警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

求人の現場 まともな賃金にほど遠い2017.11.21

昨今の警備業で言いはやし、伝えられるのは「人手不足」である。それでは「求人の現場」はどうなっているのだろう? 先週の昼食どき、同僚と「ハローワーク新宿・西庁舎」に立ち寄ってみた。

きっかけは少し前。「週刊東洋経済誌」でショッキングな数字を見出しに掲げたページを目にしたからだ。そこには〈東京都の深刻な交通誘導警備員の不足、有効求人倍率は99.9倍!〉、〈全国では33.7倍〉という短文があった。

都内のハローワークでは、交通誘導警備員の仕事を探す1人に対し、なんと100人分の求人があるというのだ。統計対象には新規学卒者に関する求職・求人は含まれていない。いやはや、にわかには信じがたい数値だったのだ。

23階の求人フロアーは思いのほか広い。窓上には「あなたの就職 サポートします」の横断標語。10数個の丸テーブルには104台の求人を検索するデスクトップパソコンとコピー機(10枚まで無料)が並んでいる。

多くが中年の男性で、わずかに奥の席が空いていた。早速、東京都、年齢、業種、雇用・就業形態などを順次に入力する。業種は「他に分類されない保安の職業」に細分類された「道路交通誘導員(分類番号459―02)」である。

結論を先に書く。求人情報一覧表に明示された警備業の賃金(税込)は、フルタイムとパートタイムともに、いかんともしがたい安さのオンパレードだったのだ。となりの同僚に労働条件を示して声をかける。

「そっちはどうなっている?」、「こちらも同じ。これでは警備の求人票をコピーして応募を考える人はいないでしょう」。

その一例。就業形態で〈パートタイム〉を求めたA社は、企業規模数百人、都内ではそこそこ知られた警備会社である。〈時給欄〉には「18歳以上・960円」とあった。この金額、10月中旬に適用が完了した厚労省の中央最低賃金審議会が示した東京都の29年度最低賃金額「958円」に、2円を上乗せしてキリよくしただけである。

言うまでもないが、交通量の多い公道なら検定2級以上の国家資格を持つ交通誘導員が必要だ。A社の有資格者の時給は「1428円」だった。資格に見合った待遇であるとは言いがたい。

一方、求人票に〈フルタイム〉、〈月給制〉を明記。「週休2日。賃金18万7000円〜24万8400円。資格取得の法定研修は4日間で2万8000円と交通費を支給。昼食付き。採用予定10人」というのも見受けられた。それでも、ダンプカーの運転手など建設作業員と比べると5000円以上安い賃金だったのである。

およそ1時間半。私と同僚は沈む気持ちを引きずりハローワークを後にしなければならなかった。

今、各地区警協連合会の「会長等会議」が相次いで開かれている。思い出されるのは10月下旬にあった東北地区連の会合だ。「警備員不足への対応」をメーンテーマに掲げて協議した。印象が強い言葉があった。ある意味で核心をつくものであると受け止めた。

「人手不足は警備料金の低さが最大の要因だ。経営トップの意識改革が急務だが、一部の質の低いトップは研修会を開いても顔さえ出さない。業界がよくなるためには、非加盟社を含めて協力的ではない会社が“店じまい”(淘汰の意)するしかない」。

人手不足は更に加速が予想される。さりとて市場規模は縮小することはない。警備業界の進化において、今こそ英知を集めることである。「淘汰・業界再編」は東京五輪・パラリンピックで現実のものになるだろう。 

【六車 護】

値上げ交渉 「理論武装」と「付加価値」で2017.11.11

「11月1日・警備の日」を中心に、都道府県警協は業界イメージアップのため広報啓発活動を行った。人手不足が続くが、働き手の獲得なしに業界の発展はない。求職者に対し、魅力的な就労条件を提示する必要がある。賃金、福利厚生、労働時間などを他の業界に引けを取らない内容にするには、「原資の確保」が絶対条件だ。

神奈川警協は10月下旬に「警備料金の適正化」をテーマに研修会を開いた。畠山会長は労務単価の推移と現状を次のように訴えた。

「当県の交通誘導警備員の労務単価は、平成8年度までは建設業の普通作業員と同額の1万6500円だったが、同年の国交省の調査の結果、翌9年度は普通作業員が1万7000円に上がったのに対し、交通誘導警備員は1万円と大幅に下落。その後毎年下がり続け、平成16年には8400円まで落ち込んだ」。

翌17年から単価は少しずつ上昇に転じ、特に最近5年間は社会保険加入促進の政策として大きく上がったが、加入期限を過ぎた来年度はそれもなくなる。交通誘導1級の資格を持つ警備員は、普通作業員と比べ、依然として全国平均で約5000円安い。普通作業員とは『人力による土砂等の堀削、積込み、運搬などの“普通の技能”を有する者』。“専門技能”を身に付けた警備員の単価の方がはるかに低いのが現状だ。

研修の講師に招かれた全警協・基本問題諮問委員会調査部会員の松尾浩三氏は、建設業者に向けた積算見積りマニュアル「土木工事標準積算基準書」(国交省監修、建設物価調査会発行)を紹介した。本書では建設業の共通仮設費の積算方法として、舗装工事で大都市は2倍、市街地は1.3倍など、「共通仮設費の補正」について定めてある。

また交通誘導警備員の見積り計算式として、「交代要員なしの日中9時間労働」で1.2倍、「交代要員なしの夜間8時間勤務」で1.5倍にするなど、労働条件による補正も示されている。松尾氏は、相手(建設業者)の“懐具合”、つまり補正して計算された積算見積額を知った上で交渉に臨むことの重要性を強調した。

理論武装の大切さについては岐阜警協の幾田会長も、昨年営業担当者に向け開催した「営業研修会」で指摘していた。このとき事例発表した営業担当者の一人は、値上げ交渉に踏み切れない理由に、「ユーザーが契約見直しを考えることへの恐れ」を挙げた。そこで強い味方となるのは、他の会社に真似できない「付加価値」だ。

警備会社の業務は「安全・安心」を基軸として無限で、付加価値の創造は知恵の絞りどころだ。例えば2号が主業務のある警備会社は規制車を多く所有し道路工事に貸し出すサービスを行っている。IT企業と連携し、AI付き防犯カメラを開発中の警備会社もある。

昔から日本には、「金の話に控えめなこと」を美徳とする風潮がある。しかし警備業は長い間、ユーザーの言い値で業務を行ってきた結果が「ダンピング競争」となり、「社会保険未加入問題」や「人手不足」などの課題を生んできた。理論を固め付加価値をアピールしながら交渉を進め、十分な料金を確保しなければならない。

全警協は今、「警備業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック(仮称)」を製作中だ。営業力強化の指南書として期待したい。

【瀬戸雅彦】

好感度UP 人材確保の裾野が広がる2017.11.1

11月1日は、制定から3年目を迎えた「警備の日」である。これにちなむイベントやPR活動が各地で活発に展開される。暮らしに密着して安全を守る職業に、多くの人が目を向ける契機であり、警備業に関心を持つ人を増やすチャンスだ。

慢性化する人手不足の克服に向けた取り組みのひとつとして、警備業のイメージアップが求められる。イメージアップは和製英語で、「周囲や世間に与える印象を良くすること」である。警備の仕事に関して人々の好感度や親近感を今まで以上に高めることは、業界で働きたいと思う人を掘り起こし、人材確保の裾野を広げることにつながる。

サービス業として接遇のスキルを磨くことで、好印象を持つ人は増えるはず。兵庫県警備業協会がこのほど開いた「警備員のためのマナー講習会」では、日本航空の客室乗務員だった女性を講師に招いた。相手の印象をより良くする話し方、言葉遣いや態度などコミュニケーションのポイントを参加者は実演しながら身につけた。

企画したのは青年部会。宮﨑実部会長(兵庫警備保障)は、「警備業にとって接遇面は、成長できる“のびしろ”の部分です。警備料金が上昇傾向にある中で、質の向上を図りながら接遇も強化することで、ユーザーからの評価はさらに高まると思う」と趣旨を話している。

コミュニケーションの技量向上は、施設警備の手荷物検査で入場者に協力を求める場面やクレーム時の対応などにも役立つ。接遇サービスを一層充実させることで、接客業に興味がある人々を警備業に取り込めるに違いない。

“ゆるキャラ”活用も

近年、市町村のご当地キャラクターなど“ゆるキャラ”は、宣伝や話題づくりに活用される。東京都警備業協会は、ふくろうを模した協会キャラクターの名称を10月25日に発表した。名前は「とけきょん」。若者や女性に、警備業に対する親しみやすさを感じさせる効果がありそうだ。また、東洋テック(大阪市)が10月2日に発表した「てくまる」はグループ従業員から募集したデザインから生まれた。

中小の警備会社の中で、独自のキャラクターを持つのは神奈川警備保障(横浜市)。ホームページに登場する猫のガードマン“カナビーくん”は、平林尚子代表取締役が自身でデザインしたもので、社用封筒にも印刷する。「柔らかなイメージを打ち出すことで、社内外の人から会社に愛着を持ってもらうきっかけになればと考えます。日本人は『鳥獣戯画』の昔から、動物のキャラクターを好む傾向があるのではないでしょうか」と語った。

東京五輪・パラリンピックが近づく中、大会の安全を担う警備業がメディアに取り上げられる機会が増える。これは若者を振り向かせる上で追い風になるだろう。しかし人材の裾野を広げる努力とともに大切なのは、入職した人が長く定着するための取り組みをより広い範囲で進めることに尽きる。

「今は自分の子供を警備員にしたいとは思わないが、いずれは自分の子供を警備員にしたいと思える職場環境になってほしいと願っています」。これは50代の警備員が、ある研修会の意見発表で業界の課題として述べた言葉だ。処遇改善、長時間労働の抑制など職場環境の整備を一層急がねばならない。

【都築孝史】