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視点

人材確保 従業員の満足度を満たす2017.5.21

今年も、各都道府県の警備業協会が総会を開くシーズンとなった。会長挨拶で多く話題に出る言葉は「人材確保」だ。2号業務では発注を受けても警備員を出せない状況もあり、発注業者から「料金はいくらでも出すから」と泣きつかれることもあるという。

ハローワークは警備・建設・運輸・介護で特に労働力不足が進んでいることから、この4分野の対策窓口を4月に設置。求職者には業務内容を説明、企業には求職票の書き方をレクチャーするなど、両者の相談を一括で受けて迅速・的確なマッチングを目指す。愛知県警備業協会は全国に先駆け、「ハローワーク名古屋中」の担当者に連絡をとって説明を受けた。「国が警備業の人材確保を積極的に支援してくれている。加盟員に活用してもらいたい」と話す。

人材確保に効果がある取り組みとして、厚生労働省は「従業員の満足度アップ」を挙げる。これは一昨年、同省が企業に向け行った調査結果に基づくもので、従業員を満足させることで業績が向上するだけでなく量(人数)・質(スキル)ともに良い人材を得た。従業員の視点に立ち、賃金・労働時間・休日・福利厚生を改善する「魅力ある職場作り」が重要だ。

「人を大切にする経営学会」(坂本光司会長=法政大学大学院教授)が主催し厚労省が後援する表彰に「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」がある。企業が本当に大切にするべき人は、第1に「従業員とその家族」で、2番目が「外注先・仕入れ先」、3番目に「顧客」、次いで「地域社会」、それらの結果として「株主」――の順序とする。彼らに対する使命と責任を果たし、人を大切にする経営に取り組んでいる企業や団体を表彰し他の模範とすることが目的で、今年7回目を数えた。

「審査委員会特別賞」を受賞した「アポロガス」は社員数38人で、福島市を拠点にLPガス販売・メンテナンスなどを行っている。受賞理由は、原発事故後「住民が一人でも残っている限り地域のインフラを守るため事業継続する」をモットーに経営。社員を主役に自分たちで考え実践する“人財教育”を行い、難病の子どもたちに対する慰問、養護学校へのサンタ訪問など社会的弱者に対する社会貢献のレベルが高い、などだ。

「経済産業大臣賞」はトイレなど住宅設備機器などの製造・販売を行う「TOTO」が受賞した。社員数6653人の大手企業だが、過去5年間の平均離職率はわずか1パーセント。障害者社員304人のうち半数が重度障害者と精神障害者で、ほぼ全員が正社員。有休の平均取得率は76・1パーセント、社員の平均年収は業界の平均と比べて極めて高い、などが受賞理由だ。警備業と業種は違うが、従業員は仕事に意義を見い出し、働きがいを感じていることは想像できる。

福岡市の警備会社「ATUホールディングス」代表取締役・岩﨑龍太郎氏は、同表彰を主催する「人を大切にする経営学会」に所属する。4月21日「トップいんたびゅー」で紹介した通り、警備業で障害者雇用を確立すべく奮闘中だ。インタビューで国の支援を受けない理由を「社員に自立して働く誇りを感じてもらいたいから」と説明。取り組みは口コミで伝わり「入社希望」の連絡も多いそうだ。

従業員の満足度を満たす職場は、定着だけでなく優秀な人材確保にもつながる。効果が薄い募集広告に費用をかけるより、はるかに建設的といえる。

【瀬戸雅彦】

技能向上 適正料金と一体で2017.5.1

「警備員のスキルアップ(技能向上)」。取材をしている中で、この言葉を聞くことが増えた。各社が警備員一人ひとりの技能を磨くことは、警備業界が更なる質の向上を打ち出す中で重要な課題だ。かつての消耗的な低価格競争を脱し、質で競い合う時代になったことを象徴する言葉でもある。

「スキル」を辞書で引くと、<反復訓練の結果、習得した技能・技術>とある。現任教育の充実と強化、警備業務検定の合格に向けて会社が受講者に対して事前に行う“送り出し教育”、救命講習や消火器の操作、さらに接遇マナー教育などスキルを磨く対象は多岐にわたる。

高品質な警備サービスは、警備員と教育担当者が技能向上への努力を重ねた結晶として提供されるのだ。必要な資器材などを揃えて育成に力を注ぐため、当然コストはかかる。安全確保の原点となる教育・訓練の重要性と、自社の具体的な取り組み方法――これをユーザーに説明して経費について理解を求めることは警備料金の上昇につながるはず。その意味でスキルアップは、適正料金の確保と一体となるべきものである。

技能を高める努力と、財源となる原資の確保について、ある中小企業の教育担当者はこう語った。

「訓練を強化するために先行投資を行っても、料金アップが実現して回収できるとは限らない悩ましさはある。しかし信頼される生活安全産業であるためには、やはり先行投資が欠かせないと考えている」。

こうした真摯な姿勢からレベルの高い業務が行われることを、より多くのユーザーが理解してほしい。思いもよらない事件・事故は日々発生するが、それらを未然に防止するための技術を修得し、施設を訪れる人や工事現場を通る人に親切に対応しながら、もし事が起きた場合は想定される最善の方法で対処できる警備員は、リスク回避のために重要な存在だ。

社会情勢が変化する中、<これからの安全安心は、コストが反映される適正価格>という認識を警備業が広めていく時だ。

警備の現場で働く若い人からは「達成感がほしい」という声がある。地道な業務の積み重ねで昨日も今日も“何も起こらない状況”を保つことには、他の職業なら得られる明確な成果を感じにくい面があるようだ。しかし会社がスキルアップに重点を置き、従業員は自身の成長を知ることで達成感を得られるのではないか。

就職情報会社の調査で、働く目的の1位は「生活のため」だが「自分の成長」も上位にある。技能を磨き上げる過程で「この点で進歩した」と本人が実感しやすいよう、管理職が<評価する言葉掛け>を積極的に行うことが大切になる。また、社内の技能コンテストなど努力の成果を発表する機会があることもモチベーションを高めるに違いない。

他社の取り組みについて、情報共有を図る動きもある。静岡県警備業協会が3月に開いた警備員指導教育責任者研修会では、「我が社で行っている警備員のスキルアップ方策」と題して4社の指導教育責任者が、それぞれの取り組みを発表した。会員に一層の技能向上を呼び掛けて業界全体の発展につなげることが趣旨だ。

各社がさまざまに工夫して切磋琢磨し警備員の能力を高める努力の先に、より確実な安全と顧客満足がある。

 

【都築孝史】