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視点

警備の未来2024.04.11

「人と技術」で切り開こう

桜咲く入社式――。今年は開花時期が例年より遅く、新社会人の門出と重なる地域が多かった。新入社員が成長し各社にとって重要な戦力となる頃、警備業界はどのような景色を見せているだろうか。「警備の未来」に想いを馳せてみる。

業界が今、向き合う最大の課題は「人手不足」である。少子高齢化による労働人口減少はさらに加速しそうだ。総務省「人口推計」によると国内人口は12年連続で減少、2050年代には1億人を割るとみられている。

変化する状況に応じた判断や細やかなサービスが求められる警備業は労働集約型産業であり、中心となるのは「人」である。数ある職種の中から求職者に門戸を叩いてもらうためには、業界を挙げた取り組みがこれまで以上に求められている。

全国警備業協会は3月の理事会で「価格転嫁」と「広報」を新年度事業計画の中心に据えることを決めた。いずれも人の確保に関わる取り組みであり、警備会社の人手不足対策につながるものだ。

各社は賃上げをはじめ従業員の処遇改善を実現しなければならない。労務費の上昇分は発注元と価格転嫁の交渉を行い、適正な警備料金を確保してもらいたい。全警協が内容を見直し2月に発表した適切な価格転嫁に向けた“新・リーフレット”は、交渉現場で強力な武器となる。

警備業はこれまで、広報活動も十分ではなかった。暮らしのあらゆる場面で社会の安全に尽くす警備員は、やり甲斐ある仕事であることを広く知ってもらう必要がある。日常の警備業務での所作や制服、協会主催で秋に行う「警備の日活動」で広報効果が高い企画を練るなど、警備業を積極的にアピールしてほしい。

この仕事を選んでよかった

「人」の確保を図りながら、労働生産性を高める手段として「人と技術の連携」も欠かせない。それは業界のイメージアップにもつながり、求職者へのPR効果がある。3月に都内で開かれた「セキュリティーショー」では、これから警備業に広がる可能性が高い先進技術が数多く展示された。

「AIを使った映像解析」は施設警備の省人化と品質向上に役立つ。監視カメラの映像から不審行動や転倒などの異常行動をAIが検知して通報したり、映像記録の確認を効率的に行う技術だ。監視業務の手間や時間などを省き、負担を軽減する。

「管制システム」も浸透していきそうだ。警備員の上・下番報告や警備日報作成、管制からの現場連絡、警備員配置、勤怠管理などをデジタル化して効率性を高める。賃金計算や請求書発行などと連動可能なシステムもある。

「AIを活用した交通誘導制御システム」はすでに活用が始まっている。片側交互通行の現場で車両の通過数や渋滞状況を取得しAIが最適な信号切り替えを行う。現場にはシステムに精通したオペレーターを配置し、警備員の省人化が可能だ。

「人と技術の連携」が警備業の未来を切り開く。本紙は今号で「創刊400号」の節目を迎えた。約3年後、500号を迎えられた時には、先進技術の活用はさらに進んでいるはずだ。業界が一丸となって人手不足を克服し、新入社員が「この仕事を選んでよかった」と思える魅力ある警備業界を実現してもらいたい。

【瀬戸雅彦】

新卒採用2024.04.01

警備員のキャリアパス

桜舞う中、大手・中小の警備会社の門を新入社員がくぐる。インターネットが普及した環境で生まれ育った「デジタルネイティブ世代」といわれる若者たちだ。

新社会人として希望や目標を胸に研修を受け、業務に取り組む中で「この会社に入って良かった」「警備業界で働いていることは誇り」などと実感できる機会が増えるほど、業務に対する意欲は高まって定着も進むに違いない。

新卒採用は、学生優位の売り手市場が続いている。少子高齢化による就業者の減少に伴って各産業・企業間の争奪戦は一層過熱していくと見込まれる。

警備業界では新卒者の定期採用は大手企業が中心だったが、近年は中小企業にも広がってきた。社会のデジタル化、顧客ニーズの多様化、AI活用など変化が著しい時代にあって、自社の経営理念を理解し警備現場のリーダーを務め、組織の要となる「コア人材」は、企業の発展に不可欠だ。

長期的な視点から採用活動に取り組む警備会社は増えつつあり、各社サイトの「求人情報」では従来の通年募集(中途採用)とは別に新卒者向けに特化したページを新しく設けるなどしてアピールを図っている。

高校生は、大学生に比べると内定辞退が極めて少ない。高校生の就職情報サイトを運営する企業「ジンジブ」が新卒採用担当者に行ったアンケート(昨年11月実施、有効回答647人)によると、2024年卒の高卒採用で「計画通り充足した」と答えた企業は3割に満たなかった。採用成功のポイントは「給与や福利厚生」「(進路担当)教師との関係構築」。求人票以外の採用ツールは「パンフレット」「ウェブサイト」「ハローワークの合同企業説明会」などが上位を占めた。

人材獲得競争で抜き出るためには、一層の待遇改善を図るとともに警備業の役割や働きがい、自社で働くメリットをどのように学生に伝えるかが大切になる。施設警備、交通誘導警備を手掛ける150人規模の企業で新卒採用に取り組むある経営幹部は「学生や担当教師から見ると“警備員はキャリアパス(昇進や異動の道)が少なく、一般企業のように主任、係長、課長といったステップアップがない”と思われて応募のネックになっている」と指摘した。

若者が入社5年後、10年後の自分をイメージして具体的な目標を持てることは大事だ。警備員としてスタートし、努力して警備業務検定などの国家資格を取得すれば、班長や警備隊長にステップアップしていける。また、警備員指導教育責任者の資格を取得し教育に携われば、社内のポジションは上がっていく。本人の希望や適性に応じ、管制のマネジメント業務、営業職に転じる道もある。警備現場と管理職を経験した上で営業所長、経営幹部を目指すこともできる――。

学生が「この会社の警備員としてスキルを磨いて上を目指そう」と思って入社すれば意欲的な人材の確保に結び付くはずだ。社員の能力向上を認めて待遇に反映する人事評価制度の整備は新卒者へのアピールになるとともに、社内の定着強化にも効果が期待できる。

新卒社員が職場になじみ、母校の学生に「警備業は教育が手厚く、働きがいがあっておすすめ」などと伝えるなら、新たな人材の獲得につながることだろう。

【都築孝史】