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視点

労災撲滅2019.12.21

現場点検〝複数の目線〟で

令和元年が暮れようとしている。各社は今年も警備員不足の対策に悩まされ、さらに働き方改革への対応も求められた年であった。

こうした中、警備業法施行規則が改正され新任・現任教育の時間が短縮された。各社がどのような教育を行って業務サービスの質をより高めていくかが課題となった。また、警備業の認知度アップに向け各警備業協会による「警備の日」のPRが活発に展開した年でもあった。

人材確保と同じく業界の重要な課題に労働災害事故防止がある。警備業は、需要が拡大する一方で、労災事故の増加傾向が続く。全国警備業協会が10月に発表した加盟社を対象とする2018年度労働災害事故の実態調査では、事故件数2259件、被災者数2305人、ともに1986年度の調査開始以来、最多を数えた。業務災害の死亡者は前年度より減少したが16人で、うち12人が2号警備業務での被災だった。

同調査によると昨年12月から今年2月にかけて警備員の労働災害事故件数は増加した。年度末に向けて公共工事が増えて交通誘導警備の繁忙期を迎える中で、経営者は安全教育や職場環境改善などを行って、警備員の安全確保に最善を尽くさなければならない。

労災事故防止には、特効薬も近道もないと言われる。それは地道な努力の積み重ねであり、ミーティングでの注意喚起、指差呼称の徹底、ヒヤリ・ハット情報の共有、KYT(危険予知トレーニング)など基本的な取り組みを繰り返す中で安全が構築される。

交通誘導警備では、普通でない走行をする居眠りや飲酒運転などの車が接近してくる場合、緊急退避できる場所を常に確保して備える必要がある。大切なのは、警備員一人ひとりが、現在の職場でどのような事故発生が想定されるか考え、チームで防止策を話し合うことだ。“複数の目線”で警備現場を点検する。それは安全意識をより高め、労災事故撲滅を目指す連帯感も強めることになる。

併せて、管理職や教育担当者が頻繁に警備現場を巡察して業務の様子を丁寧に確認し、必要に応じて警備員に指導を行うことが欠かせない。現場に足を運ぶ回数が増えれば見落としていた問題点の発見につながるものだ。

資機材の適切な設置を

交通誘導警備の現場を巡察する着眼点の一つに、資機材の設置状況がある。事故を防ぐための看板や電光標示板、フェンスやバリケード、カラーコーンなどの設置方法が適切か点検する。安全強化のため警備会社が資機材を増設する場合、費用はユーザー負担となる。警備会社の提案を受け入れて追加の費用を出すユーザーは数年前に比べ着実に増えたという。

しかし中には、出費に難色を示すユーザーもいるようだ。首都圏で交通誘導警備を行う会社の幹部は「過去の事故事例を説明し資機材の増設を訴えても相手が渋る時は『安全対策が十分でない現場に、大切な隊員を立たせることはできません』と毅然と言って交渉すれば相手も考え直してくれるものです」と話した。

警備員がスキルを高めて現場の安全を守り、経営者が取り組みを重ねて警備員の安全を守ることは、企業の信頼度を向上させる。より安全を重視する職場づくりは、定着の促進につながり、新たな人材の確保にも結びつくに違いない。

【都築孝史】

自立経営2019.12.11

「変革の時代」見据えて

「自立」について広辞苑はこう書いている。

<<他からの援助に頼らず、支配を受けず、自分の力で判断して身を立てること>>。

対極に位置するのが「他力本願」であろう。再び広辞苑をひもとくと<<自ら決めようとしないで、もっぱら他人の力をあてにすること>>とある。

なぜ書き始めに右の2語を記したのか。それは経営者諸氏に自立の精神を大いに発揮してほしいと考えるからだ。その一方、中小企業が大半を占める警備業では、すべてとは言わないが、他力本願に身を委ねている経営者の存在が心配されるからである。

自立経営とは、生産性の高い会社運営に自ら知恵を絞り、経営基盤の向上を図り、警備員の資質と処遇の向上を目指すことに他ならない。業界の喫緊の課題とされる人手不足を乗り切る決め手の行きつくところは、賃金アップを具現するほかにないのではないか。

10月21日号の当欄、筆者は全警協や関係官庁による「警備業支援」の数々を紹介して「成長戦略に取り込もう」と呼び掛けた。支援策を短く再録すればこんな内容だった。

「全警協は各地で自主行動計画改訂版を解説。警察庁は施行規則の改定で警備員の教育期間を削減。厚労省は警備業の災害警備の労働時間を延長。全警協と厚労省は未熟練の警備員を守るために安全教育マニュアルを作成。厚労省は助成金制度の無料相談窓口を設置」etc.――

いずれも警備業界をバックアップする施策である。経営者は支援策を詳しく認識して、そのうえで自社の現状と照らし合わせ、工夫の手を加えて策を練る。これこそが援助に頼らない自分の力で考える自立の精神の発揮であろう。

自ら知恵を絞って会社を良くしたい、従業員に報いたいという思いから生まれた自立経営は、きっと実りあるものとして長続きするのではないか。さらに、そのことが先を見据えた変革の時代に対応するアイディアを生むことにつながっていくだろう。

「立入検査」で判明する怠慢

ひるがえって、自ら決めようとせず、もっぱら他人の力を当てにする他力本願にも言及したい。なんともガッカリさせられるのが「立入検査」の実態だ。他の産業界では“死語”になりつつあるのに、警備業界では行政指導が年中行事となっている。

警察による定期的な検査のたびに、教育懈怠(けたい)、警備員名簿の記載漏れ、外国人警備員の在留カード不所持などが指摘されるのはいかがなものか。皮肉を込めて言えば、怠慢をそのままに「何が不備なのか指摘して監督してください」と申し出ているのに等しい。

先々号の「視点」。同僚記者は社会保険にスポットを当て、検定資格を持たない交通誘導警備員の社会保険への加入率は58パーセントだと問題提起した。これは国交省が公共事業労務費調査の際に実施した雇用、健康、厚生年金の3保険すべてに加入する労働者個人単位の加入状況だ。

こうした状況を憂慮した政府は、短時間労働者への社保適用の企業規模を50人程度まで段階的に引き下げて拡大しようとする議論が始まったと書いた。その結果、中小警備会社にも社保加入が義務付けられ、立入検査など徴収義務を担う日本年金機構の権限は強化されることになるという。

重く受け止めなければならない。無為無策で他力本願を当てにしていたなら、やがて手痛い事態を招くことは必定であろう。

都府県の警備業協会では、研修会を開催して各種の支援活動が盛り上がりをみせている。中には明春の賀詞交歓会に研修会をセットする県協会もあると聞く。研修会へ足を運ぶなら、自社の経営にとって得るものはあるはずだ。他力本願から自立へ一歩を踏み出す足掛かりにしてほしい。今からでも遅くはない。決断と行動である。

【六車 護】

業法改正2019.12.01

今、教育に力を入れよう

警察庁が8月30日に警備業法施行規則改正を公布・施行して3か月が経った。規則改正によって教育時間数は、新任、現任ともに大きく削減された。

警備業務の需要が増え人手不足に苦しむ警備業界にとっては、新規採用者を少しでも早く現場に送り出せることに加え、在籍している警備員が現任教育に割いていた時間を現場業務に充てることで稼働率が上がるなどメリットがある。

警備業法が施行された1972年には、教育時間は新任20時間以上、現任10時間以上だった。それが警備員による不祥事が相次いだ結果、1982年に業法が改正されて教育時間が増加した。それから40年近く国民の安心安全確保に貢献し続け、生活安全産業としての地位を確立したことや「東京2020」を来年に控えて警備業務の需要が急増していることから、今回の教育時間数削減に結び付いた。

しかし、最低教育時間が減ったからといって企業が教育に力を入れることを怠ると、警備員の質の低下につながってしまう。それはその企業だけではなく、業界の将来を不安に追い込むことになりかねない。仮に教育不足に起因する業務上の事故が多発すれば、警備業に社会から厳しい目が向けられることになり、教育時間数を再び増やすべきだという意見につながるかもしれない。

株式上場している警備会社の9月中間決算を見ると、これまで以上に教育に力を入れていることが見て取れる。全6社が増収となったが、うち2社は本業のもうけを示す営業利益が減益となった。理由は、いずれの会社も警備員の処遇改善や教育費用の増加だった。

増益だった企業も教育への投資に力を入れている。業績が好調な今のうちに、警備員の質を高めておきたいという考えからである。そのうちの一社は、教育への投資は成長のために必要と捉え、警備員の能力を上げて単価の高い仕事を獲得したいとコメントしている。

中小や零細の警備会社に教育への取り組みを聞くと、法定教育に加え独自のカリキュラムを組んでいるという会社がある。その一方で、必要最小限にとどめているという答えが返ってくることがある。資金の問題もあるが、将来景気が後退した時に備えて内部留保に回したいという考えからだ。

将来に備えるのは当然だが、教育にお金を使って警備員の質を高めなければ、教育に力を入れる企業と警備業務の質で大きく差を付けられてしまう。西日本の警備会社社長は「警備業法施行規則改正で教育時間数が減って、私は歓迎している。当社はこれまで以上に教育へ力を入れているので、他社と業務の質で差を付けることができるからだ」と話す。

最近は警備の現場で人工知能を用いたネットワーク型防犯カメラや爆発物探知機といった、新たな機器の採用が相次いでいる。警備員が身に付けるべき内容は増えており、施行規則改正前の教育時間数でも足りないぐらいだ。

警備需要は「東京2020」後に一時的に減ったとしても、長い目で見れば増えると思われる。しかし需要が増えたからといって質の低い会社は発注主から選ばれず、レベルの高い警備員をそろえる会社に仕事が集中するだろう。

教育時間数が削減された今こそ、生き残りをかけて教育に力を入れるときである。

【長嶺義隆】