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視点

特殊詐欺 社会全体で被害を防ごう2018.11.21

1日当たりの被害件数は44件、1日平均で1億円がだまし取られている――。

9月末での全国の特殊詐欺被害状況だ。今年に入って減少傾向が見られるが、首都圏や沖縄などでは被害が増加している。

特に東京は被害が深刻だ。9月末の認知件数は2946件で、前年の9月と比べて501件も増えている。詐欺グループは電話を使った手口に加えて、新たに携帯電話のショートメールやはがきを使う新手のだましのテクニックを拡大させている。

この事態に、警視庁はこれまで以上に特殊詐欺撲滅へ取り組んでいる。6月には東京都警備業協会(中山泰男会長)と「特殊詐欺被害防止対策協定」を締結した。その結果、東京警備協会会員が被害を防いだ件数は、2017年には18件だったのが今年はすでに43件で、そのうち協定締結後が27件となっている。全体からすれば1.5パーセントに過ぎないが、効果が現れている。

防止に最も役立ったのは施設や現金輸送の警備員による「声掛け」だった。

今後も更なる被害防止に努めるためには、声掛けに加え情報共有と活用が大切だろう。東京都豊島区内をパトロール車で巡回中に、携帯電話で通話しながらATMに入っていく高齢女性を発見して被害を防いだシンテイ警備(東京都中央区、得能芳明社長)の桂島祥光さんの言葉にヒントがある。「パトロールしていた地域は、詐欺が多発している午後の時間帯でした。事前に情報を得ていたので、注意して警戒し車の中から気付くことができました」と言う。犯罪情報を活用して詐欺被害を防いだ事例と言える。

だまされかけている人を見つけたときの対応も知っておきたい。東京警備協会の研修会で、被害を多く防いでいる警備会社から派遣された現金輸送部門の講師は「ATMで通話している高齢者を見掛けた際には、『あなたはだまされているのではありませんか』と言ってはだめです。言われた側は人格を否定されたような気がして、反発し話を聞いてくれません。『何かお困りごとはありませんか』と尋ねると、事情を説明してくれます」と話した。研修会の参加者は納得して、自社でもその対応方法を採り入れたいと話していたという。

情報と共に大切なこととして、桂島さんと研修会講師はそろって「自分は安全のプロなのだという意識を持ってもらいたい。常に周りでだまされている人がいるという、鋭敏な感覚で業務に当たることが重要だ」と話した。

業務外でも警備会社の人たちは、社会の一員としてだまされかけている人がいれば助けたいという心構えでいてほしい。警視庁と東京警備協会の協定締結後には、仕事を離れた休暇中の警備員がATMで被害を防いだ事例があった。まさしく社会貢献であり、業界のイメージアップにつながる行為と言える。

特殊詐欺は、お金を振り込もうする時に周りにいる人が注意することで防ぐことができる。社会全体で「声掛け」をためらわない意識が高まれば、だまされて辛い思いをする人を少しでも減らせるのではないか。

【長嶺義隆】

自家警備 人でなければ、再び2018.11.11

「自家警備問題」から1年が過ぎた。今では完全に終息した感がある同問題、果たしてそうだろうか――。

昨年6月、国土交通省は熊本地震などの一部被災地やその周辺地域で「“交通誘導員”が不足して公共工事の円滑な施工に支障を来している」と、建設業者自らによる交通誘導警備「自家警備」を推奨しているとも受け止められる通知を、総務省との連名で建設業団体や自治体に出した。

警備業界は、これに敏感に反応し、多くの業界関係者が「警備業をないがしろにするもの」と異を唱えた。

その結果、国交省は同年9月に自家警備を行う場合の条件として、▽警備業者が交通誘導警備員不足で業務を受注できない▽工事の安全上支障がない――場合に限るなど、「安全性を確保した運用を想定したもの」などと“補足通知”を出したのは記憶に新しい。

国交省が自家警備を行う際のモデルケースとしたのが長崎県での試み。県、建設業協会、警備業協会の3者による協議会の設置だ。背景には、警備業の他業種と比べて見劣りする雇用労働条件による入職者の減少、外国人観光客増加を受けた相次ぐクルーズ船来航による警備需要の増加、さらには高速道路網整備による工事増加に伴う交通誘導警備員の需要増などの警備業、特に交通誘導警備員の深刻な人手不足があった。

あれから1年。長崎警協によればその後、県内で4件の県発注の公共工事で「自家警備」の運用が検討、2件で実際に自家警備が行われたという。残る2件のうち1件では、警協が窓口となって警備会社を手配、警備会社による交通誘導警備が行われたが、1件では自家警備、警備会社の手配ともにできずに“工事保留”となった。

これは、あくまで県発注の公共工事での話であり、例えばマンション建設工事での現場ゲート付近での交通誘導警備など“民発注”の工事現場においては、推測だが多くの自家警備が行われていたのではないだろうか。

まず労働条件の改善

自家警備の原因は、言うまでもなく警備業の人手不足だ。今後さらに現在のような人手不足が続き、広がっていくならば、建設業からの「自家警備しかない」との声は強まり、全国に広がるだろう。

一方で厚生労働省は、警備業など人材不足に苦しむ業種に対してハローワークを中心にさまざまな支援策を講じている。しかし、ハローワークからは“警備業の労働条件の低さ”を指摘する声も相次いでいる。さらに、来春から関連法が施行する「働き方改革」、なかでも残業時間の上限規制と年次有給休暇5日の確実な付与は警備業界には大きな問題だ。

経営者側からすれば、「これまでのように残業させられない」、「有給5日を請求されたら、支払いと代わりの手配が大変だ」だろう。警備員にしてみれば、「残業できないと給料が減ってしまう」、「ずっと日給月給で働いてきた。休んで給料が出るはずない」だろう。今後の警備員のさらなる離職や入職減少が危惧される。

人手不足が解消しない真の理由を直視し、手遅れになる前に手を打つ。そうしなければ警備業の未来はない。

【休徳克幸】

警備の日 表彰事例、アピールしよう2018.11.01

11月1日「警備の日」は、今年で4回目を迎えた。慢性化する人手不足の中で警備業への理解を促進しイメージアップを図るため、業界一丸となってPR活動に取り組む記念日である。地域社会の人々に、暮らしに身近な“警備員の仕事”に関心を持ってもらう活動は、全国各地で年々、活発になった。警備業をアピールする方法は、アイデアによって、さらに広がってほしい。

警備の日は、業界外に向けたPR活動と合わせて、業界内への情報発信の役割も果たしている。全国警備業協会は「警備の日」全国大会を一昨年から開催し、<顕著な功労があった模範となる警備員>の表彰を行っている。

今までに合わせて12人の警備員が表彰を受けた。今年も表彰が行われることになっている。すでに警察、消防、自治体などの表彰を受けた全国の警備員の中から、特に選ばれた人たちである。

これまでの功労の内容では、台風災害時や踏切における人命救助がある。商業施設に来店した女性の様子がおかしいと感じた警備員が防犯カメラで女性の動きを観察し、飛び降り自殺を寸前で食い止めたケースもあった。交通誘導警備員が“助けを求めるかすかな声”を聞きつけて周辺を探し、負傷者を発見して救命につなげた例もある。このほか、強盗犯や放火犯の逮捕協力、ATMで振り込め詐欺の被害を3度にわたって防止するなどで、各社の警備員が表彰されてきた。

こうした表彰事例は、会社の垣根を超えた業界の財産と言える。似たような非常事態が、どこで発生するかわからない。業界各社は、自社の警備員一人ひとりに<模範となる警備員>の表彰内容を周知してほしい。緊急時の対応の参考になり、心肺蘇生法や初期消火など技能向上に取り組む励みとなるだろう。

表彰事例は、警備員の注意深さや観察力、的確な判断などの重要さを浮き彫りにする。警備現場で疲労がたまって感覚が鈍ることのないように、経営側が十分な休憩時間や交代要員を確保することは欠かせない。

医師が人の命を救うように、警備員も尊い命を助ける場合がある。前記の表彰を受けた人はもとより、多くの警備員が各地でさまざまな功績を上げている。業界に携わる人々が、求職中の若者や地域の人などに警備業をPRする際に、表彰事例について紹介すべきだ。警備員の具体的な活躍を説明すれば、イメージアップにつながる。

大切なのは、活躍を紹介するとともに“教育が原点にある業界”を強調することだ。例えば、自社の警備員が警察から感謝状を贈られた際には、SNSやユーチューブを活用して、こうアピールしてはどうか。<警備員は国家資格の検定取得や救命講習などでスキルアップに取り組んでおり、充実した教育体制から今回の功労が生まれた>。教育重視は、業界の好印象に結びつくはずだ。

人手不足対策に特効薬はないと言われる。対症療法の一つとして、PRの積み重ねは大事だ。警備員が担う役割の重みと合わせて、業界の誇りや魅力を発信していくことで、警備業の認知度を高めて求職者を掘り起こしたい。

【都築孝史】