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視点

最低賃金2023.09.21

さらなる賃上げ急ごう

10月から全国で新たな「最低賃金」が適用される。23年度の全国加重平均の最賃額は前年度比43円増の1004円。初めて平均額で1000円を超えた。実額でも現行の東京・神奈川・大阪の3都府県に加え、埼玉・千葉・愛知・京都・兵庫の5府県も1000円台となった。宮城など16県では800円台から900円台となった。

最賃引き上げの「目安額」を検討する厚生労働省の審議会では当初、全国をAからCの3地域に分け、それぞれ41円・40円・39円を提示。しかし、地方の審議会に移された議論では、同額を上回る引き上げが相次ぎ、佐賀では8円増、山形・鳥取・島根では7円増など24県で目安額を上回った。昨年来の物価高騰と企業の深刻な人材確保難に、審議会を構成する労使の意見の一致は早かった。

最賃は最低賃金法に基づく会社の義務。下回れば50万円以下の罰金が科せられる。

警備業でも今年2月、佐賀市内の警備会社が法定教育に要した時間に支払った賃金が県内の最賃額を下回った、として労働基準監督署によって検察庁に送検された。

全国の労基署に寄せられる従業員からの相談でも、最賃に関するものは上位を占める。企業側の適切・的確な対応は欠かせない。

最賃額の確認とともに忘れてはならないのが適正な労働時間管理だ。「1日当たり8000円」など日給制の多い警備業では、適正に残業代が支払われない限り、労働時間が長くなれば時間当たりの賃金単価は下がる。日給や月給が“最賃割れ”とならないよう、適正な労働時間管理は不可欠だ。

引き上げの環境は整う

中小零細の多い警備業では、最賃額や同額を辛うじて上回る賃金で求人を行っている企業が多い。警備業経営者にとっては、最賃引き上げは悩ましい問題だ。一方で、賃上げの環境は以前に比べ整備されている。

中小企業の人件費上昇などに対する政府の価格転嫁推奨、「価格交渉月間」の制定や「下請けGメン」の設置など中小企業庁や公正取引委員会による適正取引推進への支援、充実する厚生労働省の助成金――などだ。さらに、最賃は警備業だけに限らず全ての業種に共通するテーマである。警備業の顧客からの理解も得やすいはずだ。

過日、ある警備業経営者と賃金について意見を交わす機会を得た。同社ホームページにある募集広告には、交通誘導警備員・日勤日給1万2500円、夜勤日給1万4500円超(ともに資格なし)と、地域の賃金相場を大きく上回る額が記載。時間給に換算しても地域別最賃を大幅に上回る。

警備員数千人、売上高100億円を超える同社は、他社に比べて高い賃金と、時にはダンピングもいとわない経営手法から同業他社からは「仕事も警備員も持っていく」と非難されることもある。しかし同経営者は「交通誘導警備の労働環境は昔から悪い。以前は他の仕事より警備員の賃金が良かったから人は集まった。人を集めるために賃金を上げるのは当然」と、自信を持って語った。

全ての業種において人材獲得競争が激化、労働条件の引き上げが相次いでいる。最賃を僅かに上回る賃金では、もはや人材確保は難しい。さらなる賃上げの原資となる適正警備料金の確保は急を要している。

【休徳克幸】

救命処置2023.09.11

心肺蘇生、身に付けよう

状況は一刻の猶予も許されなかった――。神奈川県の逗子海岸で5月に行われた花火大会。打ち上げがピークを迎えた午後8時頃、観覧中の60代の男性が突然、倒れたのだ。

近くで雑踏警備に従事していたMMS(東京都台東区、阿部和弘代表取締役会長)の鎌田美海さんと中川宏一さんは、異変に気づき駆け付けた。男性が心肺停止状態であることを確認すると、警備本部に通報し直ちに心肺蘇生を開始。救命講習の会場と違い地面は柔らかい砂浜だったが、交代しながら懸命に胸骨圧迫を続けた。

救急隊が到着したのは男性が倒れて約10分後だった。心肺停止した場合、救命の可能性は1分ごとに10%下がり、8分経つと命を失う危険性が高くなるといわれている。消えかかった命を救ったのは警備員による初期段階の救命処置だった。男性は現在、社会復帰を果たすまでに回復している。

逗子消防局・行谷消防長は8月、2人の警備員に感謝状を贈呈した。消防長は「冷静で勇気ある行動とともに、しっかりとした警備員教育を行っている警備会社に対しても敬意を表したい。各現場に勤務する警備員の皆さまには、今後も救命の役割が求められるでしょう」とあいさつした。

MMSの鈴木知実社長は「警備員の仕事は人の命を救っても『当たり前』と思われることが多い。でも実は当たり前ではない。万が一の事態に備え、訓練を繰り返してきた当社の警備員を誰よりも褒めてあげたい」と話した。

警備員に救命の備えが求められる現場はイベント会場だけではない。筆者は8月中旬の休暇を利用して富士山に登った。混雑する頂上では、かねてから聞いていた「日本一高所での雑踏警備」を目にすることができた。

その場でALSOK静岡(静岡市葵区、宮田輝社長)の小澤康弘警備隊長に話を聞いた。「業務内容は登山客の誘導ですが、一気に頂上を目指す『弾丸登山』による高山病や低体温症などの応急手当にも対応しています」とのこと。

山頂は真夏でも平均気温5度、酸素濃度3分の2という厳しい環境だ。登山客は転倒や滑落で心肺停止状態となる場合もあり、頂上警備隊には登山技術や体力、高所への適応性に加えて、救命講習の課程を修めていることが必須条件だそうだ。

救急隊が到着するまでの救命処置は、雑踏警備や施設警備はもちろん、全ての警備員が身に付けてほしい。救命講習は一般の人でも消防署などで、普通救命講習は半日、上級救命講習は終日のカリキュラムで受講できる。

救命のノウハウを身に付ける取り組みは社会に広がっている。トスネット(仙台市宮城野区、氏家仁社長)のグループ各社は2015年から社会貢献活動として、各地の施設や企業を対象に「AEDを使った心肺蘇生法の講習会」を無償で開催している。9月までに開いた講習会は420回、受講者は1万人余に及ぶという。

9月9日は「救急の日」だった。救急業務や救急医療について正しい理解と認識を深め、救急医療者の意識高揚を図る目的で厚生労働省が定めた記念日だ。救急の日を含む一週間は「救急医療週間」と定め、応急手当の普及啓発が重点項目として挙げられている。

大切な人の命を守る心肺蘇生の知識・ノウハウを持つ人の輪が、さらに広がってもらいたい。

【瀬戸雅彦】

防災の日2023.09.01

技能を磨く、自分を守る

9月1日、多くの家々がかまどや七輪で火を使い昼食の支度をしていた午前11時58分、関東南部を激烈な震動が襲った。マグニチュード7.9、倒壊した家屋に台所の火が燃え広がった。強風にあおられ、東京の中心部は4割が焼失。死者・行方不明者は10万5000人、うち9割は焼死だった――1923(大正12)年に発生した関東大震災から、100年の節目となる「防災の日」を迎えた。

今、首都直下地震、南海トラフ地震の脅威が叫ばれている。7月には秋田、九州北部で豪雨災害が発生、お盆休みの列島は台風7号に直撃された。今後も予断を許さない中で警備業は、生活安全産業・エッセンシャルワーカーとして災害に対する備えを今まで以上に進め、災害時の対応力向上を図ることが顧客・社会から求められている。

警備員のスキルアップを警備業協会が助成金で支援する取り組みがある。島根県警備業協会(吉岡健二郎会長)は今年度、会員がAEDを購入またはリース契約する際に助成金を交付する新規事業をスタートさせた(5月1日号既報)。上限は5万円で、交付条件は普通救命講習の修了などだ。関心を寄せる会員が増えているという。

同協会は、県・県警と結ぶ災害協定について、より実効性を高めるため見直しを進めている。一方で会員に対しては、AED設置を拡充し救命スキルに磨きをかけるよう呼び掛ける。協定に基づく出動で会員の警備員が被災地の安全パトロールなどを行う場合、より手厚い安全確保につなげるためだ。

警備員の技能向上とAEDなど資機材の拡充は、日常の業務の質を高め、災害時の対応力を高めることに通じる。救命や二次被害の軽減を見据えた取り組みが警備業界にさらに広がれば、警備員に対する社会の信頼は一層厚くなるのではないか。

ガイドライン再認識を

災害が起こった時、警備員自身の安全をどのように確保するかは重要課題だ。全国警備業協会は昨年9月に「自然災害発生時における警備員の安全確保のためのガイドライン」を策定した。警備業者が「自らの命は自らが守る」という意識に基づき主体的に避難行動を取るための具体的な方法が示されている。

同ガイドラインは、避難行動では5分の遅れが重大な結果につながりかねないと指摘し「警備員に被災の危険が切迫していると判断した場合は、顧客の許可や指示を待たず、直ちに避難その他の安全確保行動を取る必要がある」としている。

警備員一人ひとりの責任感によって日々、適正な警備業務が遂行されている。いざという時、その責任感ゆえに我が身の安全確保が後回しになり、業務中に被災してしまう悲劇を防がなければならない。防災の日を契機に、より多くの関係者が全警協公式サイトで公開されているガイドラインを再確認して、警備現場での避難行動について警備員に周知を図ることは大切だ。

「防災に正解なし」と言われる。避難行動で複数の選択肢がある時、どれが正しいかは分からない。だからこそ日頃から防災関連情報に関心を持ち、過去の教訓を生かし、非常時のより良い判断、臨機応変の対応につなげなければならない。

【都築孝史】