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視点

契約外業務 「有償」「隊員の納得」が前提2019.04.21

「工場警備で発注主から草むしりをするように指示された警備員が、そんなことはしたくないと言って辞めてしまった」――。3月に開かれた石川県と富山県の警協青年部会合同会議で出席者がこう発言したところ、自社でも同じようなことがあったという声が相次いだ。適正取引推進をテーマに、自社が抱えている問題点を発表し合った時のことだ。

この発言をきっかけに、建築現場で警備員が始業前にゲートを開けるといった契約時間外のサービス作業があることや、工事現場の清掃作業を指示されることが多いなどの報告が相次いだ。隊員は現場監督から、これまで現場を担当してくれた人はそれらの業務をしていたと言われると、断ることができないという。このような現状について、出席者からは警備員が不当な作業を要求されていないか現場を訪れて監視すべきだという提案があった。

警備員が行う仕事は警備計画書に記載されたもので、それ以外の業務をする必要はない。現場で契約外業務を指示された場合は、隊員には所属企業に報告するよう伝えておき、警備会社が交渉に当たるべきである。

全国警備業協会が昨年3月に策定した「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」でも、受注者は警備計画にない業務を要請された場合は契約外である旨を伝え、必要に応じ業務の範囲等を書面化し、有償で対応する。発注者が応じない場合は、契約外業務は行わないようにすべきだとしている。この「自主行動計画」を参考に交渉してほしい。

それでも発注主が無償での契約外業務を求めるなど不当な要求をした時は、自主行動計画では全警協の通報窓口や中小企業庁の事業である「下請かけこみ寺」に通報するよう求めている。いずれもフリーダイヤルだ。合同会議に出席した警備会社は、発注主に対して警備計画にない業務をさせるなら別料金を請求すると言っても聞いてもらえなかったが、「下請かけこみ寺」に通報すると言ったところ態度を改め、その場で料金交渉を始めたという。

警備会社が注意するべきことは、契約外業務の交渉をする前に現場の人間の意志を確認することだ。料金を請求できても、警備員がその業務を嫌がって辞職するようなことがあれば、人手不足にあって会社の受けるダメージは大きい。仮に業務を受けた場合は賃金がどのくらい上がるか、その業務内容をきちんと説明して、それを聞いた警備員が納得してから発注主と料金交渉するのが望ましい。

危険が伴う契約外の業務なら、拒否するべきである。合同会議では、工事現場で除雪車を使っての雪かきを指示された警備員が、雪かき刃に詰まった雪を取り除こうとして腕を負傷した事例が報告された。東京では一昨年、水まき中に感電した例もあった。万が一、命を落とすようなことが起これば、警備会社は社会的責任を問われることになる。危険な作業を強く求める発注主には、こちらから契約を打ち切ってもいいぐらいの強い覚悟がほしい。

東京五輪や復興需要の関連工事で警備需要が高まっている今こそ、不当な要求は受け入れないという意志を示す絶好の機会だ。警備員が気持ち良く働くことができる環境を整備することは、経営者の責務である。

【長嶺義隆】

新入社員 「体を張る社長」を見ている2019.04.11

スーツ姿もぎこちない、緊張した面持ちの若者たち――。千葉、埼玉両警備業協会がそれぞれ開いた「合同入社式」での光景だ。

合同入社式は、千葉警協は今年初めて、埼玉警協は今回で6回目を数える。全国でも数少ない、ユニークな取り組みだ。

入った会社は違っても、同じ警備業界を志した若者が一堂に会する合同入社式は、新入社員の「同じ警備業の仲間」という連帯感にもつながり、定着への効果も期待される。何よりも、「警備業界挙げて新入社員を歓迎している」というメッセージは、若者たちの心に響いてくれるに違いない。

人手不足と若者の警備業離れが言われて久しいが、式典での真剣な表情の新入社員の姿を見ると、あまたある仕事の中で警備業を選んでくれた若者に、「ありがとう」と言いたくなるのは筆者だけではないだろう。

しかし、その一方で、ある言葉が脳裏をよぎった。2月、埼玉警協の雇用促進に取り組む委員会のメンバーとハローワークを訪ねた折、職業紹介の担当者が語った言葉だ。

「最近の若い人はお金(給料)ではないんです。残業時間が少ない、休日が多いが決め手となるんです」。

“ゆとり教育”や“核家族”の中で大切に育てられてきたのが今の若者。求人票に示された残業時間や休日日数が、事実と異なると「会社に騙された」となる。親も「そんな不誠実な会社は辞めなさい」と後押しする。

さらに悩ましいのが、「働き方改革」のスタートだ。

新入社員は「年次有給休暇5日は10月以降には確実にもらえる」「長時間の残業はない」と信じて入社してきた。

いずれも法律で決められたこと。実現できなければ、若者は「会社は脱法している」と受け止める。はやりのSNSで「うちの会社はブラック企業」などと呟かれたら、会社は若者どころか中途採用の道まで絶たれかねない。

料金値上げへ行動を

年休、残業いずれにしろ、解決の道は二つ。人を増やすか仕事を減らすしかない。いずれの道を取るにしても、会社を維持していくためには「警備料金値上げ」は不可欠だ。

全国警備業協会が提唱、推進する「自主行動計画」や働き方改革による社会の意識醸成など、料金値上げのための環境は整いつつある。あとは経営者の覚悟と行動だけだ。

ある経営者の取り組みを紹介したい。同氏は当日の警備業務のキャンセルについて、「4月からキャンセル料100パーセントもらうことにした」と語った。居合わせた別の経営幹部は「そんなことして大丈夫?」と不安そうだったが、その経営者は次のように続けた。

「中には“別の警備会社探すよ”というお客もいる。そんなお客には、こちらから“解約”を通告しているよ。すると、“ちょっと待って”と言ってくる」。

「こんなことをしてたら、会社はつぶれるかもしれないね」と謙遜して言うが、同氏の言葉には自信が感じられた。さらに「今しかやる時はない」とも断言した。

「会社を守る」は「社員を守る」と同じこと。社員に寄り添い、体を張って顧客と対峙する――。そんな社長の姿を新入社員たちは見ている。

【休徳克幸】

価格交渉 積算基準を把握しよう2019.04.01

「働き方改革関連法」がスタートした。「年次有給休暇の取得義務」は、企業の規模にかかわらず全社に適用される。「時間外労働の上限規制」も順次施行され、警備員の増員が必要なことなどから“原資の確保”が一層重要となった。

そのための追い風は吹いている。警備料金のベースとなる「公共工事設計労務単価」が2月に国土交通省から公表され、人手不足の現状もあって過去最高の上昇率となった。これまで交通誘導警備員の単価は51職種中で最低金額だった。ようやく検定資格に合格している「交通誘導警備員A」が、草むしりや簡単な後片付けなどの単純作業を業務とする「軽作業員」を超える地域が出てきた。

しかし、警備員が他の産業と同じ水準の生活を維持するためには、まだ大きく不足している。労務単価に必要経費41パーセントと一般管理費を加える以外にまだ請求すべき費用があることは十分に知られていない。国交省は先月、「土木工事・業務の積算基準」の新年度版を公表した。そこには積算基準の改定として間接工事費をプラスに調整する“補正”について次の内容が示されてあった。

働き方改革推進の一環として「週休2日」の実現に取り組むための補正、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」を踏まえ道路工事で交通量や車線数などの現場状況による補正、工事現場の周辺住民の生活環境への配慮や広報活動を行うための補正、真夏日の熱中症対策のための補正、被災地域に向けた資材や工事車両の不足による作業効率低下に伴う補正――などだ。

土木工事に関わる警備料金の計算方法について、営業マンはしっかり把握しておく必要がある。全警協が昨年度から推進している「適正取引推進等に向けた自主行動計画」も熟読し違法取引にも精通した上で「料金」と「取引」の両面から理論武装し、最新資料を携えて発注元との価格交渉に臨まなければならない。

営業マンが知識を深める機会として、今年度は都道府県協会で「営業研修会」の開催を提案したい。岐阜警協が幾田会長の発案で料金交渉の成功例を発表した「警備業営業担当者研修会」や、全警協労務問題小委員会の松尾委員(岡山警協会長)が講師を務めた「警備料金適正化研修会」は反響を呼んだ。神奈川警協では協会非加盟業者も参加できるようにしたところ「こういう話が聞けるなら」と研修終了後に数社が加盟したほどだった。

他業種をみると、国交省がトラック運送事業者に向けた手引きとして「価格交渉ノウハウ・ハンドブック」を作成し活用されている。そこには価格根拠を上手に伝えることや交渉経緯を書面に残すことなど、交渉を成功させるためのポイントをまとめてある。警備業でも同様の知識と技術をまとめた手引きをもとに、業界全体で取り組むことが効果的だ。

適正料金を提示することで発注元に仕事を断られることもあるだろう。だが視点を変えれば発注者の善し悪しを選別する機会となる。適正価格を理解する発注者と長く取り引きが続けられるように警備の質を上げる教育や検定資格者を増やすなどの企業努力は不可欠だ。警備業への需要が高まっている今こそ効果的な価格交渉で原資を確保し、経営基盤を強化してよい人材の確保に専心してほしい。

【瀬戸雅彦】