として『警備職に特化した限定正社員』を作る」だった。正社員に「限定」が付くことで、原資が許す範囲内での処遇見直しとなる。また事業所の基本的なルールである「就業規則」を周知し、非正規の労働条件と処遇の“見える化”を図った。

定着率が上がれば募集広告の費用を賃金などの処遇改善に充てられる。警備会社Aの経営者は、今月からスタートした、有期労働契約が通算5年を超えたときに労働者の申し込みで正社員に契約改定ができる「無期転換ルール」に向けて、この限定正社員制度を取り入れることを前向きに検討している。

2つ目の事例は、警備員数30人の規模で「列車見張り」を主業務とする警備会社Bで、業務の特殊性から新規入職者が集まらない悩みがあった。社労士は「ホームページを使って動画のわかりやすい業務解説を行う。職場見学会も開いてみてはどうか」などのアドバイスをした。複数の会社が連携して、鉄道駅構内に求人広告を掲示し魅力をアピールすることも提案をした。

列車見張り業務は試験合格が必須で、収入を得るまで3〜4か月を要する厳しいハードルがある。これを逆手に取り“手に職を付ける専門職”として現在仕事にやりがいを感じていない中高齢者にアピールし、転職を促すことをアドバイスした。さらに賃金を時間給や日給ではなく月給制にして、従業員の意識を安心につなげることも勧めた。

社労士は総括として「社内や業界内だけで考えず、外部のネットワークを利用し“第三者の視点”を入れることは効果的だ。『今までこれでやってきたからこのままでいい』と耳を貸さない経営者ほど会社の未来は危うい」と語った。

三菱総研は厚労省の委託事業としてコンサルティングで得られた知見を整理した事例集を企画・製作し、今月発刊する。警備以外の業種の事例も含まれているが、人材確保対策の検討にあたって参考になるものとなっており、本紙でもその内容を紹介する。

厚労省は今年度、新たな雇用管理改善の取り組みとして「働き方改革推進支援センター」を全国47都道府県の労働局に設置する。社労士など労務管理の専門家が常駐し、人材確保や賃金制度の見直し、労働関係法令についての助言など雇用管理全般の相談に無料でのってもらえる。ぜひ活用してもらいたい。 

【瀬戸雅彦】