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視点

適正料金 働き方改革を味方に2018.1.21

――人手不足、AI、IoT、東京五輪・パラリンピック、魅力ある職場、適正な警備料金――。

本紙では例年、警備業トップの方々から、年頭に当たっての自社や業界へ向けた決意、提言を「トップメッセージ」として寄稿してもらっている。

冒頭に列挙したのは、今年のメッセージで多く見られた言葉だ。深刻な人手不足をAIやIoTを駆使して克服し、2年余と迫った2020年の五輪・パラリンピックへ備え、更なる飛躍を目指すという前向きな経営者の強い思いが見て取れる。

しかし、業界全体を見渡せば、魅力ある職場づくりの原資となる適正警備料金の実現にはほど遠いのが実情だ。

「自社だけ料金を上げれば他社に仕事をとられる」、「長いお付き合いの客先には新たな料金を提示しづらい」――。そんな各社の事情も理解できる。適正料金を原資に、早急に魅力ある職場づくりを進めなければ、加速度的に進む人手不足の中、他産業に働き手を奪われていくばかりだ。

AIやIoTで人手不足を克服できるのは、現時点では一部の企業。多くの企業は従前の労働集約型で、人手がいなくなれば、いずれ企業として立ちいかなくなる。

近く通常国会が開かれる。テーマは、2018年度予算編成と「働き方改革」となるだろう。

昨年、厚生労働省は労働基準法など働き方改革関連改正法案を固めた。目玉は時間外労働の上限規制だ。これまで労使協定さえ結べば“青天井”だった残業を規制しようという試みは、長時間の残業を余儀なくされる警備業などの業種にとっては頭の痛い問題だ。

産業や企業の特殊性や現状を嘆いたところで、「電通事件」でより厳しくなった世間の目は変わらない。逆に企業努力の不足を指摘されるだけだ。

近く実施が見込まれる残業の上限規制への解決策は、より多くの人員確保による残業の平準化と生産性向上しかない。それには何と言っても適正警備料金実現による原資の確保は不可欠だ。

政府が声高に叫ぶ「働き方改革」を受け、24時間営業を取りやめる店舗も出始めたという。人の生命を預かる医師の残業も規制しようという動きもある。

警備業も、この大きく広がりつつある働き方改革の流れを上手く活用し、適正料金確保につなげたい。そして、それを原資に魅力ある職場づくりを進めれば、若い優秀な人材は集まってくる。逆に、この時流に乗り遅れれば、「長時間労働、低賃金」というブラック企業ならぬ“ブラック産業”というレッテルを張られ、産業の存続さえ危うくなることを肝に銘じなければならない。

2020年の東京五輪・パラリンピック、前年のラグビーW杯とプレ五輪、世界中で頻発するテロなど、警備需要の高まりには事欠かない。国民の「安全・安心」を求める声を、身近に実現できるのは警備業だけだ。そんな強い自信を持って適正警備料金の確保に臨んでもらいたい。

元日の午後、近所に散歩に出た折のこと。車も人も通らない通りで、水道管の緊急工事に出くわした。せわしく動き回る建設作業員の脇で、1人の警備員がてきぱきと交通誘導警備を行っていた。

「警備業、捨てたもんじゃない」。そんな思いを強くした年初めの光景だった。 

【休徳克幸】

謹賀新年 一歩前への勇気と構想力2018.1.1

旧年中は、ニュース取材・購読・広告出稿など、大変お世話になりました。

新しい年が警備業に携わる皆さまにとって、公私ともに良き年となりますよう心よりお祈りいたします。

小紙は今春「3・11号」で創刊6周年を迎えます。これも皆さまのご支援とご協力があってこそ積み重ねることができた「紙史の佳節」であります。

これからも同人一同は、警備業界発展の一助となりますよう、鋭敏な感覚で情報の発信を心掛ける所存であります。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

◇ 年の初めの今号と次号では、恒例となっている警備業界のリーダーの皆さんに「年頭所感」、「トップメッセージ」を寄稿していただきワイド版で掲載いたします。そのなかで多くの方々がこぞって言及されたのが「人手不足」でした。

人材を確保する〈人の争奪〉は業界内にとどまらず、産業界全域に拡大しているのです。とりわけ、2号警備の人手不足は「自家警備問題」の引き金になったことなど極めて厳しい状況にあります。今年も「仕事はあるのに人がいない」との嘆息を聞かされるのでしょうか。

昨年をふりかえってみましょう。2号の経営トップは、現場に立つ警備員一人一人に働く喜びを感じてもらい、警備員一人一人を尊重する、あらゆる方策、あらゆる手立てを講じたでありましょうか。その多くは、否と言わなければなりません。

何を成さなければならないかは明白です。「警備員の賃金アップの処遇改善。労働環境の整備。警備業のイメージアップ」の3点に尽きるのです。手をこまねくことは、もはや許されない領域なのです。

3つのテーマを積み重ねるとそのハードルは、あるがうえにますます高くそびえる壁となるのは必定であります。クリアするには大変なエネルギーと果断な行動をもってしても、うまく運ぶかどうかは疑わしい難物と言えるでしょう。

それでは、3つのハードルを季節に分けて、一つずつアタックする手法をとることも一考ではないかと考えるのです。具体的には、「賃金アップは年初から初夏にかけて。労働環境の改善は夏から秋まで。残りの月日をイメージアップに充てる」というものです。

2018年のつぎに迎える2019年はラグビーW杯、プレ五輪・パラリンピックの年です。成果は2020年の五輪本番につないでいかなければなりません。果たして1万人超の「人の確保」は可能なのか。業界は、まなじりを決して取り組むことが求められるのです。

◇ 新春合併号の当欄の習わし、読者の皆さんの琴線にふれる〈記憶にとどめたいことば〉に思いをめぐらせました。今回は国民栄誉賞の受賞が決まった2人の棋士です。

将棋で史上初の「永世7冠」を達成した羽生善治氏(47)はこう語っています。

「成果が出ないときこそ、不安がらずに、恐れずに、迷わずに、一歩一歩進めるかどうかが成長の分岐点であると考えています」――

囲碁で2度目の「7冠独占」を成し遂げた井山裕太氏(28)はこんな言葉を残しました。

「囲碁は全体を見て判断する力が勝負を分けます。どう進めていくかという〈構想力〉の要素が大きいと認識しているのです」――

【六車 護】