警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

積算料金 「上を見る」挑戦をしよう2017.2.21

「上を見る」とは商売の言葉で、「元値に上乗せして売値とする」、「掛値をする」などの意である。物の本によると、江戸時代から慣用されていて、落語のネタにもなっているという。

こんな具合だ。店の主人が若い者に商品を手渡し「上を見て売ってこいよ」という。若い者は、言われたままに、ただ空を見上げて掛値ではなく、元値のままで売ってしまう。勘違いから生まれた戯れ話だ。

ただ、この話からは、いくつかのことに想いが広がる。主人(経営者)について言えば、若い者(従業員)への教育がなっていないこと。商品に対する価値観を認めず、家業としての誇りは感じられない。“丼(どんぶり)勘定”もいいところの商いである。

若い者にも一言を書きたいところではある。しかし、これは落語ネタである。ここでは、思い違いをそのままに、空を見上げる粗忽者を笑うだけの“枕”にとどめ、言いたいことは後述したい。

本題を前に、なぜこの笑い話なのか。結論から先に言えば、現下の警備業は、「上を見る」時期になってきたのではないかと考えるからだ。

「最低賃金」の“下”も重要だが、それよりも“上”の適正な警備単価のアップこそ、経営者が毅然たる態度で立ち向かってほしいテーマなのではないか。ただし、初めに書いた店の主人のような行き当たりばったりの値段の上乗せではない。それは、警備内容の「商品価値」、すなわち「警備の品質」を高める努力と結果を根拠とした上乗せだ。そのための礎となる取り組みは、検定合格者を含む警備員教育の推進に他ならない。

「品質の向上」が納得の域に達したとき、堂々と「上を見て、掛値」の設定が可能になるのではないか。となりの店(他社)よりは、商品の価値が高いのだから、横並びの賃金にすることはない。誤解を恐れずに言えば、警備業は共同受注でない限り、「同一労働同一賃金」など気にすることはない。

三位一体の協力が不可欠

そうは言っても初めには、厳しさが待ち受けていることは容易に想像される。しかし、辛抱の先には、きっと明かりが見えてくることも、また、確かなことではないだろうか。「経営の健全化」というゴールが近づくことである。

そこでは、従業員のやりがいを担保する報酬と待遇の改善がなされるだろう。社保加入の原資確保はもちろんのこと。働く社員は、人々の安心と安全を守る仕事に対し、きっと誇りを感じるだろう。

ゴールへの道筋で、疎かにしてはならない大事なことがある。これは初めに記した落語ネタの若い粗忽者に関わることだ。商いの最前線を担う営業マンとはいかにあるべきか。簡単に言えば、警備の受注交渉で正確な積算料金の説明能力を備えておかなければならないということである。

「上を見る(料金アップ)」場合、警備の品質、従業員のサービス対応など、簡潔で説得力のある説明が求められる。他社の受注値を引き合いに値下げを求められるケースは多い。そのときは、なおさら高いレベルの内容を説明する能力を発揮しなければならない。もとより、営業マンが示す積算料金は、経営者と現場と営業の3者が一体になって精査、作成されたものであることは論をまたない。

【六車 護】

テロ対策 日常業務の中で警戒を2017.2.11

「東京マラソン2017」が今月26日に開催される。ランナー3万6000人が参加する国内最大の市民マラソンだ。11回目を迎える今大会はコースが新しくなり、ゴールは「東京ビッグサイト」から「JR東京駅(丸の内口)前」に移る。

交通の便がよいことから、ゴール付近の沿道には多くの観客が集まることが予想される。それはすなわち、テロリストに狙われるリスクが高まるということだ。警視庁と大会関係者は先月29日、東京駅前のゴールエリアで「手荷物検査を拒否した男が爆発物が入ったバッグを置いて逃走した」などの想定で、実践的なテロ対処訓練を行った。

大会を主催する「東京マラソン財団」は2013年に米国で発生したボストンマラソン爆破テロ事件以来、不測の事態に備えた警備対策を推進してきた。2014大会からは「警備救護強化プロジェクト」をスタートさせた。巡回警備員を増やし防犯カメラを新たに設置。スタートエリアの入場ゲートに固定式の金属探知機を準備して手荷物検査を強化した。

今大会では、昨年以上の厳戒体制が敷かれる。ウェアラブルカメラを携行した警備員を倍増し、コース沿道とゴールエリアを巡回する警備員も増強するという。そのほか防犯カメラの増設、映像による画像解析、特別観戦用の招待席に持ち込む飲料検査機器の導入などが計画されている。

セコムの「セキュリティーリストバンドによる参加資格認証」が国内のマラソン大会で初めて導入される。前回の「ナンバーカード顔認証システム」に続く先進の認証技術で、引き続き採用される「係留型セコム飛行船」「ドローン検知システム」と共に今大会でも安全に大きく寄与する。

IS(イスラム国)が一昨年9月、ネット上の機関誌で日本をテロの標的として名指しして以来、国内でのテロ発生が現実味を帯びている。ALSOKは昨年5月と12月、警視庁と消防庁の協力を得て、東京三菱UFJ銀行とりそな銀行などで爆破テロを想定した訓練を実施。訓練シナリオ作成、機材を準備して訓練実施、訓練状況の診断と結果レポート作成などの支援サービスを行った。

警備業がテロ対策のため担う責任は重い。2015年11月にパリで起きた同時多発テロで、実行犯の一人がサッカースタジアムに入場するのを阻止したのは、一人の警備員だった。入場券を持っていなかったことから、強く拒否したのだ。自爆テロはスタジアムの外で実行されたが、もし試合中のスタジアム内だったら、パニックによる将棋倒しなども加わってより多くの死傷者が出ていた可能性がある。

テロ対策への取り組みは、各地の県協会でも行われている。昨年5月18日に群馬警協、今年1月31日には山口警協が“テロ対策の推進”を目的とした協定を、それぞれ県警と結んだ。テロリストは事前に下見をして対象物の写真撮影などを行うことから、警備員が日常の警備業務の中で、周囲に不審人物がいないか警戒することは未然防止につながる。

今月19日には札幌市で、「冬季アジア札幌大会」が開幕する。そして2年後のラグビーW杯、3年後の東京五輪・パラリンピックと国際イベントが目白押しだ。安全安心のプロである警備業は、市民を脅かすテロの対策に積極的に関与していきたい。

【瀬戸雅彦】

バリアフリー 設備と声掛け、安全守る2017.2.1

また駅のホームで痛ましい転落事故が起きた。1月14日、土曜日の午前7時過ぎ、埼玉県のJR蕨駅で盲導犬を連れてホームを歩いていた63歳のマッサージ師の男性が足を踏み外し、電車と接触して亡くなった。落ちる瞬間に男性はリードを離し、盲導犬は無事だった。

昨年8月に東京メトロ銀座線で、10月に近鉄大阪線で、ホームから視覚障害者が転落して死亡する事故は相次いでいた。

休日の午前中に東京郊外の駅のホームで、こんな光景を見かけた。初老の警備員が拡声器を持ち、「ホーム改良工事中のため一部、通路が狭くなっています」と丁寧に呼び掛けていた。ベビーカーを押す若い母親が電車のドアに近づくのを目にした警備員は、手助けしようと急いで近づく。母親は、今まで警備員や駅員に何度か手伝ってもらったのだろう、“大丈夫です”と言うように笑顔で会釈すると慣れた動作でベビーカーとともに乗り込んだ。

もし蕨駅ホームに警備員、駅員がいて目の不自由な人に声掛けを行っていたなら事故は未然に防げたのではなかったか、と思われた。

すでに国土交通省と鉄道各社は昨年12月、“駅員が介助者のいない視覚障害者に気づいた際は声掛けを行って誘導の希望を確認する”などの対策を取り決めていた。しかし周知徹底されておらず、蕨駅での事故当時、改札にいた駅員は盲導犬を連れた男性に気づいたものの声掛けを行っていなかった。

東京五輪・パラリンピック開催を契機としてバリアフリーの施策が広がる。ホームドアやスロープ、多目的トイレなど設備面の拡充は進む。同時に、さまざまな障害を持つ人や高齢者が交通機関や各種施設を安心して利用する上で、人による声掛けと見守り、必要に応じた手助けなどは、なくてはならないものだ。

生活安全産業として警備業は、バリアフリー社会の実現に重要な役割を担う。教育や各種研修において、福祉面でのお客さま対応に関する知識を身につけることは一層大切になるだろう。

東京都警備業協会の新任・現任教育の講師を長年務めて昨年、都の産業労働局長から感謝状を贈られ、1月24日の新年互礼会で東京警協の会長表彰を受けた青木幸雄氏(五十嵐商会)は、「福祉関連の『マーク』を警備員が把握していることが重要です」と指摘する。

都が制定し各県に広がっている赤地に白十字の「ヘルプマーク」は、外見では分かりにくい障害を持つ人が、支援を求めやすいようにカバンなどに付けるもの。聴覚障害者が車に貼るステッカーや、オストメイト(人工肛門などを付けた人)対応トイレのマークなどもある。青木氏は、「体の不自由な人を見かけたら、ためらうことなく、さりげなく言葉を掛ける」ことを受講者に教えている。

バリアフリー社会に向けて、スマホを使う新サービスもある。国土交通省は五輪・パラリンピックを視野に、スマホアプリ「ジャパンスマートナビ」の実証実験を昨年から今年2月末にかけて東京駅・新宿駅周辺、成田空港、日産スタジアム(横浜国際総合競技場)などで行っている。車いすやベビーカーを使う設定にすることで、階段を使わずエレベーターなどで移動する“段差回避ルート”が表示され、より安全な移動に役立つことが期待される。設備の充実、新サービスの活用、こまめな声掛けで安全が守られる。

【都築孝史】